第29話 不安-2

「ええ? なになにそれ? いきなりデートの約束とか。しかも海!」


 放課後になって、ようやく月子とふたりで話す機会を得た僕は、ひとまず電車の彼女との近況に関して報告していた。


「最近なんだか急に話す機会を得て、気がついたらそんな流れに……」

「いいわねぇ、青春よねぇ、どう考えても惚れられているわ。ご馳走様」


 どこか投げやりのように言ってくる月子。


「なんかえらく適当な感じだなぁ。惚れられてるとか本気で言ってるのか?」

「惚れられてなきゃ、そんな話にならないでしょ」

「け、けど、惚れられる理由が、そもそも見当たらないし」

「世の中には惚れる理由がないのに女の子を好きになる男も居るんだから不思議がるほどのことでもないでしょ」

「それって、僕のことだよね?」

「彼女はきっとビキニで来るわよ。あのはち切れんばかりのダイナマイトボディが、とうとう君のモノに」

「いやいやいやいや、なんかもう一足飛びどころじゃないし、そもそもどうして君は、いちいち発言が露骨なんだ」

「さあねぇ。欲求不満なんじゃない?」


 そう言って机に突っ伏してしまう。実際、いつもとテンションが違う気がしたけど、元気がないという感じでもない。

 今日のことを思い返しつつ僕は言う。


「滝沢と花屋敷さん……」

「うん?」

「上手くいって良かったよな」

「うん」


 月子は即答した。机に肘を突いて髪をかき上げるようにして頭を支えている。その表情はとてもやさしく、でもどこか寂しげにも見えた。


「月子、君は好きな人は居ないのか?」

「ええ、居ないわよ。わたしが好きな人はどこにも居ない」

「そうか……」


 嘘をついているようには見えなかった。

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