SS4「初心者講習会」

「みなさん、見ててくださいね」

「はーい」


 私マリアの掛け声に、みんなが反応する。

 一番下の子は10歳ぐらい。

 逆に一番上は34歳だという。

 総勢15名ほどの初心者さんたちだ。

 今日は初心者講習会なのだ。


「スライムは散弾を飛ばしてきますから、注意してください」

「「「はーい」」」


 散弾は、液体、粘液とでもいうもので、酸性らしい。

 これを服や皮防具につけられると、溶けたり変色したりする。

 ここはエアイズ迷宮1階「木の回廊」だ。


 1階の立派なゲート入ってすぐにはエントランス部屋と言われる広い準備室がある。

 そこを抜けると通路と部屋で構成された迷宮になっていた。


 木の回廊という通り、枠と壁はすべて木でできている。

 なぜかわからないが、迷宮内はぼんやりと光っていて明かりがなくても真っ暗ではない。

 それでも見通せるようにランタンなどを持つことが多い。


「はい、剣などでバラバラにしたり核を取り除くと死んでしまいます」


 私は核の周りを剣で数回きりつけ、分離したスライムを見せる。


「この核はみなさんご存じの魔石ですので、持って帰りましょう」

「「「はーい」」」


 魔石はつまり魔道具の材料だ。

 大きな魔石ともなれば宝石に等しい値段がする。

 スライムの魔石はそれでも銀貨一枚といったところだ。

 誰でも倒せるが、迷宮に入る必要がある。


 スライムに殺されたという話は聞いたことがないが、大丈夫という保証はできない。

 例えば集団になったスライムに囲まれて、窒息死という可能性はある。


 ゲートの前には警備員がいて、入場をチェックしているので、部外者は立ち入ることができない。

 エントランスにはエレベーターの出口があり、10階用、20階用、30階用と並んでいる。

 いきなり30階にいく子たちもいる。


 しかし今回は1階から10階の案内をする日なのでガイドブックに従う。


「1階はスライムしか出ません。安心してください。もし囲まれた時は逃げましょう」


 そして2階への階段にたどり着いた。


「ここが迷宮の階段です。下がっていきます。地下迷宮ですね」


 初心者ちゃんたちがごくりと喉を鳴らす。


「それでは一人ずつ順番に並んで、降りていきましょう。今日は10階まで行ってエレベーターで帰ってきますからね」


 階段を下りていく。

 螺旋階段になっていて折り返しがある。

 上の方は1階の高さがそれほどないので、すぐに2階へとたどり着いた。


「はい、2階です。ここの壁は岩ですね」


 不思議そうにみんなが周りを見渡す。

 景色が1階とはだいぶ違うのだった。

 木の壁はなく岩壁だった。まるで洞窟のようだが、角ばっているところは人工的に見える。


「通常、この階段付近にはモンスターはいません」

「へぇ」

「なんでですか」

「なんででしょうね。これは下の方のフロアでも一緒です」

「ほーん」


 2階の探索を開始する。

 念のため地図を見ながら進んでいく。

 私たちは二週間に一回ぐらい、1階から30階までの順路を偵察する冒険者ギルドのクエストを受けているので、もう慣れっこになっている。

 初心者が多い上のフロアに何か異常がないか偵察するのは上級冒険者の仕事なのだ。


「とくに異常はなさそうですね」


 モンスターが出た。

 2階はラビットだった。


「これがラビット、正確に言えばアルミラージですね」


 みんなラビットと呼んでいるが、実際には別の種類らしい。

 頭に角がある。


「角は危なそうに見えますが、体重が軽いのでそれほどダメージにはなりません」

「なるほど」

「ただ目とかに刺さると危険なので、気を付けてください」


 ただアルミラージは小さいので、通常大人の目の高さまで飛んでくることはない。

 子供だと危険だ。

 特にポーターズは8歳ぐらいから活動する子もいるので、まだ小さいと稀に怪我をすることがある。

 ただ前に出る事が少ないので、そういう事故は多くはない。


「魔法も見せましょう、エルナ」

「はーい。じゃあ私から魔法を見せます。火魔法ですのでびっくりしないようにお願いします」


 エルナがアルミラージに火魔法で攻撃する。

 ウサギはあっという間に火に包まれて死んでしまった。


「黒こげですね。こうすると毛皮が売れないので残念です」

「「あはは」」


 何人かから笑いが上がる。

 エルナは普段真面目な顔をしているが、こういうときはサービス精神があるらしい。

 本当に残念だと思っている可能性もあるが。


「にゃはは、お肉は大丈夫です」


 そういってアルミラージを回収する。


「ポーターは同伴させましょう。必ずポーションなども持ってくるように」

「えへへ、私たち獣人は便利ですので、是非にゃ」


 サーナがにっこりと営業スマイルを見せる。


 初心者だとポーターを雇うと費用が掛かるため、ケチろうとする人がたまにいる。

 獲物も持って帰れないし、ポーションなどの物資を持ってくることも難しくなるため、普通はそういうことはしないほうがいい。


 こうして2階を探索する。3階へと降りる。

 4階、5階と順調に進んで、10階に到達した。


「ここが10階、エレベーターがあるフロアです」

「なるほど」

「ここは水晶のフロアですね。とても綺麗だね」


 私がうっとりと周りを見ると、みんなも目線を背後に移して、眺めてくれた。

 このフロアは綺麗でそこそこのお気に入りだ。


「敵はゴースト」

「ゴースト……」

「ええ、ちょっと怖いけど、大丈夫だよ。剣で斬れるんだ」

「へぇ」


 ゴーストに実体がないというのは嘘で、斬ることはできる。

 ただ腕とかを突っ込んでも穴が開くだけで殴ることはできない。

 そういう意味では実体がないように見える。

 斬り刻んだり、火魔法で攻撃するとよい。


「それからクリスタルゴーレムがたまに」

「ほむほむ」

「こちらは硬いので、頑張って倒してね」


 特に弱点がなく硬い。

 無視してもいいが、魔石がそこそこの大きさでお値段もそれなりなので、倒せるとお金になる。


「それではこっちにいくとエレベーターホールでーす」


 エレベーターガールみたいな口調で言ってみる。

 みんなよく分かっていないのか、特に反応はなかった。


「ここから上へ登ることはできるけど、下へ降りることはできないので注意してね」


 10階からは1階直通のみだ。

 20階、30階へ行くには一度登る必要があった。


「それからあまり大きくないので、分かれて順番待ちですね」


 何回かエレベーターが往復して私たち全員が1階に戻ってきた。


「はい、青い空、いい空気。本日はありがとうございました」


 みんなホッとした顔をしていた。

 拍手が沸き起こる。


 パチパチパチパチパチパチ。


「それでは解散となります。またいつかどこかで」


 ふう。一仕事した。

 ちょっとしたガイドツアーに過ぎないけれど、色々なチップスなどを紹介して、冒険の役に立てたと思う。

 みんな、元気に冒険者をやって欲しい。

 上級冒険者ともなると、色々な仕事があるのだ。

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