第4話 (挿絵あり)「付き合ってるんですよね!?」

(挿絵:https://kakuyomu.jp/users/junpei_hojo/news/16817330667752139358


「それではお席の移動お願いしまーす! 学籍番号が奇数の人が移動してくださーい!」


 幹事の一声で各々飲み物を片手に腰を上げる。

 新歓は新入生との交流会。一ヶ所に固まるのではなくなるべく幅広い人との交流をさせようとの計らいなのだろう。

 さすがは大学最大規模のサークル。『皆と仲良く』という意識は文字通り会員全員を指すのだろうか。


 バンドを始めて幾分か人付き合いができるようになったが、根っこの性格が内向きな俺は少し尻込みしてしまう。今日だって空李さんと同席だから緊張が和らいでいたのに。


「移動だって。私は偶数だけど、金吾は?」


「奇数なので移動です。また後で落ち合いましょう」


 その空李さんとはしばしの別れ。今日は空李さんの飲み会デビューの付き添いであったが、改めてシルクロードの雰囲気を見て離れても大丈夫だと判断した。

 運営レベルで未成年飲酒の規制を徹底しているし、飲酒の強要もNGと通達されているので空李さんが酒のトラブルに巻き込まれる心配はないだろう。


 とはいえ酔った上級生に絡まれることは考えうる。


「一人でいてしんどくなったら呼んでくださいね」


 なのでこそっと耳打ちしたのだった。


「もう、金吾心配性だなぁ。皆良い人だからすぐに仲良くなれるよ、きっと」


 そういう意味じゃないんだけどな。空李さんならあぶれるどころか人気者になりそうだが、むしろ人気過ぎて大変な思いをしないか心配だ。

 とはいえ保護者ヅラして居座るわけにもいかないので指示通りシートを移動することに。


 さて、俺はどこに入れてもらおうかな。文学部の友達が所属していたはずなのでそこにお邪魔しようか。


「おーい、小早川くーん!」


 空いてそうなシートを探して彷徨っていると俺を呼ぶ女子の声が。

 はてな? 聞き覚えのない声だ。一体誰が呼んでいるのだろう。

 それとも聞き間違い?


「小早川君、こっちこっち!」


 声の主を探しながらゆっくり歩いていると手招きする女子学生の姿が目に入る。赤いセルフレームのメガネとショートヘアーの似合うすっきりした美人だった。


 え、あんな美人が俺を呼んでいる!?


 奇跡か、あるいは誰かの陰謀か……。


 俺は訝しみながらも手招きされるまま靴を脱いで空いてるスペースに腰を下ろした。


「こんにちは。えっと……前に会ったことありましたっけ?」


「何度か顔を合わせたよー。ほら、お互いこの子のツレだしね」


 と、そのメガネさんは隣に座っている女子――神田涼子の肩にしがみついた。

 キリッとした切れ長な双眸とシャープな小顔が目を引くクールな綺麗系。友人の身贔屓抜きでも今日の集まりの中でダントツの美人だと思われる。そのせいか近くの男子は先ほどからちらちらと涼子に視線を向けてはそらすを繰り返していた。


「よう、涼子」


「おつ、金吾。ホントに来てたのね」


「ん。空李さんも向こうのシートにいるよ。後で声かけてあげてよ」


 涼子は応とも否とも言わず烏龍茶の缶を口につけてグビグビ飲み干した。酒好きの涼子だがまだ未成年者なため本日はソフドリで我慢してるらしい。


「小早川君、ビール飲んでる。まだ二年生だよね?」


 俺の手元を見たメガネさんが怪訝そうに尋ねてくる。


「うん。でもこの前誕生日で二十歳になったから解禁だよ」


「あんた、誕生日いつだっけ?」


「四月九日」


「縁起悪いわねー」


 日。うん、確かに縁起が悪いよ。


「そう言う涼子はいつだっけ?」


日」


「縁起悪じゃねぇか!」


 はい、これお約束ー。誕生日の話題になると必ずやるんですよねー。


「あはは、あなた達って本当に仲が良いわね。あ、自己紹介遅れたけど、私遠藤えんどう榛名はるな。涼子と同じ経営学科ね」


「国文学科の小早川金吾です」


「金吾って呼んでもいい? 私のことも気軽に榛名って呼んでよ」


 メガネさん改め榛名が突き出したコーラの缶にビールをコツンとぶつける。


 なるほど、見覚えがあると思ったら涼子の友達だったのか。


「さーて、さてさて。ようやく話す機会が来たわね、金吾。あなたには色々聞きたいことがあるのよーん?」


「聞きたいこと?」


「そうそう。ご挨拶しとかないとねー?」


「「「ぶふぉ!?」」」


 一同、吹き出した。いきなりボディブローくらった格好の俺と涼子はもちろん、聞き耳を立てていた男どもも目を見開いて呆然としていた。

 榛名め、いきなり恋バナぶっ込んでくるとはなんという急アクセルぶり。さては飲んでいるのはコーラに見せかけたラムコークだな。


「(あれが神田さんの彼氏なのか?)」


「(あれだけ美人だとやっぱ男いるよなぁ……)」


「(はい、俺の学生生活終わった〜)」


 そらみろ。新入生がリアクションの取り方分からなくてざわざわしてるじゃん。空気が微妙になっちゃったじゃん。


「榛名、いきなりぶっ込んでくるなよ」


「そうよ! それに前から言ってるけど、私達そういう間柄じゃないし」


「隠さなくたっていいじゃないの〜。あんたらが仲良いことは皆知ってることなんだから、いい機会だと思って交際報告しちゃいなよー」


「何が『皆知ってる』だよ。俺達を公認カップルみたいに扱うんじゃありません」


 呆れてため息が漏れ出る。

 昔、クラスのえらく仲の良い男女が皆に囃し立てられてたけど、俺らそんな誤解を受けるような真似した覚えないぞ?


 仲の良い俺と涼子だが、学部が違うので顔を合わせる機会はあまりない。

 たまにすれ違えば声をかけるたり、たまたま図書館で会えば隣に座ったり、コマが空いて暇な時に待ち合わせてお茶するくらいだ。あとは定期的なサークル活動くらいかな。


 ……あれ、俺と涼子って意外と大学で一緒にいるな。まぁ、友達だし普通か。


「えー、あんなの見せつけておいて『付き合ってません』は通じないんじゃない?」


「あんなの?」


 俺は何のことか分からず首を傾げる。助け舟を求めて涼子に目配せしたが、彼女は頭痛でも起こしたみたいにおでこを押さえて「やれやれ」と首を振る。榛名はニヤニヤ、男子はソワソワ、その他の女子は色めきだった視線を向けている。


 あれ、俺だけ置いてけぼりにされてる?


 戸惑っていると、


「あの、小早川さんって入試の日にライブしてた人ですよね!?」


 女子学生の一人が興奮気味に尋ねてきた。両目をまん丸に見開いて真っ直ぐに見つめる様子は純朴な少女のようだった。


 そんな彼女の言う入試日のライブとは、俺が空李さんの激励のため大学の敷地内で行ったゲリラライブのことだ。あの日は空李さんだけでなく他の受験生も集まっていたので彼女はその中にいたのだろう。ということは彼女は一年生か。


「えぇ、そうですが……」


「それでそれで、一緒に歌ってたのが神田さんですよね!?」


「えぇ、私ね」


「お二人は付き合ってるって噂聞いたんですけど!?」


†――――――――――――――†

 今回は騒がしい涼子の友達・遠藤榛名と恋バナのエピソードでした!

 遠藤榛名……どこかで聞いたことあるような🤔

 https://kakuyomu.jp/works/16817330659066907525/episodes/16817330660197450746


 ぱっちゅん様からギフトを頂戴しました!

 こちらの作品もよろしくお願いします。🙇

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