魔王の娘と勇者とその仲間達

東の大陸 コノル王国 王都カナル近郊


「.........聖剣、解放!」


ザアアアン!!!!


「グハッ!!」


魔王軍に攻め込まれ、陥落目前となっていた小国を救うべく現れた勇者一行。彼らは到着と共に魔王軍の最前線基地を潰し、体制を立て直すべく、後退する魔族達を追撃している最中であった。


「く、くそが!! なんで勇者がここにいるんだ! 今回の侵攻は他の国に情報が漏れないよう徹底していたはずだろ!」


「知らねえよ! とにかく逃げろ! 勇者と真正面からやり合うなんざ俺らには役不足だ!」


「役不足の使い方間違ってる!」


敵に背を向け後退していく魔王軍を、彼らの基地だった建物の屋上より勇者達は見ていた。


「ふう、案外余裕だったな」


「駄目ですよアッシュ、油断しては。あなたの実力は確かなものですが、いかんせん油断して足元をすくわれがちですから」


「う、うるせえよ!」


「そうそう、それに世界中から頼りにされてる勇者がそんな言葉遣いなんてよくないんじゃない?」


「ぐ、ぐう」


先程から、メガネをかけた僧侶の男と、いかにも根明そうな魔術師の女にお小言をもらっている青年。彼こそがこの国を救いに来た勇者である。


「分かってるって、ジオ、サリア。油断も慢心もしねえ。昨日誓ったからな」


「どうでしょうね」


「どうだろうね」


「なんだお前ら! 喧嘩か? 喧嘩売ってるのか!」


思いっきりガンを飛ばす勇者と、それを楽しそうにあしらう2人。だがここにいるのは3人だけでは無く、ここコノルの防衛隊の隊長も彼らのやりとりを見ていた。


「勇者様、それにそのお仲間方、魔王軍を退けて頂き、ありがとうございます」


そう感謝を述べた黒髪の男。彼はこのコノル王国の騎士団団長であり、今回結成された防衛隊の指揮も任されていた。


「いやいや、別に感謝なんていらないぜ? 俺は勇者なんだしみんなを救うのは当たり前のことだ」


「おお、先程の会話を聞いて、もしかして勇者様はガラが悪い人なのかと思っておりましたが、そんな事は無かったのですね」


「く、おい、お前らのせいだぞ!」


「人格者であり、ガラが悪い人でした」


「結局ガラが悪いんじゃねえか!!」


防衛隊隊長、クレアも最初こそ勇者との対面に緊張していたものの、アッシュの親しみやすさに気づき、すっかりフランクとなっていた。


「ところでお三方、どこからコノルが魔王軍に襲撃されているという情報を入手されたのですか?」


と、クレアは勇者が加勢に来るという事を聞いた時からずっと疑問に思っていた事を問いかける。


「ええ、実はたまたま通りかかった旅人からコノルが襲われているという事を聞いたのですよ」


ジオの説明にクレアは更なる疑問を抱いた。


「おかしいですね、魔王軍は私達が援軍を呼べないように、隣の地域へと通れる唯一の森を封鎖していました。ここコノルは山に囲まれた国ですから、その森を通らないとなると、乗り越えるのは不可能とまで言われる岩山しかないのに」


クレアの言う通り、コノルから他の国へと行くには、実質的にその森を通るしかない。しかしその森は魔王軍に占拠されていた。


「え? まじか? おいジオ、じゃああの旅人はどこから情報を手に入れて、どこから来ていたんだ?」


「空でも飛んできたんじゃないの?」


「いや、ありえねえだろ、空を飛ぶには翼が必要だ。それもかなりでかい奴だ。そんなのあの旅人についてなかったぜ」


謎が謎を呼ぶ状況だが、ジオはその旅人の正体について、一つ思い当たる事があった。だが仮に言ったとしても信じてもらえないのでみんなに伝える事はないが。


「まあ、その話は後でいいでしょう、今は魔王軍を完全に東の大陸に追い払う事が先決です」


ジオが話題を逸らそうとした瞬間、急いで階段を登ってきた兵士が息絶え絶えにこう言った。


「勇者様! 団長! 報告です! 後退した魔王軍が再びここに前進してきています!」


「!?」


「な、馬鹿な!? 勇者様による奇襲により、奴らの指揮体制は崩壊したはずだ! こんなに早く体制を取り戻し、進軍を開始させるなどあり得ない!」


「マジかよ、ちょっとは休ませて欲しいもんだぜ。まあやるしかねえか」


「うん、そうだね! はりきってこー!」


「軽くないですか!?」


予想外の報告に驚いているクレアをよそに、2人はもうやる気満々だ。


「この2人はあまり物事を深く考えないタチですから。敵が来たら戦うだけですよ」


「そ、そうですか、ではなく! どうやってこんなに早く奴らは」


「恐らく、コノル側に勇者という援軍が来たように、魔王軍側にも援軍が来たのでしょう」


パニックになりつつあるクレアを落ち着かせるべく、ジオは冷静に考えを述べる。


「え、援軍ですか?」


「ええ、瓦解した指揮体制を即座に回復させる事ができ、そしてすぐさま進軍命令を出せるほどの権限。そんな者が加勢に来たようですね」


クレアは困惑していた。何故ならジオの説明通りなら援軍の正体は、かなりの強者であり、厄介なモノとなるからだ。


「ジオ様はその援軍に心当たりが?」


「ええ」


クレアの問いに、ジオは少し微笑みながら答える。


「魔王の娘、クライシス エフィーモアですよ」



コノル王国 王都カナル近郊 スダチ丘



「さあ、全軍前進、直ちにあの前線基地を取り戻し、王都カナルを征服するわよ」


「「「ウォーーーーー!!!」」


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RPGで推しの勇者に殺される予定の魔王の娘に転生しました。勇者ガチ恋勢の私は頑張ってハッピーエンドを目指します @hane1031

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