SS3「姉姫様の冒険者」

 私マリアと二人は今日も迷宮攻略をするべく、地下へもぐっていた。

 今日の探索では一緒に行動しているパーティーがあった。


「アリス姫様、ここが地下60階、最深部です」


 60階は砂漠フィールドだ。

 見渡す限りの砂が広がっている。

 岩場もあり、小山になっているところもある。


「暑いですね、これが砂漠」

「はい。みんな砂ですね」


 アリス姫様は第一王女だ。

 第二王女がリリー姫様だった。

 姉妹は仲がよく、私はどちらとも交流がある。

 アリス姫様は王立騎士団の団員を連れてパーティーを組んでいた。

 今日の随伴は五人と少し多い。

 それもそのはず、最深部を視察に来たのだった。


 ここは砂漠フィールドで広く過酷なため、まだ61階への階段と階層ボスを発見できないでいた。

 この状態になってすでに20年以上は経過しているらしい。


 一攫千金を求める上級冒険者も、あまり身の入りが少ない砂漠の60階は旨味がなく来たがらない。

 それでも次の階層を探す冒険者はほぼ毎日いる。


 私たちがその筆頭だった。


「階段どこでしょうね?」

「広すぎるにゃ」


 呆れたようにサーナがつぶやく。

 目標はあれど当てもなく歩くのは正直辛い。


 私たちは砂の山を進んでいく。


「サンドワームにゃ」


 巨大なワームが地中から姿を現し私たちを食べようと狙っていた。

 ワームは巨大ミミズのような容姿をしている。

 その口は大きく丸い。口の周りにはグルッと一周、牙のような歯が生えており、凶暴に見える。

 皮膚は象のような質感で、灰色だが毛はほとんどない。


「えいやー」

「ファイアランス」

「弓、いくにゃんよ」


 みんなで攻撃を仕掛ける。

 首を上げたワームは高さが三メートルくらいある。

 全長は十五メートルくらいだろうか。

 肉はブヨブヨしていてとてもマズい。

 この大きさで美味しかったら、とは思うが残念な限りだ。


 ダメージを与えて削っていく。

 ついに耐えられなくなったワームがバタンと倒れた。


「やったにゃ」

「みんな、見事ですわ」


 アリス姫様が労いの言葉をかけてくれた。

 ドロップもないので戦い損というものだ。

 それで戦闘をすればレベルが上がるみたいな単純な仕組みなら頑張ってもいいが、経験は溜まっても、システム的なレベルがあるわけでもなし。

 なかなかやり甲斐にも乏しい。


 そうしてまた砂漠を進む。


「サソリですわ」

「よし、任せろ」


 今度は打って変わって私もやる気を見せる。

 サソリはカニに似ていて焼いて食べるととても美味しい。

 やはり食べごたえのあるモンスターは倒すモチベーションになる。


 ただし、さすが甲殻類だけあってその装甲の硬さはなかなかのものだ。

 ミスリルソードがなければ勝てないかもしれない。


「やあああっ」


 関節部を集中的に狙い攻撃を加えていく。

 頭の中央へ思い切り剣を叩きつけた。

 頭部の殻にヒビが入り貫いた。


「やったにゃ」

「ふう、今晩はサソリ焼きね」

「サソリ焼きですか?」


 アリス姫様が聞き返して来る。


「はい、みんなで食べましょう」

「楽しみですわ」


 アリス姫様はわりあい何でも食べてくれる。

 好き嫌いがないのか、思ったよりもたくましい。


 また砂漠を歩いていく。

 これでも長い間探索されてきた。

 この手前側の砂漠は探索され尽くしていた。

 目指すのはもっと奥の方だ。


 目の前の砂がいきなり盛り上がり人型を形成していく。


「くっ、サンドゴーレムです」

「やるにゃんね」

「ここはまかせてください。アイスストーム」


 氷の奔流がサンドゴーレムを包み込んでいく。

 ゴーレムは半分ほど凍りついていた。


「いまです」

「さんきゅ、エルナ」


 剣をゴーレムに振り下ろす。

 氷が割れ、ゴーレムが砕けていく。


「やりましたにゃ」

「そうね、さぁ核を探しましょ」


 ゴーレムにも魔核がある。

 一般的には魔石と呼ばれ、錬金術の材料にされる。

 ゴーレムだった砂山を掘ると、中から十センチ角の角ばった半透明の石がでてくる。

 薄紫色でこれが魔核だ。


「いい魔石です。よい魔道具が作れますね」


 アリス姫様もにっこりだ。


「砂嵐になってきましたね」

「はい、ここはいつもそうです。壁になってるんです」

「なるほど」


 この付近はいつも砂嵐がある。

 先が見通せず、向こう側がわからない。

 布で口をふさぎながら進んでいく。

 空も暗くなっていて、なんだか不気味だ。


 この状況で待ち伏せされると危険だが、向こうもこちらが見えないのであまり襲われることはなかった。


「晴れてきました!」

「はい、あれ、見てください」

「泉! あれがオアシスですね」

「そうです。メランダオアシスですね」


 砂嵐を抜けると、そこにはひとつのオアシスがあった。

 水を蓄えた二十メートルくらいの泉。

 それを囲うようにヤシの木がたくさん生えている。

 さらに下草が少し茂っていた。


「テントがありますわ」

「はい、実はここに常駐しているパーティーがいるんです」

「こんなところにですか?」

「そうですね」


 アリス姫様はびっくりしていた。

 60階最深部に住んでいる人がいるとは思わないだろう。


 テントが三つだろうか。


「こんにちは」

「あら、いらっしゃいませ」

「この子がラールちゃん。あっちがエレナちゃんね」

「はい、えっとアリス姫様ですよね?」

「そうです。よろしくお願いしますわ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 適当に挨拶を交わす。

 猫耳族の姉妹だ。お姉さんが黒髪のラールちゃん。

 妹が茶髪のエレナちゃんだ。


「このサソリを焼肉にしてください。みんなで食べましょう」

「え、本当ですか。ありがとうございます」

「どうぞどうぞ」

「エレナ、サソリ貰ったわ。焼きましょう」


 もう夕方だ。今日はここに泊まる。

 姉妹は獣人なのでポーターだ。荷物を満載してここに常駐している。

 定期的に補給物資を届けてくれる人がいるそうだ。


「おやすみなさい」

「おやすみです」

「おやすみにゃ」


 翌日。メランダオアシスを出発する。

 また砂漠の中を進んでいく。


「さて、そろそろ未踏破地域ね」

「はい。注意していきます」

「うにゃ。頑張るにゃ」


 ここから先はほぼ誰も入ったことがない。

 どんなモンスターが出るかもわからなかった。


 と、一瞬自分たちの上に影が落ちる。


「うっ、ホワイトイーグルだわ」

「鳥さんにゃん。任せるにゃ」


 サーナが弓矢をアイテムボックスから取り出して、上空を狙う。


「えいにゃ」


 一発目は近くまで飛んでいったが、ハズレ。


「今度こそにゃ」


 再び、弓を射る。

 上空へと飛んでいき、みごとホワイトイーグルの胴体を貫いた。

 イーグルはそのまま落ちてきて、地面の上に墜落した。


「サーナ、お手柄ですわ」

「にゃっは、うれしいにゃ」


 アリス姫様にも褒めてもらった。

 敵に応じて、誰が戦闘するかは変わる。

 適材適所があるため、ジョブと言われる武器種別が異なる人とパーティーを組むのがセオリーだった。


「アリですわ」

「すごい数です」


 五十センチくらいのサイズのアリがあちこち歩いている。

 砂漠仕様なのか色は赤茶だった。


「軍隊アリですね。誰か言ってました」


 最深部の情報はそれとなく共有される。

 軍隊アリについてもすでに命名されていた。


「これは戦闘をするんですか?」

「とりあえずは様子見しましょ」


 アリは別にすぐには襲ってこなかったので、こちらからわざわざ仕掛けることもない。

 すでに囲まれていて少し怖いが、敵対的ではないと思えば大丈夫だろう。


 その先には岩場があった。


「ねえねえ、あれ、剣が」

「ええ、過去にここまで来た人がいるんですね」


 エナルの言う通り、過去の冒険者だろう。

 岩場の一番上、剣が突き刺してある。


「まるで勇者の剣ね。えっとほら」

「エクスカリバーですか?」

「そうそれ、エクスカリバー」


 アリス姫様は物知りのようだ。みんなで同意して、その偉大な剣を眺める。


「これは新発見ですが、私たちが最初ではなかったんですね」

「そういうことね、エナル」

「にゃはは、人類はすごいにゃんね」

「うんうん。さて引き返しましょうか」


 今回は姫様の最前線の視察だ。あくまでも。

 ということで引き返すことにする。

 偶然でもボスが見つかれば、近くに階段がある。

 だがボスはいないようだ。

 どこまでいけばいいのやら、砂漠は広い。



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