第38話 卒業-2

 我がクラス最後のホームルームはやたらと盛り上がった。担任の先生には悪いのだけど月子に会っておきたかった僕は、ただひたすら早く終わってくれとばかり念じていた。

 しかし、実際に終わったのは月子のクラスよりも30分遅れで、校庭にはまだまだたくさんの生徒が残っていたが、そこに彼女の姿はなかった。

 後輩の女子に呼び止められて一緒に写真をとせがまれたので、そのついでに聞いてみたところ、どうやら月子は告白しようとする男子達から逃れるために、猛ダッシュで校門を飛びだしていってしまったらしい。

 なんとも情緒に欠ける卒業式だと呆れる一方で彼女らしいとも思う。振り向くことなく前向きに突っ走っていくのが彼女のスタイルなのだろう。

 しばらくしてから僕はようやく自分などが記念撮影をせがまれたことに気づき、遅ればせながら感動しつつ、卒業の余韻に浸っていると滝沢と田中が現れて、そこからまた大いに盛り上がった。

 けっきょく二時間近くも校庭で時間を潰したあとで、お互いに手を振ってそれぞれに帰路へと向かう。

 滝沢と花屋敷さんの大学は関西圏で、田中は関東だけど僕の大学からは遠い。それでも、ふたりとは落ち着いた後で連絡先の交換を約束したし、いずれまた会えるだろう。

 残念ながら爽子の学校とは卒業式の日程がズレているうえに、今日は用事があるらしくて夕方まで会うことはできない。今から彼女の町まで行ったところで時間を持て余すように思えたので、僕は取り立てて目的もなく商店街へと足を向けた。

 何度となく利用した書店やCDショップ。ファーストフードのお店に、たまに利用していた弁当屋。見慣れた街並みも、これで見納めかと思うと寂しさが込み上げてくる。

 ここは地元の町以上に僕にとって故郷も同然になっていたようだ。

 いつかまた来たいとは思うが、その頃にはきっと、いろいろなものが変わってしまっているはずだ。それは寂しいことだけど僕が高校で変わったように、街も変わっていくのが自然なことだ。そう思えば納得できないことではない。

 そして、僕はいつぞやの映画館の前で足を止めた。

 かつてホラー映画のものだった看板は、今はよく知らない洋画のものに変わっている。

 思い返せば、ここでのことも僕にとっては大きな意味合いを持つできごとだった。人生を決定づけたと言ってもいいぐらいだ。

 もちろん、あの映画だけは二度と見たいとは思わないが。

 うっかり内容を思い出しそうになった僕は踵を返して公園へと足を向けた。

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