038 能勢町

 駅前には大量の自転車が止まっていた。

 名も無きハンターたちが各々の自転車に乗って同じ方向に走り出す。

 俺と梨花も自前の電動自転車でそれに続いた。


(まさかこんな大人数で自転車移動をする日が来るとはなぁ)


 魔物が現れる前の学校生活では味わえなかったことだ。

 これが俗に言う「陽キャ」というものなのだろうか。

 俺は密かにニヤニヤと笑った。


「今のところ田舎っぽい雰囲気だねー」


 梨花が話しかけてくる。


「たしかになぁ」


 見渡す限りに緑が広がっている。

 両サイドの古民家にはボサボサヘアーの庭木が生えていた。

 かつてはこまめに剪定されていたのだろう。


「この坂を登り切ったら景色が変わるよ」


 そう言って急勾配の坂を必死に漕ぐ秋穂。

 俺と梨花は電動アシスト機能でスイスイのスイーだ。


「「おお……!」」


 誰よりも早く坂を登り切った俺と梨花は、二人して感嘆する。

 それほどの景色が広がっていたのだ。


「これもう町じゃなくて街だな。立派な都市だ」


「だねー!」


 昔からの民家や畑はそのままに、周辺には今時の建物が乱立していた。

 かつて森林だった場所をもれなく伐採して開発している。

 今この時も至る所で重機が唸りを上げていた。


「とても魔物が現れて半年そこらとは思えないでしょ!」


 秋穂の言葉に、「ああ」と頷く。

 甲府も凄かったが、能勢はそれ以上だと思った。


「古川はんの手腕は日本一やからなぁ!」


「そーそー、古川はんのおかげで栄えまくりや!」


 モブたちが古川市長を賞賛している。


「せや! 涼真、俺のKPちょいあげるわ!」


 知らないモブが何やら言い出した。


「え、いいのか?」


「ええよー! だってお前、めっちゃ頑張ってたやん! せやのに俺が同じだけ貰うのはなんかちゃうかなって」


 この言葉を皮切りに、他の連中もKPをいくらか譲ってくれた。


「東京モンって根性なしばっかやと思ってたけどお前は違うわ!」


「涼真みたいな奴ならほんま大歓迎やで!」


「これからも俺たちと一緒に大阪を盛り上げていこな!」


 モブたちは十年来のマブダチかの如く接してきた。

 かと思いきや、「ほなまたなー!」と爽やかに去っていく。


(分からん……! 関西のノリが分からん……!)


 とりあえず歓迎されているようだ。

 そんなこんなで、能勢町での活動が始まるのだった。


 ◇


 まずはKPを使って宿を確保した。

 秋穂がオススメだというできたてホヤホヤのホテルだ。


 綺麗だが、急ごしらえな上に建材をケチっているのか音が響く。

 さらに部屋は狭くてベッド以外に何もないような有様だった。


 ただし安い。

 明らかに他のホテルよりも安かった。

 綺麗で安い=コスパがいいというのが秋穂の感覚だ。

 俺たちも同じ感覚だったので文句はなかった。


「じゃ、涼真、梨花、またねー!」


「おう、また」


「今日はありがとー!」


「こちらこそ! 二人ともめっちゃ強かったし面白かった!」


 秋穂を含めた三人で晩ご飯を食べたあと、俺たちは解散した。

 俺と梨花は先ほど借りたホテルに戻って部屋で過ごす。

 配信もここで終了し、今日という日が終わろうとしていた。


「梨花、見ろよこれ」


 俺はベッドにうつ伏せのままスマホを操作する。


「んー?」


 俺に跨がってマッサージしていた梨花は、背後から顔を近づけてきた。

 それから「わわわっ!」と、俺の耳元で驚く。


「すんごいお金! どうしたの!?」


「今日の配信でがっつり稼いだんだ」


 俺たちは所持ポイントを見ていた。

 なんと250万を超えている。


「でも今日のボスってあの弱い蜘蛛でしょ? あれでなんでここまで稼げたの?」


「たしかにボス戦は微妙だった。でも、今日の配信でスパチャが活発だったのは大阪人のオーバーリアクションなんだよ」


「オーバーリアクションって?」


「梨花が駅構内で火の鳥をぶっ放した時や俺が雷霆で敵を皆殺しにしている時とか、他のハンターが『すげー』とか色々と言ってたじゃん? 関西弁で」


「あー言ってた言ってた! なんやあれぇって! しかも目をギョッとさせたり、身振りを交えてすごく驚いていた!」


「そういう大袈裟な反応がバカウケしていたんだ」


「おー!」


「あと純粋に視聴者の数だな。ルーベンスか誰かが言っていたが、俺たちの配信はバズってきているらしい」


「そうなんだ!?」


「そのせいかは分からないが、今日は特に盛り上がる前から視聴者数が4桁だった」


「すご!」


「で、大阪駅に着いてからはさらにガンガン伸びて、最終的には7000人とかだったかな? よく覚えていないけどかなりの数だった」


「それで広告収入ががっぽり?」


「だな」


 内訳は不明だが、広告収入が100万近くあったのは間違いない。


「そんなわけで、DランクのOPスフィアを1つとBランクの1枠武器&OPスフィアを買うことができる」


「わお!」


「防具だったり、まだ一度も買ったことのないアイテム各種だったり、色々と欲しい物はあるけど、ここは武器を強化しよう」


「うん! あ、Bランクの武器を買うならDランクの脇差は不要になるよね?」


「いるならあげるぞ」


「やったー! 火の鳥は好きだけど満足してきていたから!」


 俺は脇差を召喚して梨花にプレゼントした。


「その武器につける2個目のOPは梨花が決めてくれていいよ」


「ほんとに!?」


「俺はBランクの武器に装着するOPを考える」


「武器自体は何にするか決めたの?」


「ソードだ」


「ソードって、この刀とは別物?」


「ああ、もう少し長くて両刃だ」


「そうなんだ! なんでソードにするの?」


「初めてドラゴンと戦った時に使っていた武器だからな」


 学校の運動場で戦った時のことは今でもよく覚えている。

 俺のノーマルソードがバキッと折れたことも。


「次は勝たせてもらうぜ」


「私も邪魔にならないよう頑張らないとね!」


 その夜は二人でOPスフィアを決めてからイチャイチャするのだった。

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