第10話 忌まわしい記憶-4
レールの上を列車は規則正しく揺れながら淡々と走り続ける。
昼過ぎの車内は朝と違ってガラガラで他の客は居ないようだ。
長々とつまらない話をしてしまった僕は、その間ずっと無言だった月子が気になって、そちらに視線を向けた。
目と目が合った。彼女も静かに僕のことを見つめていたからだ。
視線を逸らすタイミングを逸して、しばし見つめ合ってしまう。
僕は彼女が何か言うと思っていた。僕が今まで話していたつまらない話を聞いて。
だけど彼女は黙ったまま僕を見つめてくる。笑うでも慰めるでもなく、本当にただ見つめてくるだけだった。
僕はなんだか落ち着かなくなって瞬きしたり目を逸らしては戻したりを繰り返してしまい、最後にはいたたまれない気分で彼女の名を呼んだ。
「あ、あの、沢木南……?」
「月子って呼んで。同じ学年に姉が居てややこしいから」
「つ、月子……」
うっかり呼び捨てにしてしまったが彼女は気にしたふうもない。
「少し眠ったほうがいいわ。まだだいぶキツそうだし」
「あ、ああ」
頷いて、僕は素直に目を閉じた。
月子はああ言ったが頭痛はかなりマシになっていた。
それでも疲れては居たのだろう。規則正しい列車の揺れに身を任せていると睡魔はすぐに訪れる。
けっきょく、気弱になっているのだ。
あんな昔話を月子にして、僕は慰めてもらいたかったのだ。格好悪いことこの上ない。僕は月子に甘えようとしていた。
あの日、確かに誓ったはずなのに。誰も信じない、頼らない、アテにしないと。
「大丈夫だよ、三日森くん」
浅い微睡みに誘われながら、僕は月子の声を聞いた。
「わたしは君を裏切らないから」
それが現か、僕の願望が聞かせた幻なのか……判断がつかないままに意識は闇の中へと落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます