ハナウタ

前編

声に、急激に惹かれたことが、あなたには、ありますか――……?


歌に、けたたましく心臓が、高鳴ったことが、ありますか――……?



私は、あるんです。

とんでもなく、唐突に。

私は、惹かれたのです。

余りにも、生命が宿っている、と、思った声に。




それは、aikoの「カブトムシ」でした。






ただ――……、






歌っていたのは――……、





男の子、だったんです。














―ある日の放課後―


有來うらい君、どうして、音楽の授業、出ないの?」


私は、中学三年生の時、学級委員長になった。そして、なんの悪戯か、その三年生になった時から、音楽の授業に出なくなった男子生徒がいたのだ。


「そんなの、出てどうすんの?」


「え……だって、私たち、まだ中学生だよ?高校生と違って、選択授業とかじゃないし……」


「だって、何教えてくれんの?歌とか、ボイトレとかしてくれるなら、やるけど。皆でおんなじ歌、歌って、ソプラノ、アルト、テノールに分けて、上手いも下手も関係なく、平等でいい、って思ってる奴らだけで、やってればいいじゃん」


私は、少し、ムッとした。


「でも、下手な人が歌っちゃいけないって事は……」


「好きな奴が歌えばいいって言ってんの」


「え……?」


「俺は、皆で仲良く歌いましょ、ってのが嫌なだけ。別に、皆を否定してるわけじゃないよ」


「でも、それが、授業に出ない理由には……」


「…………、誰にも言わないか?」


「へ?」


篠原しのはら、口堅そうだからな……」


「え……まぁ……、堅い方だとは思うけど……」


「俺、歌手になるんだ」


「え!?」


「……声でかいし、驚きすぎ」


「だ……だって、じゃあ、尚更音楽の授業に出ない理由が……」


「俺は、歌わされる歌を歌いたいんじゃない。自分で歌いたい歌を歌いたいんだ」


有來君は、目を輝かせて、そう言ってのけた。


「そんなの、中学で早すぎるとか、夢見てんじゃないとか、非現実的過ぎるとか……、親は猛反対だよ。でもさ、俺は、俺の鼻歌を聴いて、『もう一度聴かせて』って言ってくれた女の子の事が忘れられないんだ……」


「……ハナウタ……」


「?」


「あ、ううん!何でもない!でも!授業は、出なきゃダメだからね!!私が、引きずってでも受けさせるから!!…………って、言えって……先生に言われてて……」


「あ、そこ言っちゃうんだ……。全然口堅くねぇじゃん……。大丈夫かよ……、俺の秘密……」


「そ、それは別!全然別!だ……誰にも……誰にも、いわない、よ……」


「……ん。サンキュ。んじゃ、俺も、ボイコット、辞めるわ……」


二人に、妙な緊張感が走る。


(なんだろう……この感じ……。なんか、胸が、ドキドキする……)


(なんだ?この感じ……。どっかで味わった気が……)


言葉が、急に途切れ、夕焼けに、二人の頬が赤く染まる。




それは、二人とも同じ感覚。



デジャヴ――……、とでも言えばい良いのか……。
















―十二年前―


「ママ、聴いて!」


「なぁに?琥太郎こたろう


「♪しょうぉぉぉおおお~がいぃぃぃぃいい~わぁぁぁああすれるぅぅぅうう、ことはないでしょうぉぉぉおおおお♪」


「まぁ、上手。琥太郎は、本当に歌が上手ね」


「うん!」





「…………」


かや?どうしたの?」


「今の、女の子だよね?こえ、すんごく高かったもんね!」


「あぁ……、でも、小さな男の子は、まだまだ声が高いの。茅が中学生になるくらいには、低い声になっちゃうのよ」


「…………そうなの?あんなにきれいな声なのに?」


「うん。そうよ」


「じゃあ!」


そう言って、その、という少女は、母親の手を解き、その男の子だという男の子に、駆け寄った。


「ねぇ!もういっかい、きかせて!!!今の、すんごく、きれいだったから!!」


「え……」


と呼ばれていた男の子は、いきなりのリクエストに、驚いた――……。





「ねぇ、有來君、昔、どこかで、会った事ない?」


「え?なんか、俺もそんな感じしてたんだけど……」


「私……、有來君の声聴くと、思い出すの。すごく、声の高い、小さな男の子……」


「俺も。篠原が笑うと、思い出すんだ……。もう一回歌ってって言った、あの女の子を……」





「「じゃあ、十何年前の公園の子って……!?」」


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