第7話
サミュエル様はお目覚めになった時には左半身に麻痺が残り、動かし辛い状態でした。しかし、精力的に動かす訓練に取り組んだ効果で、以前と同じとはいかないまでも動かせるようになり、普通に歩けるようにもなりました。流石はサミュエル様です。
お食事もしっかり摂り、お身体も次第に戻ってきました。私は謹慎中ですから、サミュエル様に付きっきりで看病いたしましたよ。
その間にサミュエル様が眠っていた間に起きた出来事をお話しいたしました。サミュエル様はエーベルト侯爵一派がガーランド侯爵家排斥に動いた事については驚かれませんでしたね。
「さもありなん。元々あやつは権力欲が強い男だったからな。好機は逃すまい。少し手回しが良過ぎる気もするが……」
そして、最後に私が皇帝陛下の反感を買うために、大臣の位を要求したと聞くと、大きな声で笑った後、真面目な顔をして言いました。
「なんだ。シェリアーネが大臣になれば帝国の発展に大いに与するだろうに。皇帝陛下を脅してでもなってしまえば良かったのだ」
嫌ですよ。帝国の統治はサミュエル様とエクバール様がいれば安泰ではありませんか。エクバール様はガーランド侯爵家当主代行として順調に帝国の政務に取り組んで、着実にその有能さを発揮して、皇帝陛下のご信頼をどんどん得ているそうです。これでサミュエル様が後見役として復帰なされば怖いものはありません。
サミュエル様はあの事件で私がしでかしたことはほとんど追認し、絶賛して下さいましたが、一つだけ修正を指示しました。
「エーベルト侯爵一派の家は取り潰してはいかんな」
私は徹底的にやっつけるべきだと思っていたので驚いたのですが、サミュエル様曰く、高位貴族をいくつも潰してしまうと、帝国の運営や領地の配分がガタガタになってしまうそうです。
ですから、罪は当主の引責辞任と多額の罰金に留めておき、後は継続的に監視をして置けば良いとのこと。
「ガーランド侯爵家とエーベルト侯爵家は縁戚でもある。高位貴族など大体親戚だからな。関係が良かった時代もあるのだ」
だから、一度の対立で取り潰しまでやってしまうと、他の血縁関係のある家が反感や危機感を覚えてしまう可能性があり、それは潜在的な危険要素になってしまうそうです。
なるほど。納得出来る話でした。所詮は伯爵家の末娘の私ですから、そういう高位貴族の関係の裏側までは頭が回りません。反省する私の頭をサミュエル様は笑いながら撫でて下さいました。
「私ではいきなり軍勢を帝都に入れて帝宮まで占拠するとまでは思い切れなかっただろう。その苛烈さは、さすがは『竜巻のシェリアーネ』だな」
「揶揄わないで下さいませ」
その大げさな二つ名はこの頃社交界に流れているそうです。私は謹慎中で社交に出ていないので知りませんでしたが、エクバール様が楽しそうに教えて下さいましたよ。
サミュエル様は順調に回復され、お目覚めになって丸一ヶ月後、帝宮に上がって皇帝陛下に接見致しました。当然、私も付き添いましたよ。
皇帝陛下はサミュエル様をサロンにお招きになりました。そして立ち上がってお迎えになりましたよ。他の方はいません。サミュエル様が如何に重視されているか、私の接見時に如何に軽視されていたかが分かりますね。
皇帝陛下のお顔はもう最初から引き攣っていましたよ。汗もだらだらかいています。何しろ、人事不省になった所を排斥しようとしたサミュエル様と、その後無茶苦茶やって無理矢理ガーランド侯爵家を復活させた私が揃ってやってきたのですから。それは緊張するでしょう。
席に着いたサミュエル様は皇帝陛下に、病による不在を詫び、幸いにも回復したものの以前とは同じでは無いので、エクバール様を引き続き当主代行として事実上の代替わりを行う事を告げました。
「まぁしかし、私も出来る範囲で皇帝陛下と帝国のお役に立てれば、と思っております」
サミュエル様の言葉に皇帝陛下は口元を僅かに歪めました。エクバール様を後見して場合によっては自ら乗り込んで帝政に関わる、という意味ですからね。
そしてエーベルト侯爵一派の処分についての提案をします。穏当な処分内容に、皇帝陛下は明らかにほっとしたご様子でしたね。しかし、サミュエル様は釘を刺します。
「もしも、またしても皇帝陛下の御心を騒がせた場合には、きつい処分が必要ですぞ」
御心を騒がせたのは断然この私の方だと思うのですが、陛下にはそんな事は言えませんでしょうね。エーベルト侯爵一派に対して当主の強制代替わり(この場合は前侯爵の帝宮への出入りは認めないという制限が付きます)と多額の罰金が科される事が決まりました。次期エーベルト侯爵はまだ十三歳。成人したばかりだそうで、帝国貴族界や政界に対する影響力が大きく低下することは避けられないでしょう。
そして他にも雑談混じりに色々お話をし、皇帝陛下の緊張が抜けてきた頃を見計らって、サミュエル様は皇帝陛下にお願いを致しました。
「さて、我が妻も長い謹慎を経て反省した様子。そも、私の病気の間に我が家を護ろうと勇み足を踏みましたが、全て陛下と帝国と我が家の事を思っての事でございます。そろそろ陛下のお許しを頂けませんでしょうか?」
皇帝陛下はウッとなりましたよ。本音では私のようなトンデモ女は一生謹慎していて欲しいのではないかと思いますが、サミュエル様のお願いでは断れません。
「……分かった。赦免しよう。謹慎を終えるが良い」
本来私の謹慎はエクバール様の命ですが、これを皇帝陛下が赦免して解除する事に意味があります。あの事件での私のやらかしを帳消しにする、という事ですからね。
「ありがとうございます。皇帝陛下。私も微力を尽くして陛下と帝国のために務めようと思いますわ」
私は穏やかに微笑みながら言ったわけですのに、皇帝陛下はお顔に汗を浮かべて引き攣った笑いを浮かべていらっしゃいましたね。大丈夫ですよ。私は侯爵夫人として侯爵領の経営に専念する予定ですからね。
◇◇◇
こうして私は謹慎を終え、サミュエル様も政務に徐々に復帰されました。エクバール様もサミュエル様の復帰に安心なされたのか、表情が柔らかくなってきましたね。お茶をご一緒していたある日、穏やかに笑うエクバール様のお美しいお顔を眺めながら私は言いました。
「エクバール様もそろそろ結婚しないといけませんね」
エクバール様は吹き出して、危うくお茶をこぼす所でしたよ。
「な、何を言い出すのか先生!」
「え? だって当主代行にもなったのですもの。年齢も十六歳ですし、今年か来年には婚約しなければならないでしょう?」
高位貴族は男性でも二十歳前後で結婚するのが普通です。女性ほど厳しい慣習では無いですけどね。それを考えれば、エクバール様もそろそろ結婚相手を探さねばならないでしょう。
私も義母として先生として、何かをした方が良いのでしょうか? 幸い、私は例の事件の関係で帝国貴族の事は一通り調べて家族や私生児まで把握しております。エクバール様は素晴らしいお方ですから、選り取り見取り、どんな方にも縁談が断られることなど無いでしょうけど。
考え込む私を、エクバール様は呆れたように見ていましたけど、ぷいっと横を向くとふてくされた様に仰いました。
「まだ、当分良い。結婚は。まだしたくない」
「まぁ、それは何故ですか?」
「……失恋の痛手からまだ回復していないからだ」
まぁ! エクバール様が振られたですって!? 私は驚きました。そして怒りましたよ。この素敵な貴公子で有能な政治家で、どこに出しても恥ずかしくない理想の義理の息子を振るとはどこのアンポンタンでしょう!
「許せませんね! エクバール様の素晴らしさが分からないなんて! その令嬢の目は節穴に違いありません!」
私が憤怒に任せて叫ぶと、エクバール様は苦笑しましたね。
「まぁ、大事なところだけ鈍い女である事は間違い無いな」
◇◇◇
サミュエル様のご体調が完全に回復した後、ガーランド侯爵家は屋敷で夜会を開催致しました。サミュエル様の快気祝い。私とサミュエル様の結婚披露宴のやり直し。そして例の事件でご迷惑をお掛けした皆様へのお詫びの意味も込めての舞踏会でした。
皇帝陛下以下、結婚披露宴とほとんど同じ方々がいらっしゃって下さいましたよ。エーベルト侯爵家の方々までいらしていました。流石に、前当主は来て下さいませんでしたけどね。和やかに挨拶を交わさせて頂きましたよ。本心を隠して挨拶くらい出来ないようでは高位貴族失格ですからね。
サミュエル様はすっかりお元気になり、心配していた左半身の麻痺もほとんど回復なさいました。事前にダンスの練習もしまして「流石に以前のようには行かぬな」と嘆かれていましたけれど、しっかりとしたダンスも出来るようになっていましたね。
今回、私は水色のシンプルなドレスを着ました。宝飾品も控えめ。本来私はこの程度の装飾のドレスが好きです。濃紺色のコート姿のサミュエル様と収まりが良い色合いですしね。謁見の儀で着たド派手なドレスを知っている皆様は意外に思ったかも知れません。あるいはサミュエル様に言われて抑えた装いをしていると思ったかも知れませんね。
実際にはサミュエル様は「君は若くて可愛いのだから、もっと華やかなドレスを着て良いのだぞ?」と仰って、私にフワフワひらひらしたピンクのドレスとかを着せたがるのですけどね。サミュエル様の私の印象はどうなっているのでしょうか。
とりあえず二人がしっくりし収まる装いで、仲睦まじく並んで皆様の挨拶を受けます。今回はサミュエル様のご健在と、私とサミュエル様の関係が揺るぎない事をアピールするための夜会です。急激に評価の高まっているエクバール様と合わせ、ガーランド侯爵家の盤石さが皆様の間で常識となる事でしょう。
挨拶が終わればダンスの時間です。私はサミュエル様に手を引かれてホールの中央に出ました。サミュエル様はもう流麗に踊れるようになっております。それでも僅かに不安の残る左足をあまり使わないで済むように、左を軸にするターンを無くした踊り方を事前に検討して練習しましたよ。見ている皆様にサミュエル様の健康についての隙を感じさせないためです。
寄り添って踊り出します。滑らかに、時には力強く。私をリードして下さるサミュエル様に不安はありません。まだ僅かに以前に比べれば頬のそげているお顔を間近に見ながら、私はうっかり涙ぐんでしまいました。
「どうした」
サミュエル様は驚いた様に仰いました。いえね。別に私もどうだという訳ではないのですが。サミュエル様がここにいらっしゃって、こうしてまた私とダンスを踊って下さっているというのが奇跡のような事だと思えて、感情が盛り上がってしまったのです。
「……よくぞご無事で、と……」
私は何とかそれだけ言いました。サミュエル様は何とか涙を堪える私を見て、優しく私を抱き寄せて下さいました。それでもステップを乱さないのは流石と言うべきですね。
「君のお陰だ。私が目覚めても、その時にはすっかりガーランド侯爵家の権力は奪われている可能性があったのだ。ありがとう」
私は頷きました。サミュエル様はこれまでも何度も私の功績を讃えて下さり、感謝の言葉を掛けて下さっていました。でも、私は侯爵夫人として当然の事をしただけだと思っていましたよ。
私の能力を買ってくださり、侯爵夫人として迎えて下さったサミュエル様の期待を裏切る訳にはいかなかったのです。だから私は全力を尽くしました。反逆すれすれの真似までして。いざとなれば、エクバール様が私に全ての罪を被せて処刑して下されば良い、とまで思い詰めて。
それは、もうサミュエル様は助からないだろうと絶望したからでした。サミュエル様がいないのであれば、私はもう生きている意味が無い。その命を、ガーランド侯爵家のために捨てる事に一切の躊躇は無かったのです。
ですがサミュエル様が生き返り、こうしてその胸に抱かれていると、私はもう死にたいなんて全く思えませんでした。サミュエル様とずっとこうしていたい。彼の伴侶として末永く、出来るだけ長く一緒にいたい。素直にそう思えるようになっていたのです。
つまり、いつの間にか私はサミュエル様を本気で、真剣に愛するようになっていたのです。侯爵夫人として就職するするくらいのつもりでしたのに。いつの間に私はこんなにこの方が好きになっていたのでしょうね。
きちんとした恋愛をして結婚する、という夢はすっかり叶っていたわけです。それは幸せな事で、その幸せを失い掛けた絶望は深く、取り戻した喜びは本当に大きく。その喜びのままに私は愛しい夫に向けて言いました。
「サミュエル様、愛しています。本当に愛しています。ずっとずっと、私と一緒に居て下さいませね?」
サミュエル様はその瞬間、顔中を真っ赤にしてしまいましたよ。何ですかその初々しい反応は。私まで顔が赤くなってしまうじゃありませんか。
しかしサミュエル様はすぐに立ち直り、凜々しい笑顔で仰いました。
「約束しよう」
そして私を抱き上げるようにしてキスをして下さいました。ダンスの終わりの決めポーズに合わせてね。その様子を見て周囲の方々からは思わず、といった感じで拍手が沸きましたよ。
◇◇◇
私とサミュエル様がダンスを終えると、私達はそれぞれ来賓の皆様と踊りました。私は最初に皇帝陛下と踊ったのですけど、陛下はもう緊張なさって、表情は引きつり、ステップは乱れて大変な有様でしたね。
「そんなに緊張しないで下さいませ。陛下」
私はニッコリと笑います。
「ガーランド侯爵家を陛下がお引き立て下さっている限り、私は二度とあのような無茶苦茶は致しませんから」
「……心しよう」
陛下と踊り終えて、他の方々と踊りながら、私はサミュエル様の事を目の端でずっと追っていました。
サミュエル様はお身体の不安がありますから、ダンスは数曲に一回踊るだけで、誘いを求めるご婦人方と談笑するに留めているご様子でした。私は誰がサミュエル様に近付くかを見ていたのです。別に浮気を疑っている訳ではありませんよ?
そして、あるご婦人がサミュエル様に近付きます。
「披露宴でご一緒させて頂いたダンスが忘れられませんわ。またご一緒させて下さいませんか? ガーランド侯爵」
エセルベール伯爵夫人でした。相変わらず変わった香りの強い香りを身に纏っています。サミュエル様は笑顔で伯爵夫人に言いました。
「済まぬが、まだ身体が本調子でなくてな。またの機会にして欲しい」
「あらあら、あのように素敵なダンスをしていたではございませんか。是非、お願い出来ませんか?」
エセルベール伯爵夫人は猫なで声を出しながらダンスをせがみます。そしてサミュエル様の腕に手を伸ばしました。
エセルベール伯爵夫人はサミュエル様と同年代。かつて、一時的に恋人関係にあったようですね。特に夫人の方が熱烈にサミュエル様を愛していたようですけど、結局二人は別れて、サミュエル様は前の奥様とご結婚なさったのだとか。
そういう昔なじみの関係ですから、エセルベール伯爵夫人の態度が馴れ馴れしくてもサミュエル様は怒りませんし、周囲も変には思わないでしょうね。そういう計算が夫人にはあるのでしょう。サミュエル様の腕を抱き寄せて自分の身体をサミュエル様にすり寄せようとしました。
そこを捕まえました。がしっと、左腕を掴み、思い切り引っ張ってサミュエル様から引き離します。
「きゃ~!」
エセルベール伯爵夫人は可愛い悲鳴を上げて引っ張られ、バランスを失って床に転がりました。周囲で驚きの声が上がります。そして、ご婦人を転倒させるという狼藉を働いた人物に視線が集まります。……つまり、私です。
「サミュエル様に近付かないで下さいませ。エセルベール伯爵夫人」
私は冷たい微笑を浮かべ、エセルベール伯爵夫人を見下ろしました。伯爵夫人は呆然としています。そして我に返ると、私に向かって怒りの声を上げました。
「な、何をするのですか! 私が何をしたというのです!」
そうですね。人の夫にしな垂れ掛かろうとしたのは問題ですけど、いくら何でも無理矢理転ばされるほどの事ではありませんね。何もなければ私は非礼を働いたとして伯爵家から抗議を受け、謝罪と賠償を余儀なくされた事でしょう。
しかし私は謝罪なんてする気はありません。むしろ怒りを込めて倒れたままの伯爵夫人に詰め寄り、そのドレスの胸ぐらを掴んで引き上げました。
「ひぃいい!」
伯爵夫人がさらなる狼藉に悲鳴を上げます。周囲は騒然です。侯爵夫人が伯爵夫人の胸ぐらを掴んで引き起こしている図なんて、長い帝国の歴史の中でも初めてなのではないでしょうか。
もちろん、私はなにも、嫉妬心からこのような行為に及んだ訳ではありません。私は鼻をひくつかせました。
「私もうっかりしていましたよ。この香りを忘れていたなんて」
エセルベール伯爵夫人の表情が私の言葉を聞いて固まります。
「私の祖父は心臓が悪くてね。時折気付けの薬を嗅いでいたのです。アーセンダという花の香油でしたか? 確か」
何でも嗅ぐと血管が拡張されて血の巡りが良くなる薬なのだそうです。
「その時、祖父に処方した医師が言っていました。強い効果があるので、使い過ぎないように。嗅ぎ過ぎると血の巡りが良くなり過ぎて、心臓が悪い方には逆効果になる場合があると」
私は伯爵夫人を睨みました。本気で睨みましたよ。伯爵夫人が悲鳴を上げるのを見ても構いません。
「結婚披露宴の時にも貴方はこの異常な香りを纏っていらっしゃいましたね? そしてサミュエル様がお倒れになったのは貴女と踊った直後でした」
サミュエル様があの時しきりに鼻を擦っていたことを思い出します。異常な発汗は血が激しく流れすぎた事によるものだったのでしょう。
「貴女がサミュエル様を暗殺しようと企んだ事は明らかです。一度ならず二度までも。許せません!」
「ぬ、濡れ衣です! 証拠はあるのですか!」
エセルベール伯爵夫人は必死に叫びました。アーセンダの香油は刺激臭と言ってもよい強過ぎる香りですから、そんな物を薄めもせず香水として使うなんてそもそもおかしいのですが、それは兎も角。証拠ならちゃんと掴んでいますとも。
「貴女がエーベルト前侯爵と図っていた事の調べは付いています」
エセルベール伯爵夫人の表情が驚愕に歪みました。どうも二人は若い頃、これも恋人関係だった事があるようです。そして私達の結婚披露宴前にも何度か打ち合わせている事も確認しました。貴重な薬であるアーセンダの香油を大量に輸入したのもエーベルト侯爵です。
「侯爵邸の使用人、貿易商、その他複数の証言が取れています。そして今この瞬間、貴女から立ち上るこの香り。言い逃れができるならやってみなさい!」
私の言葉に、エセルベール伯爵夫人はガクガクと震え始めました。それを見て周囲の方々に納得の表情が広がりましたね。ちなみに、この夜会の前にサミュエル様には私の推理をお話しし、エセルベール伯爵夫人を招待すれば必ず同じ事を企み馬脚を現すだろうと、サミュエル様には囮を務めて頂いたのです。サミュエル様は楽しそうに承知して下さいましたよ。
あ、危険を除くために、サミュエル様には鼻栓をして頂いておりますよ。
「捕らえて牢に放り込みなさい! 厳しく取り調べて全て吐かせるように!」
私が命ずると、衛兵が飛んできてエセルベール伯爵夫人を縛り上げます。彼女は悲鳴を上げましたが構うものですか。縄でグルグル巻きにされた伯爵夫人に歩み寄り、私は間近から彼女を睨み付けます。
「サミュエル様のお命を狙った罪。私に一時とはいえ絶望を覚えさせた罪。帝国を混乱させ皇帝陛下のお心を騒がせた罪。軽くはありませんよ? 楽に死ねると思わぬように」
エセルベール伯爵夫人は泡を吹いて気絶してしまいましたね。私は衛兵に彼女を牢に入れ、自殺を絶対にさせないよう監視せよと命じました。当然ですがエセルベール伯爵家は取り潰しになるでしょうね。こればかりは譲れません。本音では共謀したエーベルト前侯爵を含めた関係した者どもを全員並べて首を刎ねてやりたい気分なのです。
伯爵夫人が連れ出された後、私はサミュエル様のお側に行きました。サミュエル様は鼻栓を引き抜いて苦笑していましたよ。囮役は再犯させた方が誰の目にも罪が明らかになるから必要だったのですが、それでもアーセンダの香りを少し嗅いでしまうかも知れない危険な事でした。問題無いようでホッとしましたよ。
私はサミュエル様の腕を抱き、彼の胸に自分の顔を埋めました。大事な旦那様。私があらゆる手を尽くして長生きさせてみせます。そのためなら私はいくらでも本気を出しますからね! 手段は選びません!
そして私とサミュエル様は手を取り合って、皇帝陛下を始めとしたお客様に頭を下げました。
「「お騒がせして申し訳ございませんでした。問題は全て片付きましたので以降もごゆるりとお楽しみくださいませ」」
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