039 大阪城
次の日は大阪駅に行かず、能勢でのんびり過ごした。
皆にもらったKPを使って観光を楽しみたかったからだ。
ドラゴン戦に備えてこれまでの疲労を癒やす必要もあった。
玲二や秋穂は今日も大阪駅に出張っているそうだ。
一緒に行かないか、というお誘いの連絡が届いていた。
「ぶっちゃけハンターって割に合わない仕事だよなぁ」
夕方、ホテルの部屋に戻った俺は梨花と話していた。
大きなサイズのベッドに並んで寝転び、イチャイチャする。
「お給料が安いから?」
「そうそう」
ハンターの日給は700KPだ。
月に22日働いた場合の稼ぎは約1万5000KP。
この額自体は何とも言えないところだ。
というのも、KPのレートは甲府の紙幣と殆ど同じだから。
つまり1万円=1万KPが、昔の30~40万に相当する。
その5割増しとなる1万5000KPは、さしずめ昔の50万程だ。
非常に高い死のリスクに見合う報酬とは思えない。
まともな神経をしていたらハンターにはならないだろう。
「お金はオマケなんだろうねー」
梨花は腕に抱きついてきた。
豊満な胸が押し当てられて、俺の顔も心なしか笑顔になる。
「ストレス発散だとか、家族や友人の仇だとか、色々あるんだろうな」
「うんうん! それより早く寝ないと! 夜行列車に乗るんでしょ?」
「そうだな」
今日の夜、俺たちは夜行列車で大阪駅に行く。
他の連中は古の都市で遊ぶのが目的だが、俺たちの目的はドラゴンだ。
最終目標であるAランクの大物・ブラックドラゴン。
仕入れた情報によると、奴は早朝と夕暮れ時しか大阪にいない。
朝になると上空のゲートから出て、そのまま遠方に飛んでいくからだ。
だから事前にゲートの近く――大阪駅の近辺で待機しておく。
そして朝になったら派手に暴れてドラゴンを誘い出す。
「何度も言っているが、梨花はついてこなくていいんだぜ」
梨花は「またそれ?」と呆れ顔。
「だって危険だからな。ドラゴンとの戦いは命懸け……というか十中八九、俺は死ぬだろう。ついてくれば梨花も巻き込まれる」
「でも私はついていくよ、何度も言っているけど!」
「どうなっても知らないぞー?」
「もちろん!」
「ならこれ以上は何も言うまい!」
明日に備えて英気を養うべく、俺たちはそこらの恋人よりもイチャつくのだった。
◇
数時間の仮眠を経て移動を開始。
電動自転車で最寄りの駅まで行き、夜行列車で大阪駅に入った。
「遊び倒したるでぇ!」
「ミナミまで行こや」
「今日って引っかけ橋でなんかやってるんやっけ?」
電車を降りるなり関西人らが上機嫌で駅を出て行く。
おそらく東京もバスから降りた時はこんな感じなのだろう。
「思えば夜の便で都会に来るのって初めてだよな」
「たしかに!」
「えーっと、ここ最近ドラゴンが出入りしているゲートは……」
ハンターアプリで情報を確認する。
大阪城の天守閣だと判明した。
「よし大阪城に行こう。朝まで城内で休もうぜ」
「了解! でもいいのかな? アプリには近づくなって書いてあるよ」
「かなり危険ぽいけど、まぁどうにかなるだろう。俺たちには異世界の武器があるからな!」
俺たちは迷宮と名高い大阪駅・梅田駅を彷徨いながら大阪城を目指した。
◇
大阪城に行くのには思ったよりも苦労した。
その付近を走る電車が一本もなかったからだ。
しかも、今回は電動自転車を持ってきていなかった。
そこで俺たちはタクシーを利用した。
甲府では禁止されていたが、大阪では認められている。
そんなこんなで、真夜中の不気味な大阪城に到着した。
「すげーな、マジで真っ暗だ」
「お化け屋敷でももっと明るいよぉ」
スマホのカメラ用ライトを頼りに石段を上る。
側面の重々しい扉を開けて天守閣に入った。
「入ったはいいが暗過ぎて中をうろつくのも一苦労だな」
「夜を明かすのに良さそうな場所が分からないね」
仕方ないので、適当に階段を上がったところで休むことにした。
柔らかさの欠片もない床に腰を下ろし、壁にもたれながら座る。
「うお!?」
ふぅ、と息を吐いた瞬間、梨花に襲われた。
「何をする!?」
「まぁまぁ」
「まぁまぁってお前、ここは大阪城の――」
梨花は再び「まぁまぁ」とだけ言って、指で俺の口を塞ぐ。
(ま、いっか。他にすることもないし)
俺は素直に受け入れるのだった。
◇
人間、いざとなればどこでも眠れる。
なんだかんだで、俺たちは朝まで眠っていた。
「さーて、ドラゴンを狩るか!」
「おー!」
早朝、いよいよ俺たちはドラゴンハントに動き出した。
服を着たらトイレで顔を洗って準備万端だ。
天守閣から打って出る前に外の様子を確認する。
「すっごい数のゲート!」
「こりゃアプリで近寄るなって言われるわけだ」
天守閣の外にはゲートが20個ほどあった。
さらに上空にも飛行タイプ用のゲートが複数ある。
当然、魔物の数も尋常ではなかった。
これから太陽が昇ろうかという時間帯なのに、早くも外は魔物だらけだ。
「だからって何も問題はねぇ。戦闘開始だ!」
配信を開始したら武器を召喚。
「今日はドラゴンを倒すぜ! 楽しんでいってくれよな!」
「頑張るよー!」
リスナーに最低限の挨拶をしたら天守閣から飛び出した。
「ザコは私に任せて!」
梨花が脇差を振るう。
「「「キュィイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」」」
オプションが発動し、雷を纏った鳥が8匹召喚される。
鳥は魔物の頭上を通過。
通り過ぎざまに無数の雷が降り注いだ。
これが【雷霆】と【火の鳥】の複合OPだ。
「「「「グォオオオオオオ……」」」」
周囲30メートルにいた魔物が即死する。
火の鳥の射程と雷霆の雷、そして二つを足した攻撃力。
Dランクということもあり、ザコには為す術がなかった。
『梨花ちゃんパワーアップしてる!』
『つえー!』
『いいぞー!』
盛り上がる配信。
そして――。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
目的のボスが前方の広々とした場所に降臨した。
Aランクのボス・ブラックドラゴンだ。
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