こころの映画


海と春 記憶の膜をすこしずつ破いてゆけばこんなに脆い


喫茶店の回転扉の三秒をめぐりつづけるふたりの微風


夢はいつもどこか寂しい卵焼きに気泡をひとつ見つけてしまう


淡々とその過去がありその声が吹いては消える、こころの映画


なにもつらくないはずなのに爪を塗る勝たねばならぬ勝たねばならぬ


ほんとうはあなたが虹をもっていて忘れた頃に映してくれる


やさしさが第二の炎であるようにことばは薪だ絶やさずつかう


荒野だろう そのまなざしの燃えている先にあなたが行きたがるのは


空ばかり見ていたかったカンヴァスの空白がふと痛みをはらむ


ゆるやかに堕ちるならいい 貝殻を撫でたり捨てたりして笑うのだ


山焼きのとてもしずかであることが何処かの国のまぼろしになる


入る順に歩みが遅くなってゆく書店のドアの裏表紙めく


対岸のキャッチボールは終わらずにそういうシーンのようだとおもう


今日からが真冬と決めて鈍色の波があなたをさざめいている


はらわたに鱗に触れて、そうわたしは妻なのだった あおい夕暮れ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花に生まれる 石村まい @mainbun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ