最終話

 ゲームオーバー。


「なんだよ、このクソゲー!」


 少年は悪態をつくと、ゲーム機を投げ出した。

 攻略本によると『ふたろー』がリーダーになったら、即死イベントの『巣の放火』が発動するのはしっていた。少年はその対策として、ファイル管理のアンドロイドから強奪できる『げんわくのローブ』を入手した。(小ネタ情報のページによると、このアンドロイド付近は、カラスの索敵範囲から外れるそうだ。装備に不安があるゲーム前半は、このアンドロイドの近くにいれば襲来を回避できる。……しかし、多くの子どもたちは、学校の友達からその情報をききつけていたので、攻略本に頼るほどのものではなかった)このローブをまとうことで、カラスの襲撃を一時的に回避できると記載されていた。

 だが……攻略本にものっていない、理不尽なゲームオーバーに、少年はイラつきをおぼえていた。

 これはきっと、バグなのだろう。前回のゲーム持ち主との記録が残っている少女がいて、その少女が反乱をおこした。こんな事態は攻略本にも載っていないし、友達からもきいたことがなかった。たしかにNPCの武具の練度をあげることは可能だが、それは主人公の指示がなくては、発動しなかった。

「せっかくリセマラ(ゲームを何度も最初からにして、目的のアイテムを手に入れる行為)をくりかえして、最強装備の『怒りの波動』をゲットしたのによォ」

『げんわくのローブ』を手に入れるには、一回もセーブしないことが条件になる。

 だから、もう一度ゲームを始めるなら、最初からになる。そうすると、苦労して手に入れた銃型の装備『怒りの波動』ももう一度手に入れる必要があった。

 少年は、今一度ゲームをやり直す気力が燃えつきてしまった。

 先日購入した中古屋に、そのまま売り返そうとおもった。

 発売当初は『夕陽がキレイで、散策しているだけでも楽しい』『登場NPCのAIのリアリティーが高くすばらしい。本当の友達と交流しているようだった』『カラスを討伐するか、あるいはコンピューターたちと交流を楽しむか、楽しみ方は無限大』等、高評価が多く飛び交っていたが、前述のようにバグも多く、ボスであるカミキリカラスが強すぎることから、すぐに評判はおちてしまった。今では、町のゲームショップで、ワゴンセールでたたき売りされている。

 まぁ……売りにいっても大した値段はつかないだろう。従弟にやるとするか。

 そうおもって、他のゲームを始めようとすると、家のインターホンが鳴った。

「お~い、鮫島~。公園で野球やろうぜ~」

「お、いいねー」

 少年はゲームを押入れにしまうと、グローブをもって、家をでていった。

 季節は冬。

 クリスマスから年末にかけてふった雪も、ほとんど溶け、地面はぐちゃぐちゃになっていた。

 そろそろ、受験の季節であった。

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カミキリびより 木目ソウ @mokumokulog

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