こちら、シクリッド前線基地。戦線は常に異常あり

常夏真冬

シクリッド前線基地奪還編

第一話 改稿しました

 セントラルシティの少し外れにある小屋を覗けば薄暗い部屋でテレビが煌々と光っていた。


『対魔戦争の英雄、黎明のメンバーは未だ消息を絶っており――』


 若い女性が淡々と話すニュースに飽きたのか部屋の主は大きなイビキをかいて熟睡していた。


『御存知の通り対魔戦争とは五年前に始まった戦争で私たち人類は――』


 ドンドンと家のドアが叩かれる。


「おーいカイン! いるー?」

『しかし特別小隊、黎明の英雄的活躍により今私たちはこの地で暮らせるのです』


 部屋の片隅でモゾモゾと部屋の主が動く。

 姿を見せたのは隈が酷い青年。黒髪はボサボサしており上半身裸だった。そこから無数の傷跡が見える。

 目を引くのは右腕の義手。それは本当の腕のように自然に動いていた。


『一方でジグラド帝国との戦争は依然と膠着状態で――』

「……寝落ちしてたか」


 青年はガシガシと頭をかいて立ち上がりテレビを消す。それから洗面所に行き顔を洗う。濡れた顔を拭くときに見えた双眸は暗く、しかし底冷えするような漆黒だった。


「カインってば! いるのー!」

「なんだぁ? ノエルか?」


 青年は面倒くさそうに玄関に向かう。


「朝からうるせぇんだよ。頭に響く」

「やっと出てきた! カイン」


 青年、カインは目の前の男性を見て悪態をつく。


「何の用だ。ノエル」


 ノエルと呼ばれた男性はカインより背が低く童顔で一見するとただの少年にしか見えなかった。

 しかし実年齢は四十代前半。年齢詐称も良いところだ。彼はカインの上官であり戦友だ。


「ちょーっと軍に来てくれない?」

「断る」


 カインは即答しドアを閉めようとするがノエルに阻まれる。

 お互いの力が拮抗しておりドアは閉じず開かずで膠着状態。しまいには力に耐えきれずドアが壊れてしまった。


「おい。俺の家を破壊するんじゃねぇ」

「君が素直に聞いていればこんな事にならなかっただろう?」

「ちっ。面倒くせえ。話だけは聞いてやる。入れ」

「お邪魔するよ」


 ノエルは我が物顔でカインの家に入っていく。その時ドアがいつの間にか直っていた。

 ノエルの魔法だ。

 素質のあるものは固有の魔法を持っておりその才能を認められたら国軍の魔法兵に入軍することができる。

 ノエルがその例だ。


「おっ良い胡椒がある。カインこれ持ってって良い?」


 ノエルが勝手にキッチンに行き、出しっぱなしにしていたパンを頬張っていた。


「駄目に決まってんだろが。で、話ってのはなんだ?」

「ああそうだ。魔国アリューシャンが宣戦布告した」

「なっ!」

「既にカリウスの国境付近まで侵攻している」

「ちっ戦争は終わったんじゃねぇんかよ」


 魔国アリューシャン。五年前に始まった対魔戦争はこの国が発端だ。そして二年前、カリウス帝国が少し劣勢な状況で永久不可侵条約を結んだのだが再び侵攻してきたみたいだ。


「不可侵条約はどうなってんだ。まあ魔族なんてそんなもんか」


 あれは人を簡単に欺き、殺す。人の形をした残忍な悪魔だ。

 魔族は人より力が強く寿命が長い。長く生きたほど厄介な魔族はいなかった。


「ああ。だから力をまた借して欲しいお願いだっ!」

「……ったくわかったよ。たぁだぁし!」


 カインはノエルの剣幕に押され取り敢えず了承する。

 カインはノエルの眉間に人差し指を立てる。


「てめぇら軍の言うことは聞かねぇからな。肝に銘じとけ」

「……分かった。善処しよう」


 ノエルは両手を上げて苦笑した。


「用が済んだんなら早く帰れ。俺は寝る」

「嫌っ今からセントラルに来てほしいんだけど……」

「てめぇに邪魔されたから俺は満足に寝れてねぇんだよ。明日になったら行ってやる」

「……こんな時にアイリスちゃんがいてくれたらなぁ」


 小さい声で呟かれた声はカインには聞こえなかった。


「軍服、用意しといてくれよ」


 頭をガシガシとかき地面に寝っ転がるカインを見てノエルは、相変わらずお人好しだな。そう思った。


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