金曜日のカフェオレ ~エアイズ王国外伝~

「かんぱい!」

「「「「かんぱい!」」」」


「あれ、マリアちゃん、飲んでるぅ?」

「いえ、私はカフェオレを」

「へぇ、贅沢だねぇ」

「ええまあ」


 私はマリア・ファイアランス16歳。冒険者だ。

 ここエアイズ王国は冒険者の国。世界最大級の迷宮エアイズ迷宮がある。


 エールは最近ではめっきり飲まなくなった。

 普段はジンジャーエールだが、今日はカフェオレを飲んでいる。

 金曜日のカフェオレだ。


 コーヒー豆は渡来品ではるか遠くの国から輸送されてくる。

 砂糖も同じだ。

 そして新鮮なミルクは王都では比較的高級品となっている。

 つまりカフェオレはエールよりも高い。

 この独特の苦みのある風味と優しい甘味がとても気に入っている。


 今週もいろいろなことがあった。


「ポーターズは階段下の広場で待機ね」

「「「はーい」」」


 獣人のアイテムボックス持ちのポーターズは荷物持ちだ。

 大人の獣人二名に加えて少年少女たちが四人。

 子供たちも働いている。

 雇用費用が安い割には荷物が運べるので重宝している。

 今日は44階にベースキャンプを張った。

 ここを拠点に素材集めをするのだ。


 珍しい森の花、それから魔獣の毛皮。

 上級品であるトロールの毛皮もある。

 イノシシの牙なんかも採取品だ。

 牙を削ってナイフにしたり、民芸品にするのだ。


 子供たちもただの荷物持ちだとはいえ雑用はこなす。

 みんなかわいらしくて、私はかなり気に入っている。


 パーティーのポーター兼弓使いのサーナが怪我をした。

 ゴブリンリーダーの剣をかすったのだ。

 幸い中級ポーションを持っていたので、事なきを得た。

 ポーションというアイテムは高価だが、この回復力は信じがたい力が宿っているのだろう。

 ポーターは矢やポーションなど様々なアイテムをアイテムボックスに収納しているパーティーの生命線だ。

 彼女がいないと立ち行かない。

 攻撃力だけ見れば私たちより一歩引くのだろうけれど、冒険者はそれだけでは仕事にならないのだ。


 綺麗な泉を発見した。

 森の中央付近だろうか。未発見のものだ。

 もちろん、私たち以外に発見して報告していない可能性もある。

 泉には魚やカニ、エビの他、なんと妖精様が住んでいたのだ。

 綺麗な蝶のような羽根を持つ人に似た存在、妖精様。

 女性のようでかわいらしい容姿をしている。

 ふわふわと空を飛んで、近づいてくるからびっくりした。


「こんにちは」

「こんにちは、妖精様」

「いいのいいの。僕たちは気まぐれだからね」

「そうですか。少しお水をいただいても?」

「いいよ」


 妖精の住む泉の水。すなわち『妖精水』だ。

 空き容器を出せるだけ出して、汲んでいく。

 ポーターの存在は有難い限りだ。

 飲用水も妖精水に入れ替えておく。


「美味しい」

「ただの水だよ、こんなものはね」


 とてもそうは思えないが、彼女がそういうならそうなのかもしれない。

 そして金曜日になりパーティーを引き上げる。


 今は金曜日の夕方、仕事上がりというわけだ。


 今回の一週間の旅もかなりの儲けになった。

 懐は温かい。


 みんなで酒場で盛り上がる。

 大人も子供もない。

 パーティーだけでなく他のパーティーも仕事上がりなのだろう。

 みんなでわいわいと騒ぐのだ。


 ただ私は昔、酔っ払いの男に侮辱されたことがある。

 何と言われたか忘れてしまったが、そのとき剣を抜いて大怪我を負わせるところだった。

 剣が当たる前に正気を取り戻したため、なんとかその場は収まった。

 しかし私は反省して、あれ以来酒を極力飲まないことにしている。

 酔っぱらって逆上とか、怖いからね。


「ということがあったんだよ」

「でもマリアお姉さんは悪くなくないですか?」

「まあそうだけど、剣を抜くのはやっぱりよくないから」

「そうですけど~~」

「大人には責任もあるしね。子供に示しがつかないもの」

「えらいですね」

「まあね、あはは」


 ということで金曜日の夜、ご褒美はカフェオレだ。

 苦みと甘味のハーモニー。

 これほど贅沢な飲み物はない。


 ごくごくと飲む。


 この冷やしたミルクも贅沢なものだ。

 夏でも氷魔法により低温に保つ装置があるのだ。

 でもこの装置、高い。


 ちびちびとカフェオレを堪能する。


 もちろん肉や燻製なども食べている。


「さぁあぁ、食え食え、大きくならないぞ」

「「「おおおお」」」


 私は大人だからね。

 カフェオレをお代わりして、またちびちびの飲む。

 これほどまでの幸せはないのだ。


 これを私は、金曜日のカフェオレと呼んだ。

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異世界冒険譚エアイズ王国 滝川 海老郎 @syuribox

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