第14話 好きになってあげて-1
熱中症のあと、学校を2日休んだ。
頭痛はすぐに治まったが、ダメージがお腹のほうに来たのだ。おかげでこの2日ばかり、トイレを友として過ごすことになってしまった。
それでも3日目には復活して、僕は意気揚々と学校に向かった。ようやく朝の彼女に会うことができる。期待に胸を膨らませるとはこういうことなのだろう。今日はいいことがありそうな気がした。
「死にそうな顔してるわよ」
月子は僕に会うなり言った。
「そ、そうかな? 僕は元気だし、今日は天気だし、今日も僕らのクラスは殺気で満ちあふれているよ」
「活気でしょ、活気。殺気で満ちてるクラスってどんなのよ? 怖すぎるわ」
夏休みが近いせいか、ホームルーム前の教室はいつも以上に賑やかだ。僕のふたりの友人も、離れたところで、やたらと大騒ぎしている。
その光景を遮るように月子が僕の目の前に立つ。
「彼女に何かあったの?」
「…………」
僕は目を逸らした。真顔で月子が追い打ちをかけてくる。
「寝取られた?」
「だから、そんなことを、しかも教室で言うなよ~~~っ!」
思わず叫んだら、クラスのみんなが一斉にこっちを向いた。
ま、まずい。とりあえず僕は、なんでもないんだとアピールするために、笑顔でみんなに手を振ったが、こともあろうか月子がツッコミを入れてくる。
「よけいに怪しいなぁ」
「誰のせいだ!」
僕が言うと、月子はフッと笑って窓枠に腕をのせつつ空を見上げた。
「きっと誰も悪くなかったのよ。彼女もまた歪んだ社会の犠牲者だったんだわ」
「いやいや、そんな三文サスペンスみたいなノリで誤魔化されないぞ。だいたい自分のことを他人ごとみたいに語るのはどうかと思う」
ジト目で言うと月子はこちらに向き直って誤魔化すように笑う。
「ごめんごめん。けど本当にそっちの話なの?」
「今は言いたくない」
さすがに人目があり過ぎるうえに、いろんなところから注目されている。
「わかった、それじゃあ、また後でね」
それだけ言うと月子は僕に背を向けて自分の友人たちのほうに向かったが、問題なのは僕のほうの友人どもだ。
「どういうことだ、三日森?」
「どう見ても月子さんと仲良くなってるじゃないかっ」
滝沢と田中が口々に言ってくる。
「お前達が考えているような関係じゃないから安心してくれ」
適当に誤魔化そうと思ってそう言うと、滝沢が田中に問いかけた。
「俺はただの知り合いだと思っていたんだが、お前はどんな関係だと思ってた?」
「男と女の関係じゃないってことだけは考えていたぞ」
「てことは――」
ふたりは顔を見合わせて同時にこちらを睨みつけてきた。
「男と女の関係なのかーーーっ!!」
僕は面倒になって言った。
「じゃあ、そういうことにしとくよ」
「するなよっ!」
「信じねえよ、そんなの!」
どっちなんだ、まったく。
こんなバカなやりとりを聞いているのかいないのか、月子はどこ吹く風といった感じで友人たちとの会話に興じている。
そんな彼女を見て、ふと思った。確かに、僕が彼女に恋をしていても不思議じゃなかったな、と。
だけど実際には僕は彼女に恋をしていない。女の子として見ているし、魅力的だとも思うけど、僕としてはやはり電車の彼女が気になるのだ。
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