シースルー


爪先から夏めいてゆく 木漏れ日が森のかたちをほどいてゆけば


裏道の表のほうを知らぬまま軽トラックの錆がきらめく


船は海に海はわたしに蓋をして輪郭のない母性があった


けだもののことばを深く閉じ込めて博物館のしずかなる窓


フランセの天気のはなし旧友の声うつくしく受話器をとおる


夕凪のながさがこわい 首を振る機械ばかりにあふれる街の


ある糸をもつれさせては解くように君の何かを許しつづける


月光がとどけば腐る本棚の奥に沈めるサン・テグジュペリ


しあわせを連呼していてキッチンの隅の埃は永遠にある


はらはらと夕陽の溶けてゆく池にいつかの卵子のわたくしが居る


秋は壺 倒れなかった木々たちの影を正しく川面に満たす


第二病棟なんどもなんども角を曲がってしおれた花が一輪もない


黒よりも強い絵の具を欲しがって何も描けないひとでごめんね


ふたりだけの庭にしましょう 十二回目の絵葉書をそこに寝かせて


母がふと視線をあげてシースルーエレベーターがひかりの器

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