花に生まれる

石村まい

花に生まれる


真っ青に光の割れていく朝のかつて白鳥だった木々たち


ひとつずつ星を名づけるひとだから涙はきっとまっすぐ落ちる


砂の城を脚で崩してゆきながらきみがどこかへ飛び立つはなし


あおぞらがみえないあおぞらがみえない 許すためには青空が要る


ていねいに棘を抜かれた薔薇だったいちばん弱いいきものだった


ゆっくりと繊維に変わる 夕焼けを背にもつれあう蝶々たちは


失恋と同じ原理で蓮根は穴の部分がおいしいらしい


一緒ならこわくないねとささやかれ遠くの海が燃えてゆく夢


フォークからスパゲッティーが脱落し私は私でニートになった


さみしさがまぶたを避けて通れぬよう夜にかがやくフルーツナイフ


跡だからはじまらないよこの部屋は月がこぼれた跡だからもう


熟れきった葡萄の皮がつめたくてそうして石に還っていった


北西へきみは走ってゆくのだね ほつれを知らぬ釦のように


羊水がすこし濁ってしまう日のペトリコールを愛してねむる


菜の花に生まれる前のわたくしはじつは星座のぬすびとでした

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