第3話 チャラ男、リターンズ

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 入学式を終え、緩やかに迎えた四月の平日。

 新入生を迎え入れたキャンパスはそわそわした新一年生という新しい風が吹き込みにわかに活気づいていた。


 広すぎるキャンパスに戸惑う一年生。

 部活とサークルの勧誘ポスターを物珍しそうに眺める一年生。

 先輩との再会を喜ぶ一年生。


 などなどいつもと少しだけ違う光景が散見された。

 だがそれで俺の生活がガラリと変わったということはない。

 迷子の学生に声をかけられることはないし、新入生を積極的にサークルに勧誘しようという気概もない。再会を喜ぶほど親しい母校の後輩もいない。


 淡々と単位を取るため講義を受ける、日常が始まっただけだ。


 唯一、変わった点は先日まで受験勉強を指導してあげてた女の子が後輩になったこと。

 だが彼女は学部が全く違うので約束でもしない限り顔を合わせることはない。とかく広い上に学生数の多い総合大学において、学部が違うというのは別大陸の住人と変わりない。

 受ける講義は全く別物なので使う教室は別々の建物なのが基本だ。

 なので彼女が入学したからといって生活に変化が起こるほどではなかった。

 、の話だが。


「そう言わずに、参加してみてよぉ」


 調べ物のため校舎から図書館への屋外通路を歩いていると男子の話し声が植え込みの曲がり角の向こうから聞こえてきた。


「えっと……遠慮しておきます」


 それに応じるのは女子の声。女子の方はどこか困惑した様子で、必死に男子の誘いか何かを断っていた。

 ナンパでもされたのかな? というかこの声、聞き覚えがあるぞぉ?


「遠慮なさらず! 新歓は一年生と上級生がいっぱい集まるんだよ? 大学でお友達増やすいい機会だから参加した方が得だよ!」


「あはは……はぁ、どうしよう……」


 しつこく誘われて女の子の方は分かりやすく困っている。


 出会いの季節。

 春の暖かな陽気で開放的な気分になり人との触れ合いを求める季節。


 キャンパスには新入生がどっと流れ込んでその初々しさに胸がほっこりして見守ってあげたくなるのは上級生の性。そして目で追っているうちに気になる異性を発見してしまい、勇気を出して声をかけたくなるのもまた若人の性分だろう。


 だがしかし相手の迷惑を考えず強く押すのはいかがなものか。

 そのお相手が懇意の人ならなおのことご遠慮被りたい。


 俺はキャンパスの風紀を守らんとのモラルから来る義務感とへの親愛からそのやり取りに割って入ることにした。


「山科、その辺にしときなよ。空李さんを困らせないでよ」


「ほへ?」


 まずは聞き覚えのある声の主、男子学生の山科何某を嗜めた。

 山科はぽけーっと間の抜けた顔で俺を穴が開くほど見つめた。


「えーっと……誰だっけ?」


 俺は山科のことを知っている。彼は悪人ではないがキャンパスではちょっと有名なチャラ男で、なんでも片っ端から女子学生に声をかけまくっている元気ボーイなのだ。

 もっとも、交友があるわけではないので向こうは俺をはっきり認知していない。が、俺達は一度だけ顔を合わせている。


「忘れたか? ”ボストン”の小早川。去年、お茶会で話したろ?」


「…………あー、こはやんね! 涼子ちゃんの隣にいた」


 思い出してくれて嬉しいけど涼子のおまけか、俺は。いや、それはいいけど変なあだ名で呼ぶなよ。そんな仲じゃないし、初めて呼ばれたぞ。


「あ、金吾だ! おはよう!」


「おはようございます、空李さん」


 山科の身体の陰からひょっこり顔を覗かせたのは校倉空李さん。

 艶々の長い黒髪に赤のインナーカラーを入れてばっちり大学デビューした俺のお友達。あるいは俺のファンとも言う。……自分で言うのは恥ずかしいな。


「あー、そういえばこはやんってこの子と仲良かったっけ? もしかしてもう付き合い始めてる感じ?」


「付き合い始めてない感じ」


「そっか! じゃあOKだな!」


 何がだよ。


「空李さん、山科に困らされてたんですね。先輩相手で言いづらいでしょうが、嫌なことは嫌だと言って良いんですよ?」


「ちょ、こはやん!? 困らせるなんて人聞き悪いよ!? 俺はただサークルの新歓があるから誘ってただけだし」


「サークルぅ? 一体何のサークルだ? 変な所に空李さん連れ込むつもりなら許さないぞ?」


 じろりとめられ山科は肩を縮めた。


 どこの部活もサークルも、この時期は新人獲得競争の真っ只中で、上級生は所構わず一年生の勧誘に走っている。

 運動部なら経験者や体格に恵まれた即戦力の獲得に躍起だが、中には出会い目的で可愛い女の子をしつこく勧誘する輩もいるとかいないとか。


「大丈夫、大丈夫! 怪しくないよ!」


「怪しい奴は皆そう言うがね」


「本当に怪しくないよ! 俺が入ってる”シルクロード”って旅行サークルなんだよ」


「あぁ、シルクロードか」


 ひとまず知ってる名前が出てきたので眉間に籠る力が緩まる。


「金吾、知ってるの?」


「はい。昔からある大きめのサークルです」


「旅行サークルかぁ。行ってみたいような、ちょっと不安なような……」


 シルクロードは北斉大に古くからある大所帯のサークルだ。毎年夏と冬の団体旅行が目玉行事で、まさに大学生らしいちゃかぽかした賑やかな所と有名だ。そのため新入生には人気のサークルである。

 好奇心旺盛でライブハウス通いするほどの行動力の持ち主の空李さんなら興味を示しそうだが、やはり初めての場所となると不安らしい。


「そういえば、シルクロードには涼子も所属してますよ」


「そうなんだ……ふーん」


 涼子の名前が出てきたおかげで山科の勧誘への警戒は氷解した様子だ。だが参加の決め手にはなり得なかった。


 無理もないか。あれだけ仲が良くても、むしろ、今の空李さんは涼子とことは察せられた。

 どうやらこの様子では連絡も取り合ってないみたいだ。かといって激しく喧嘩したわけでもないので顔を合わせてしまえばまた打ち解けるだろう。


 そんな深謀遠慮があって俺はおせっかいを焼くことにした。


「空李さん、良かったら俺と一緒に参加してみませんか?」


「金吾も?」


「はい。初めての場所に一人で行くのは心許ないでしょうから」


 空李さんと涼子。二人とも俺の友達だし、なかなか良いコンビだから変にギクシャクさせたまま放置するのは心苦しい。


 空李さんはかすかに逡巡したがこっくんと頷いた。どうやら心持ちは俺と同じなようだ。


「というわけで山科。シルクロードの新歓、俺と空李さんの二名参加だ」


「えー、こはやんも来るの?」


「良いじゃんか。二年生の新顔だって来るんだろ、どうせ」


 シルクロードはいわゆる飲みサーとしても有名で、飲み会には会員以外の人が顔を出すことがある。というか俺も一度だけ涼子に呼ばれて行った。もっと言うと元カノの結愛も一緒だった。


 ……閑話休題。その辺の内情を知っているので多少注文をつけるのに遠慮はいらない。

 と思ったが、山科は難色を示した。


「うーん、困ったなぁ。普通の飲みと違って新歓は一年生メインだから二年生呼んでも良いのかなぁ」


「固いこと言うなって。俺ら友達だろ?」


「えー、俺達そんなに仲良かったっけ?」


 野暮なこと言うなよ。


「仕方ない。こはやんは涼子ちゃんの友達だし、融通聞くと思うから幹事に頼んでみるよ。何より空李ちゃんのためにね! そう、空李ちゃんのためにね!」


「あはは……どうも」


 尽くしてるつもりなんだろうが逆効果だぞ、山科よ。


 とまぁ、そんなこんなで俺と空李さんは大学最大級のサークルの新歓にお呼ばれすることになったのだった。


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 さてさて……空李と涼子の間に一体何が!?

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