死神のクリスマス
Hiroe.
第1話
冬の街いっぱいに、明るい光が溢れていました。
あちこちから聞こえてくるよろこびの言葉とキャロル・ソング。
街はにぎやかに、教会はおごそかに、幼子の誕生を祝福しています。
降る雪のなかを速足に歩いている、黒い帽子に黒いコート。
あれはいったい誰でしょう。
死神です。
嫌われ者の死神が、街を歩いておりました。
「メリークリスマスだって!」
死神はつぶやきました。
「何がめでたいもんか。まったく、一年で一番嫌いな夜だ」。
死神には誕生日がありませんでした。
生まれたこともないのに生きている死神を、町の人はみんな嫌っていました。
生まれたことのない死神は、死ぬこともありません。
「だいたい人間っていうのは、この世のことしか考えていない。生まれてばかりいたって、何がいいもんかね」。
この世での役目を終えた人に、そのことを告げるのが死神の役目です。
死神は、神様と同じように正しく、平等でした。なのに、この世ばかりを愛している人々は、死神をのけものにするのです。
「生きているということは、いずれは私のもとに来るのだろうさ」。
死神は神様と兄弟であり、友人であり、敵であり、互いでありました。
誰か、死神のことを祝福してくれる人はいないでしょうか。
そうしてくれたら、死神も誰かを祝福できるのです。
賑やかな表通りの裏に、寂れた路地がありました。
そこには身を寄せ合いながら震える子どもたちがいます。
ひとりの男の子が、死神にかけよってきました。
そして差し出された小さな手。
物乞いの子どもを憐れんで、死神はいいました。
「私のところに来るかね?」
子どもはびっくりしていいました。
「行けないよ、ぼくがいなくなったら妹たちが悲しむもの」
「何人でもつれておいで」
どうせこの子たちは、冬を越さずに凍えてしまうでしょう。
「神さまみたいな紳士様。死んでしまった母さんも、あなたみたいにやさしかった」
死神ははっとして、子どもの手に一枚の金貨を乗せました。
「これであたたかいスープをのみなさい」
子どもは手を伸ばし、死神を抱きしめました。
冷えきった体は熱く、ふるえる肌の下ではどくどくと血がめぐっています。
生きているもののぬくもりを、死神は初めて知りました。
そのとき、死神は初めて熱く波打つ自分の鼓動を感じたのです。
「メリークリスマス!生まれてきておめでとう」
街はにぎやかに、教会はおごそかに、幼子の誕生を祝福していました。
死神のクリスマス Hiroe. @utautubasa
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