第3話 孫悟空

「釈迦」

「やあ悟空」

この五尺程度の少年が釈迦様…?

「ん、君信じていないな」

、いや二代目三蔵法師」

「⁉」

花を渡される。

「なんでここにいるんだ釈迦説明しろ」

「なんでも何も、君が復活したからに決まってるじゃないか」

蓮の花だ。

「そういえば、君たちお互いに自己紹介したのかい?」

「「してない(です)」」

「する必要なんざないだろうよ。お前が消えてからすぐにでも喰らうんだしな」

「君の言い分はわかった。じゃあ三蔵、君が彼の封印を解除した理由わけを彼に。」

「はい。私は玄奬。三蔵法師と呼ばれています。あなたを解放した理由は…」

王の命で天竺までの旅、その同行をお願いしたい旨を事細かに伝えた。

「ということだそうだ」

「なんで途中からお前が仕切ってるんだよ」

「そうだったのですね」

「お前はお前で知らないのかよ」

「悟空そういうことなんだ。今回はM」

「はんっ必要ないだろ。お前は殺す。」コンッ

腕を横に出すと棒が帰ってきた。

やはり妖怪は妖怪なのですね。

「はぁ…残念ながらそれは無理だよ悟空」

「なんだ?釈迦お前が止めるのか?」

現世ここじゃ私はお前を止められないよ。それに、今はお前も混乱して記憶が混同しているだろう」

仮にこの方が釈迦様だとして、止められないほどにこの猿の妖怪は強いのか。

「じゃあどうするよ?」

「簡単なことです。私は保険を用意しました」

クイクイと指を揺らされる。

私?

「三蔵、君彼を解放した時に何か変わったことがなかったかい」

「変わったことですか?」

しばらく思考を巡らす。。。。。きらりと光る指輪に気づく。

「指輪…ですか?」

「正解!」パチパチパチ

拍手が一つ。虚しく空気に消えていく。

「彼、悟空の頭に輪が着いているだろう?あれは緊箍児きんこじというものだ。私がつけた」

悟空と呼ばれた妖怪は自分の頭を触る。

「なんじゃこりゃあああああ」

「緊箍児だよ」

めちゃくちゃいい笑顔だ。

「あの輪と指輪に何の関係があるのです」

「端的に言えば縛りだ。君と悟空はそれで繋がってる。君の命令を聞かせるものではないが、悟空の暴走を止めることができる。試しに『縛』と唱えてみな」

言われたとおりに「縛」と唱えてみる。

すると、

「あぎゃああああああぁあぁあああぐぎっぎぎぎぎぎいG」

「あはははははははは」

のたうち回る妖怪と腹を抱え大笑いしている釈迦様(仮)の絵図が完成する。

かん

釈迦様(仮)が唱えると妖怪の動きが止まる。

ものすごい形相でこちらの襟を掴みにかかる。

「てんんめえええい」

「すいません」

悪気はない。本当だ。解放した時の挑発を思い出し、力を入れたとかそんなことはない。

「はぁ、笑った笑った。少し力を入れすぎたね」

「というわけだよ悟空。君が三蔵法師を食べることはできない。君はあの頃みたいに暴れることはできない」

「観念したかい」

滅茶苦茶悔しそうな顔をしている、握りこぶしから血とか出てるし、血管も浮き出てる。

「いつか食ってやる」

恨み言まで吐くし。

「はいはい。理解わかったらほら、握手。休戦と信頼と友情の握手だよ。あと自己紹介」

私と彼の間に立ちほらほらと手をスタンバってる。

おずおずといった感じと、しぶしぶといった感じで握手を交わすわけもなく、叩かれる。

「警戒しすぎだっつーの」

「ああ、ちょいちょい…もう」

今締め付けたろか緊箍児。

「せめて自己紹介」

「孫悟空」

背中を向けながら言われる。

「よろしくお願いします。孫悟空」

「いえ、悟空」

返答はなく、そそくさと離れてしまう。

「素直じゃないねぇ」

「さて一段落したし、君の質問を聞こうか」

「悟空だけに答えるのは不平等だろ?」

色々疑問があったはずなのに。

「何もないならそろそろおさらばするよ」

「釈迦様は本当なのですか」

考えすぎた上に出た言葉はそんな酷く抽象的なものだった。

「私は本物さ。」

「そうだな。君は僕の子供みたいなものだしねサービスだ。」

「君たち仏教徒は様々な形、派生が存在する。世界中に広がってるわけだからね」

「でも根幹には苦悩からの解放がある」

「その苦悩と向き合い、解決に結びつける。君は優秀さ、だから選ばれた」

「私は君が彼を導けると思ってる」

悟空のほうを見ている。

「妖怪を導くですか?」

少し悲しそうな眼をしている。

「いろいろあってね、彼とは精神世界で500年ほど共に過ごしたんだ」

「緊箍児もその時に」

うなずく

「君はちゃんと指輪を使う判断ができると確信した。多少癪に触っても彼を許しているしね」

この方はこの方で試されてたのですね、性格…

「そんな感じで、君たちはお互いに必要としてるんだ」

「だから頼んだよ」

「はい」

風が吹いている。日も傾き始め、夜が顔を見せ始める

「じゃ、そんな感じで私はおさらばしようかな」

「最後に1つよろしいでしょうか?」

いいよといった感じでこちらを見られてる。

「釈迦様は生きておられるのですか?」

フッと笑い口を開かれる。

「ごめんごめん。一番聞きたかったのはそれだったようだね」

「私は死んでいるよずっと昔にね」

「じゃあ、今君たちの前にいるのは一体何者なのか。なんだと思う」

幻覚?幻聴?しかし悟空にも見えていたし、触れられた。

伝承とは違う見た目…

「化身でしょうか」

「やはり君は優秀だね。正解」

「私は昔悟空を止めるために国中から願われたんだ。

だから化身になり悟空を鎮め、封印した」

「さっきも言った通り、君が導くんだ。三蔵法師」

ひときわ強い風が吹く。

ばさばさと袖が視界を遮る。

抑えた時には居なくなっていた。

「おーい、いつまで話してるんだ」

「今行きますよ」

小走りで悟空のもとへ向かう。

「で、どこまで行くよ」

「まずは都、そして明日早朝に王のもとへ行きます」

見上げると黒い絨毯に星がかかっていた。


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妖怪回帰 月島スバル @SubaruTsukishima

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