第3話
「初めまして怪異使い殿。私の望みは交渉だ、時間を頂戴するよ」
中世の貴族のような赤色のタキシード。
閉じた目を加味してなお整った顔立ち。
日光を浴びてなお、アルビノと見紛う程の白い肌。
噂に聞く吸血鬼の姿そのままである。
「交渉…ですか」
吸血鬼の手首からは血が滴り、足元に鮮血の血溜が形成されゆく。
異能──魔力を使用しない超常現象の発動。
つまり魔法や超能力以外の方法で物理法則や自然現象等に反する現象を起こす力。
私の怪異召喚
方舟事件の鍵の異能
ダイダラボッチの質量操作
スフィンクスの謎解き
ファーヴニルの黄金竜
人間と怪異の両方に異能は異能者は噂レベルを含めなくても複数、確認されている。
そしてそれには吸血鬼も含まれている。
不運にも遭遇した警察やAROの部隊の戦闘記録からの推測混じりだが吸血鬼の異能は自己の血液操作。
「我が主が貴女と会いたいとおっしゃっている」
そして今、床には吸血鬼の血液が広がっている。
交渉と言いつつ、選択肢を与えるつもりも、譲歩するつもりも端から無いらしい。
まあ、怪異が何を喋り、謀ろうとする事は一つ。
殺す
足元の虚空に穴を開く、先手を取られる前に吸血鬼を沈黙させる。
「だから、私と一緒に──────」
「鎌鼬。付与、麻痺」
吸血鬼の首元に入る一本の線、箇所は頸動脈、脳に血液を送る重要な血管の一つ。
鋭利な刃物に速度を乗せた一閃は頸動脈を断ち切り血の雨を吹き荒らす。
鋭利な刃物に速度を乗せた一閃に断ち斬られた頸動脈から血の雨が吹き荒れ、吸血鬼は背中から倒れ伏す。
人間と身体構造が同じか確証が無かったが…どうやら同じだったらしい。
人間でも頸動脈を斬られた所で即死はしない。
ましてや吸血鬼なら人間の倍の時間は必要だろう。
故に鎌鼬に麻痺の魔法を付与して麻痺により行動を停止。
失血死までの時間は稼げなくてもトドメの時間を稼げれ──────
「っ塗壁!?」
吹き出していた血の一粒一粒が一斉に降り注ぐ。
「さて…出来れば穏便に済ませたかったが…仕方ない」
液体だった筈の赤色はライフル弾のような形状で、当たれば明らかに怪我では済まない速度で此方に迫る。
「透明な怪異か」
床から天井の隙間までをピッタリと埋める形で鎮座する見え無い壁が血の弾丸を完璧に防ぐ。
防がれた固形の血液は液体へと戻り、その度に塗壁に色を付け、やがて透明な塗壁の全身のシルエットがはっきりと浮かび上がる。
「この攻撃では突破には不十分か…ならば」
血の弾丸が塗壁にぶつかる音が止まる。
透明な塗壁がすっかり全身、真っ赤に染まったお陰で前方の視界は塞がれたも同意義だが弾丸の雨は止んだらしい。
次の攻撃が来る前に先手を打ちたいが…
「ふん!」
戦車の砲撃すら防いだ塗壁の体のど真ん中に私の頭が通りそうな穴が開く。
同時に飛び出した拳は間を置かず今度は手の平を見せる──────
「さて、そろそろ終わりしよう」
浮かび上がった魔力陣に体が咄嗟に後方へ飛び退き距離を取る。
中心に魔力が集まるのを感じる。指向性的に火属性の魔法か...?
「急急如律令────」
指先で虚空をなぞり
吸血鬼の魔法陣への後出しである以上、魔法の発動は向こうが早いだろう。
下手に競り勝つ事を狙って焼かれるより、相殺が限界か。
「ファイヤーボール」
吸血鬼の手の魔法陣、その中心に集まった魔力が現象へと変換され砲撃ような衝撃と共に撃ち出される。
手前の塗壁を溶かし、天井も壁も床も焼きながら私より大きな火球は迫る。
「火球」
同じく
火球の大きさの見極めに使った
コンマ数秒の差で発動した火球と火球が衝突する。
サイズ、火力、魔法規模、それぞれが殆ど同等の2つの火球はどちらが勝る訳でも無く、やがて込められた魔力を消耗し朽ち果て…いや、この反応は──
「二重魔法か...!」
「爆破」
吸血鬼の火球は込められていた魔法により過剰とも思える爆炎を起こしながら爆破を起こし私の火球もろとも爆ぜ、爆炎と熱風を全方位へ撒き散らす
咄嗟に魔力で全身を覆って保護する。
防御魔法に劣る、初歩的な使い方だが無いよりマシだ。
幸い派手な爆発と爆炎の割りに温度は高くないようでこんな防御でも軽い火傷で済みそうである。
「さて、これで任務完了だ」
爆炎と爆煙が晴れた焼けた部屋に抑揚の感じられない勝利宣言響く。
火球の衝突で乱れたのであろう身なりを整えながら吸血鬼が今まで閉じていた紅い目を開いた。
「勝利宣言はまだ────」
目と目が合う瞬間、意識と肉体が分離する。
「さて、では一緒に来て頂くとしようか、怪異使い殿」
異能者と超常存在 Ω @OME-GA
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