第4話
「漢字を取り戻す……でも、どうやって? そもそも漢字は取り戻せる物なんですか?」
「まあ待ってくれ。ゆっくり話すとしよう。まずどうやってについてだが……これを見てくれ、字井君」
そう言いながら孝男がコンピューターを操作すると、画面には円錐状の物体が映し出された。
「何ですか、これは?」
「これは封印だよ」
「封印?」
「ああ。合歓木君が言うには、少し前に目世界を支配する者が住まう城の上空に現れた物らしく、その時から目世界の住人達が体調を崩したり時には急死したりする者が出始めたらしい。そして調べた感じでは、その時期と私達が漢字を忘れ始めてしまった次期がおおよそ合致する。よって、わたしはこれを封印なのだと考えているよ」
「これがあるから漢世界は大混乱になっていて、それが理由で俺達の世界の人達は漢字を忘れてしまっている、と……でも、漢字人が死ぬ事は普通にある事なんですよね? だったら、その漢字人達はまた生まれ変わるんじゃ……」
「いや、合歓木君が言うには生まれ変わってないそうだ。だから、私は封印だと考えたんだよ。漢字人達が持つ漢字の力を封じながらその命を徐々に蝕み、漢字人達を殺す事で漢字という物を無くそうとしている封印だとね」
「でも、どうして漢字を無くそうとするんですか? 漢字が無くなったって人々は普通に生活出来ていたし、忘れてるならそもそも無かったのと同じなんじゃ……」
一記が疑問を口にすると、孝男は静かに首を横に振った。
「いや、結果としてかなり困る事になるよ」
「どうしてですか?」
「字井君、生まれなくなった漢字人の力はどうなると思う?」
「え? えっと……その代わりに誰かに受け継がれるとか?」
「その通りだ。力を水、漢字人を器としてイメージしてほしいんだが、本来は器である漢字人が死んでしまったら新しい器として同じような漢字人が生まれてそこに力という水が注がれる。けれど、漢字人が生まれなくなったら別の器が必要になる。そしてその器が誰かという事になるんだが……」
「今回の一件を起こした犯人がそれになるわけですか」
一記の言葉に対して孝男は静かに頷き、紅葉は暗い表情で俯く。
「どうやっているかはわからないけどね。けれど、急いで封印を無くし、また漢字人が生まれるようにさえなれば、力の受け継ぎ先として漢字人が優先され、犯人の目論みは崩れると思う。封印が力の受け皿となっているんだろうからね」
「なるほど……つまり、転送装置を使って目世界を始めとした色々な漢世界を巡って、そこにあるであろう封印を解けば、漢字は戻ってくるし犯人の企みを阻止出来るっていうわけですね」
「そうだと思う。それでどうだろう? 字井君、君にそれを託しても良いだろうか?」
「嫌だと言ったらどうなるんですか?」
「正直な事を言えば、君から拒否権は無くさせてもらった。私の発明によって君に関する様々な記憶は世界から消させてもらったからね。今ごろ戻っても君の事を覚えてる人はいない。つまり、孤独な生活を送る事になるわけだ」
「さっき合歓木さんが言ってたのはそういう事か……」
一記が辛そうな顔で言うと、孝男は申し訳なさそうに頭を下げた。
「酷い事をしてる自覚はあるよ。だけど、同じく漢字を覚えていた君だからこそ頼みたいんだ。頼む、漢字をあの世界に取り戻してくれ」
「浦野さん……はあ、わかりましたよ。俺も帰れないならどうしようもないですから」
「……ありがとう、字井君。今日からはここが君の家であり、私達の拠点となる。君を寝かせていた部屋は君の部屋になるから好きに使ってくれて構わない。あと、一応合歓木君とは同室で、君達はバディという事になるから、そこはよろしく頼むよ」
「はい、わかりま──え? ど、同室!?」
「博士、聞いてませんよ!?」
一記と紅葉が揃って驚く中、孝男は頭をポリポリと掻いた。
「合歓木君にも伝えてなかったか。すまないね、もう荷物は自律行動型アンドロイドに運ばせているから、しばらくは一緒の部屋に寝泊まりしてくれ。もしその生活の中で不都合があったらその時はまた別室にするから」
「そう言われても……」
「はあ、まったく……仕方ないからとりあえず行きましょう、合歓木さん」
「字井さん……わかりました、突然ですけどよろしくお願いします」
「うん、よろしく。合歓木さん」
一記と紅葉は孝男が見守る中で握手を交わすと、自分達の部屋となる場所に向けて歩き始めた。
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