後編

「ねぇ、茅ちゃんて、有來君と付き合ってるの?」


「え?あ、の、まぁ……」


「やっぱり!最近仲良いもんね!」


「なんんで急に仲良くなったの?」


「ほら、琥太郎君、音楽の授業、サボってたでしょ?それを注意してたら、何となく……」


「あはは!それって普通、仲悪くなるんじゃない?」


「でも、きっかけは何でも、有來君、最近明るくなったもんね。茅ちゃんのおかげなんじゃない?」


「そ、そうかな?」


クラスのみんな、最初は、授業をボイコットするような、琥太郎と、茅は似合わない、という反感や、冷やかすような場面もあったが、今では、微笑ましく、二人を見守っていた。






―二月―


「琥太郎君は、高校に入ったら、軽音部とかに入るの?」


「おう!勿論!」


「ふふ。やっぱり……。やっと、本格的に動けるね」


「……茅は?どこの高校行くの?」


「……N高校。県外なんだ……」


「え……」


「父親がね、転勤になっちゃって、単身赴任にしてもらえないかって、頼み込んだんだけど、今住んでるのもアパートだし、これから、転勤はないから、向こうに永住するだろうから……って……言われ……ちゃって……」


ぎゅっ。


琥太郎が、力いっぱい、茅の手を握った。


「俺が、有名になって、絶体、会いに行くから……」


「……ん……うん……待ってる……」


茅だけでなく、琥太郎も、泣いていた。中学生の別れは、きっと、遠すぎるに違いない。でも、大丈夫。そう言い聞かせるしかないのも、また、中学生なのだ。








―一年後―


『プルルルル……プツッ』


「……ここ半年、電話……出てくれないな……。琥太郎君……」


茅は、スマホを手に、ボソッと呟いた。


しかし、そうかと思えば、手紙はどっさり贈られてくる。毎日のように。しかも、何枚も何枚も、びっしりと、だ。


だから、不安になれば良いのか、喜んだらいいのか、茅は、ジェットコースター状態だった。


そんな、琥太郎が今、どんな状況に陥っているのか、茅は、知る由もなく、琥太郎も、言うつもりは無かった。


それより、琥太郎は、降り積もる茅への想いを、捨て去ろうと、していた――……。





―三ヶ月後―


『茅へ


  ゴメン。俺と別れて欲しい。本当に、ゴメン。


                      琥太郎』



「え……」


五日ぶりに届いた琥太郎から届いた手紙に、ウキウキしながら封を開けた茅だったが、そこには、思ってもみない言葉が書かれていた。


それも、たった、一行。茅は、急いで、スマホを鳴らした。でも、繋がらない事は、分かっていた。何故なら、もう、琥太郎の声を、八ヶ月聴いていなかった。電話に、出てくれはしなかったのだ。何かある。絶対、何かあるんだ……。分かってはいた。でも、余りに電話がつながらなくて、でも、贈られてくる手紙の内容も、想いも、本当だって、優しい琥太郎だって、中身は何にも変わっていないって、それも、分かっていたから。



茅は、お財布とスマホだけをバッグに入れて、急いで琥太郎のいる街に舞い戻った。


でも、茅は、琥太郎の家には行かなかった。きっと、だと分かっていたから。






―二人が出会った公園―


「琥太郎君!!やっぱりここにいた!!」


「!!??」


琥太郎は、凄く驚いた顔をした。でも、その表情は、すぐに、とても悲しい表情に変わった――……。


「どうして!?どうして別れないといけないの!?私、何かした!?私、何かいけないことした!?私の事、嫌いになっちゃたの!?」


悲しげな琥太郎に、茅は捲し立てた。


ブン……ブン……。


琥太郎は、ゆっくり、首を横に振った。


「じゃあ、なんで……。電話も……、全然……出てくれ……ないし……」


泣きじゃくりながら、茅は、一番聞きたかったことを、琥太郎にぶつけた。すると――……。



ごそごそ……、と、琥太郎は、鞄の中から、ノートとボールペンを取り出した


「?」


そこに書き出された文章は――……。


『声がでなくなった。喉頭がんで、手術した。俺はもう、歌手になれない』


「!!??」


茅には、大きすぎる出来事だった。高校生の自分が、たかが高校生の自分が、『受け止めるよ』とか、『大丈夫だよ』とか、そんな言葉、言っても、本当の本当に心から言っても、気休めにもならない事は、明らかだった。


『別れて欲しい』


琥太郎は、そう書いた。


「…………ふっ……うぅ……」


琥太郎は、泣かなかった。そっと、微笑んで、最後に、ノートを破って、折ると、茅の手に握らせ、公園から去って行った。



その最後の手紙を、茅はやっとの想いで開いた。そこには――……、


『【カブトムシ】、褒めてくれて、ありがとう。嬉しかった。俺の、最初で最後の、ファンでいてくれ』



胸に抱き締め、涙は切りなく零れ、生涯、忘れないだろう……と、本当に、こんな恋があるのだ、と、切なく、苦しく、胸が焼かれるみたいに、熱かった――……。

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ハナウタ @m-amiya

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