RPGで推しの勇者に殺される予定の魔王の娘に転生しました。勇者ガチ恋勢の私は頑張ってハッピーエンドを目指します

@hane1031

魔王の娘と大魔王と夢への第一歩

「おはようございます、クライシス様。昨晩はよく眠れましたでしょうか?」


「おはようレイ。ええそうね、よく眠れたわ。私の一の騎士であるあなたが一晩中守ってくれている事だし」


軽くシャトルランでも出来そうな程の広さに、漆黒や血のような赤を基調とした禍々しい装飾の家具。そして部屋にただ一つの巨大な窓の側にある、これまた巨大で豪華なベット。そんな場所で私ことクライシスは朝を迎えた。


「貴女様を護るのは私の使命でございます。そ、それに、」


「それに?」


「仮にその様な使命が無くとも、わ、私は貴方様を命に代えてもお護りいたします」


先程から私に話しかけてきている男は、顔を俯かせ、少し赤くならながらそんな事を言った。彼が私に対して、これ程までの忠誠心を抱いているのには理由がある。


「ふふっ、そう。嬉しい事を言ってくれるじゃない。お父様の前で、もう一度同じことを言ってみて欲しいわね」


「ま、魔王様の前でですか!?」


そう、私はこの世界「アルテノール」を恐怖と暴力で支配しようとする大魔王の娘なのだ。


「私のクライシス様への感情を魔王様にですか、、そ、それは少し畏れ多いと言いましょうか、で、ですがこの気持ちは嘘偽りの無いものですし、、」


いま私の目の前であたふたと困っているのはレイ。漆黒の鎧に身を纏った金髪のイケメンだ。レイは魔王の娘である私専属の近衛騎士であり、私を24時間365日警護する責務がある。


「ふふっ冗談よ。お父様にはあんまりそういうことは言わない方がいいわね」


「じょ、冗談ですか」


レイは私の言葉に一喜一憂し、体を大きく使った感情表現をする。そのいかにも悪役といった見た目からは想像もできない可愛いやつである。しかしレイは、この魔王軍でも屈指の実力者である。魔法などの特殊な技術は苦手なものの、純粋や剣の実力は我が軍トップである。


そんなこんなで楽しく会話をしていた所、扉をコンコンッとノックする音が聞こえた。


「何の用かしら?」


「お嬢様、魔王様がお呼びです」


どうやらお父様が呼んでいるらしい。まあ大体用件は察しがつくけれど。


「ええ、わかったわ。さあ行くわよレイ」


「はっ」


私はレイを連れて部屋から出て、玉座の間へと向かった。



魔王城 最奥 玉座の間



「クライシスーー!!!!!!」


玉座の間を大きく揺らす程に響き渡る大声。ここ魔王城の主である大魔王がこんな風に叫ぶ事など、ここでは日常茶飯事だ。


「無事だったのだな!! よかったぞ!!」


「無事も何も、私は自分の部屋で一晩寝ていただけですよ。お父様」


「何を言う! 今は人間共との戦争の真っ最中なんだ! いつ暗殺の魔の手が襲いかかるかわかったものではあるまい!」


「魔王が魔の手なんて言葉を使うのは少々おかしいのでは? 

それに、」


そう言いながら横に顔を向けると、レイと目が合った。そしてレイは少しドヤ顔で、


「ええ魔王様、御安心を。この私「暗黒騎士」が常にクライシス様の側に控えております」


この過剰な程に心配性であり、親バカである大魔王は毎朝私の無事を確認する。もはやルーティンだ。そして何を隠そう魔王軍最強の剣士であるレイを私の護衛に任命したのも彼なのだ。


「ああ、そうであったな。すまんなレイ。お前の実力を疑っている訳では無いのだ」


「な、何をおっしゃりますか! 謝る必要などありません!」


今まで何度こんなやり取りをしただろうか?


「ところでお父様」


長くなりそうなルーティンを強制的に打ち切り、私はお父様へと問いかけた。


「なんだ? クライシス」


「私をここへ呼んだのには、まだ理由があるのでしょう?」


まあ聞かなくてもわかるけど


「ふっ、流石我の娘だ。ああそうだ、クライシス。お前には少々面倒事を引き受けてもらいたい」


先程までの親バカオヤジモードとは声色も表情も変わり、その風体からは大魔王の貫禄を感じさせる。ていうか包み隠さず面倒事って言い切るなんて、相変わらずバカ正直な人だ。


「お前に頼みたいのは他でも無い。勇者との交戦である」


来たーーーー!! やったわ! 狙い通りの展開よ! 勇者の名前が出た瞬間レイの表情は険しくなったけど。


「現在コノル国への侵攻作戦が停滞しているのは知っているな?」


「ええもちろんです。コノル国、人間達の住む西の大陸の国家の中で最も我ら魔族の住む東の大陸に近い国。そんなコノル国へと魔王軍を進軍させている所でしたね」


「確か半年前に始まった作戦でしたね。侵攻状況は順調だと聞いていましたが」


「その通りだ。我が軍はこの半年間コノルの主要都市を順調に攻め落とし、王都カナル侵入まであと一歩と言うところだった」


だった、来たーー!! 過去形来たーー!!!


「だが1週間前、勇者がコノルに到着した」


「クッ」


レイはより一層険しい表情となった。まあ無理もない事だ。レイと勇者には浅からぬ因縁がある事だし。


「そして魔王軍は勇者との交戦を開始した。しかし、知っての通り今回のコノル侵攻は勇者との戦いを想定していないものだよって勇者に対して、相性が良い者が少なく、苦戦している」


「そこで勇者に相性が良く、奴の弱点や戦法を理解し尽くしている私が戦地に赴くと」


「そ、そうだ」


あまり納得のいってなさそうな顔をしながら、お父様はそう言った。それもそうだ、こんな親バカが娘を戦いに向かわせる事に文句が無いわけがない。


「そんな顔をしないでくださいお父様。魔王軍は実力主義だと日々仰っているじゃないですか。実力さえあれば身分は関係ないと」


「い、いや確かにそうなんだが、お前は例外だと思っていたというかなんというか」


「では、早速準備をしてきます!! 行くわよ! レイ!」


「ちょ、ちょっと待ってください! クライシス様!」


「おーい! まだ話は終わってないぞーー!! クライシーーース!!!!」


これ以上ごねられる前に、私はレイを連れ玉座の間から飛び出し、再び自室へと戻った。



魔王城  王女の私室



「さあ、準備完了よ。レイ、あなたもすぐに出れるわよね?」


「あ、あのクライシス様、ふつう準備となると剣の手入れや鎧磨きなどでは無いでしょうか?」


おろしたてのドレスに身を纏い、それを引き立たせる美しいアクセサリー達をうるさくならない程度につけ、まるで舞踏会に行くかの様に髪型をバッチリセットをして準備を終わらせた私にレイは何か言いたいことがある様だ。


「わかってないわね、レイ。加勢というのはただ、共に戦うというだけでは無いわ。勇者に押され気味で、士気が低下している彼らに私の姿を見せつけ、士気を向上させる。その時に不格好な風体をしていては駄目でしょ?」


「た、確かにそうですね! 勉強になります! やはりクライシス様は聡明であられる」


ごもっともらしい事を言っただけなのだけれど、レイは納得してくれたらしい。


「では、コノル国に出発するわ!」


「はっ!」

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