第13話 もう少しだけ-3
「それじゃあ、ゆっくり静養するのよ」
玄関に入ったところで月子は言った。
「うん……」
僕はぼんやりと頷く。
月子の問いかけへの答えを見つけられないことが気になっていた。
『君は何かを恥じているの?』
たぶん――いや、間違いなくそうだ。
なのに、それがなんなのかわからない。あるいは忘れてしまったのか。
頭を抱えようとして、僕はまだそこに月子が立ったままでいることに気がついた。
すぐに出て行くかと思ったけど、相変わらず自然な笑顔を浮かべて僕をじっと見つめている。不思議そうに見返すと、彼女はゆっくりと話しかけてきた。
「ねえ、三日森くん。わたし達ってまだ高二だよ。見てないものも知らないものも、世界にはまだまだたくさんある。どんなことであれ、結論を急ぎすぎる必要はないんじゃないかしら?」
なぜ急にこんなことを言われたのか――なんて首を傾げるほどには僕もマヌケじゃない。
同時にようやく理解していた。僕の昔話を聞き終えたあと、月子がすぐには何も言わなかったわけが。
それはちゃんと考えてくれていたからだ。
当たり障りのない慰めの言葉を口にすれば簡単に済むのに、わざわざ月子はあんな面白みのない話を咀嚼して、僕にかけるべき言葉を選び抜いてくれた。
月子の言葉の意味は、こんな僕にも理解できる。
あの事件を切っ掛けに、僕は誰も信じない、頼らない、アテにしないなんてルールを作って自分の生きかたを曲げてしまったけど、そんな判断を下せるほどには、僕は世界のことも人間のことも、よく知っているわけじゃなかった。
少なくとも、ここに月子が居る。
僕はそれを知らなかった。知っていれば、あんな決めつけはできなかっただろう。
「ありがとう」
自然と、その言葉がこぼれ落ちていた。
「考えてみるよ」
今さら急に生き方を変えるなんて難しい。それでも――
「考えてみるよ。もう少しだけ、ちゃんと世界を見てみる」
「うん」
僕の言葉に月子が嬉しそうに笑った。他に好きな人がいる僕にとっても、それはとても素敵で魅力的な笑みだった。
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