040 エピローグ

『『『ブラックドラゴンだあああああああ!』』』

『さっそくキタァアアアアアアアアアアア!』


 コメント欄が一気に沸騰し、スパチャが嵐のように飛び交う。


「グォォォ……!」


 そんな中、ブラックドラゴンは早くも攻撃態勢に入った。

 上半身を大きく仰け反らせている。

 俺はその攻撃を知っていた。


「――! 梨花、横に走れ! 火球が来るぞ!」


「分かった!」


 俺たちは大慌てで横に走る。

 次の瞬間、先ほどまで立っていた場所を火の玉が通過する。


 ドゴォ……!


 天守閣に巨大な穴が空いた。

 魔物は原則的に地球の建物を大事にするがこいつは例外だ。

 ガンガン破壊してくる。


「この野郎!」


 俺はドラゴンに向かって駆け出す。

 対するドラゴンは再び体を仰け反らせて攻撃の構え。


「梨花!」


「任せて!」


 梨花がその場で刀を振って雷鳥を召喚。

 8匹の鳥がドラゴンに神風特攻を行い、雷撃の連打を食らわせる。


「グォ……!?」


 落雷の衝撃でドラゴンはスタンし、攻撃が中断される。


「そこだぁあああああああああああ!」


 俺は敵の懐に潜り込み、下から上に向かってソードを振り抜いた。

 攻撃に合わせてオプション【真空波】が発動し、風の刃が敵を切り裂く。


「グォオオオオオオオオオ!」


 ドラゴンは腹部にダメージを負い、さらに全身を風に切り裂かれた。


「「効いている!」」


『『『うおおおおおおおおおお!』』』

『強烈な一撃が入ったぞ!』

『いいぞ! いけいけぇ!』


 たしかな手応えを感じる。

 7~8ヶ月前に戦った時とはまるで違う。


(勝てる……勝てるんだ!)


 そう思った時だった。


「グォ!」


 ドラゴンが翼をバタつかせた。

 強烈な風が発生して吹き飛ばされそうになる。

 さらに、そこへ――。


「涼真君! 危ない!」


 ――ドラゴンの尻尾ビンタだ。

 俺の全身よりも遥かに大きな尻尾が凄まじい速度で迫ってくる。


「やられるっ……!」


 反射的に目を瞑ってしまう。

 だが、敵の攻撃は俺に当たらず空を切った。

 俺が小さすぎて距離を見誤った――わけではない。


 何者かが俺を助けたのだ。

 それは――。


「ふぅ! 間一髪だったな! 涼真!」


「朱里!」


「おいおい年上のお姉さんを呼び捨てかい?」


「朱里……さん!」


「私もいますよ!」


 と、めちゃくちゃ遠くから理子が言う。

 彼女は木の後ろに隠れてビクビクしていた。


「二人ともどうしてここへ……?」


「そりゃ我々も昨夜は大阪城で過ごしていたからな!」


「「ええええ!?」」


「実は城ヶ崎さんと天宮さんがタクシーに乗り込むのを見て後をつけていたのです。朱里先輩の命令で……」


「ヒーローは遅れて登場するものだろ? だからバレないようこっそり隠れていたのだ!」


 そう言うと、朱里はニヤニヤしながら梨花を見た。


「それにしても梨花、君はなかなか激しいようだな。他に誰もいないと思ってずいぶんと素敵な声を上げていたじゃないか」


「え、ちょ、聞いていたんですか……」


 梨花の顔が真っ赤に染まっていく。

 朱里は「がっはっは!」とおっさんみたいに笑った。


「さぁて、雑談はおしまいだ! 一緒にこのドラゴンを倒そうではないか!」


「おう!」


 威勢のいいことを言った朱里だが、行動は全くの正反対だ。

 ドラゴンに背を向けて猛ダッシュで離れていく。


「私と理子君は応援係だ! 頑張ってくれ!」


「お、おう……!」


 とにかく難を逃れたので戦闘再開だ。


「おらあ!」


 困惑した様子のドラゴンに真空波をお見舞いする。


「グゥゥゥ!」


 効いているようだが、先ほどよりもダメージが少なく見える。


『防御態勢に入ったな』


 ルーベンスがコメントする。


「防御態勢?」


『主を強敵と認めて本気になったってことだ』


「今まで舐めプだったわけかよ」


 ふざけやがって。

 俺は深呼吸するとドラゴンの側面に回り込んだ。

 異世界のオプション付きシューズのおかげでスピードが乗っている。


「ついてこれるか!? この速度に!」


 グルグルとドラゴンの周りを走ることで攪乱させる。


「グゥ! グォオオオオオオ!」


 苛立ちの咆哮。

 しかし、そんなもので怯む俺ではない。


「梨花!」


「任せて! えいやー!」


 梨花が雷鳥を召喚。

 鳥はドラゴンの背中、翼の付け根に突っ込んだ。


「グォオオオオオオ……!」


 強烈な雷の数々に怯むドラゴン。

 そして今度は梨花に矛先を向けようとした。


「待っていたぜ、この時をよぉ!」


 奴の注意が俺から逸れたところで攻撃に打って出る。

 距離を詰め、全力で跳躍。

 奴の体にソードを突き刺した。

 刀身が見えなくなるくらい深く。


「どうだ!」


「グォオオオオオオオオオオオオ!」


 防御態勢といえどこれは大ダメージだった。

 ドラゴンは上空に向かって吠えると逃げようとする。

 翼をばたつかせて飛び出した。


「逃がすかぁ!」


 俺は刀にしがみついて離さない。


「涼真!」


「城ヶ崎さん!」


「涼真君! 危ないよ!」


「気にするな! 梨花! 雷だ! 奴を落とせぇええええ!」


「うん!」


 梨花は刀を両手で持って縦に振り下ろした。

 8匹の雷鳥が一直線にドラゴンへ突っ込み、そして捉える。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 雷に打たれたドラゴンは地面に落下。


「グハッ」


 落下のダメージは俺にもあった。

 無理もない。

 ゲームと違って無敵というわけにはいかないものだ。


「涼真君!?」


「大丈夫だ!」


 このチャンスを逃すわけにはいかない。

 俺は痛みを堪えてソードを抜き、崩れているドラゴンの正面に回り込む。


「これでぇ――」


「涼真君!」

「やれぇ!」

「城ヶ崎さん!」

『いけえええええええええ!』

『決めろぉおおおおおおおお!』


「――終わりだああああああああああ!」


 俺は全ての力を使ってドラゴンの顔面を斬りつけた。

 地味だが火力の高い風の刃がドラゴンの全身を襲う。


「グォオオオオオオオオオオオオ……」


 ドラゴンは断末魔の叫びを上げ、そして――絶命した。


「しゃああああああああああああああああああ!」


 俺の叫びが大阪城に響く。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 女性陣も叫ぶ。


『やりやがった!』

『少人数でブラドラを倒しやがった!』

『しかもBの1OP武器で!』

『地球人やべえええええええええええ!』


 リスナーも大興奮。

 かつてない程の勢いでスパチャが降り注ぐ。


「涼真君! やったね! ドラゴンを倒したよ!」


 梨花が駆け寄ってくる。

 朱里と理子も一緒だ。


「ああ、かなり危なかったが、どうにかな……」


 話していると力が抜けて意識が遠のき始めた。


「涼真君!? どうしたの!?」


「ちょっと頑張り過ぎたようだ……!」


 ドラゴン戦で限界を超えたのだろう。

 疲れがドッと湧いてきて、俺はその場に倒れ込んだ。


 ◇


 俺がドラゴンを倒した件は瞬く間に人々の知るところとなった。

 その理由は単純で、日本の魔物が日中にも問わずゲートに戻ったからだ。

 ブラックドラゴンが倒されたことで「日本は割に合わない」と思われたのかもしれない。


 ただし、魔物はまだ地球の侵略を諦めていない。

 そのためアメリカなど他の国々では変わらず魔物と戦っていた。

 リスナー曰く、この様子だと日本にもまた魔物が現れるだろうとのこと。

 それがいつになるかは分からないが。


 ドラゴン討伐の1週間後。

 なんだかんだで慌ただしかった事態が落ち着き、俺たちは懐かしい人物と会っていた。


「私が大阪へ向かっている途中にドラゴンを倒しちゃうなんてさー、もうちょっと待ってくれてもよかったんじゃない?」


 杏奈だ。

 大阪の高級ホテルで再開し、梨花を含めた三人でスイートルームを使う。

 一時的とはいえ日本から魔物を消し去った功労者ということで、この部屋は無料でいつまででも使っていいことになっていた。


「結果がよければそれでいいってことで!」


「そうそう! 乾杯しよーよー!」


「もちろん乾杯はするけど、その前に一ついい?」


「ん?」


 杏奈は俺でなく梨花を見た。


「私がいない間に抜け駆けしまくったようだけど、これからはそうもいかないからね!」


「悪いけど杏奈の付け入る隙はもうないと思うよー? 私と涼真君、もうすんごーく深い関係だから! 色々しちゃったもん!」


 見えない火花をバチバチ散らせる二人。


「よく分からないが乾杯しようぜ!」


「うん! しよしよ!」


「そうだね! 乾杯しないと!」


「それでは! ブラックドラゴンの討伐と束の間の平和を祝して!」


「「「乾杯!」」」


 かくして、俺たちの冒険は一段落した。

 この後も世界中で活躍したり、日本に再び現れた魔物を倒したり、色々とあるかもしれないけれど、それはまた別の話である。

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配信アプリで魔物に侵略された地球を生き抜く! ~稼いだポイントで武器を購入・強化できる俺がいずれ世界最強~ 絢乃 @ayanovel

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