Inheritance Mythology

海空ひかり

第1話 夢の跡地

叫び声

とてつもなく悲痛な苦しみの声

少年にとっては正に世の終わりのような時であった

なぜこのような出来事に巻き込まれているのか

なぜこのような目にあっているのか

なぜこの人たちは笑って自分を見ているのか

心は痛くないのか と疑問が何度も何度も頭の中で響く

痛み

この世で最も経験することとなる出来事

果たして自分は耐えることができる人間なのか と最後に少年の意識は途絶えた

が、彼らはそれを許さない

ありとあらゆる方法で少年の意識を蘇らせるのだ

水をかけ 布をかけ 骨を折り 何とかして意識のある状態で彼らは少年を苦しめる

少年はふと思った



死にたい と



だが、少年の思いも虚しく

何度も何度も同じことを繰り返し繰り返しされるのだった

いっその事夢であってくれ と意味もなくただただ少年は思うのだ


そして少年は 考えるのをやめた

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「おい、大丈夫か?」

彼を揺さぶり起こすのは、銀髪で透きとおる蒼い眼もの青年

青年は心配そうに彼を見つめる

あまりにも酷かったので気づかなかったが、彼はかなり汗をかいている

それもただの汗ではなく、血の混じった汗、それにすごく疲れている

寝ている間に恐らく、先程の悪夢なのだと彼は理解する

「ああ、すまない。もう大丈夫だ。

構わないでくれ 」

彼はそういうと立ち上がりふかふかのベッドのシーツを剥ぎ取り、泊まっている宿屋の主人に すまないが洗濯を頼む と言い部屋に戻った

戻る頃には銀髪蒼眼の青年は、身支度を済ませ

なんなら先程剥ぎ取ったシーツまでも新しいのに交換していた

ついでにしてやったぞ、褒めてくれと言わんばかりの顔を見せつけてくる

そのシーツは精密に綺麗に、まるでお店で買ったような新品の封も開けていないような状態に

「いつもありがとう、さすがだな」

と、青年を褒めその青年は満足気だ

「ところで」

銀髪蒼眼の青年はそう言うとゆらりとベッドに腰かけ

彼に問う

「ちゃんと自分の名前は、覚えているのかい?」

「ああ、大丈夫だ。俺の名はルティ…。ルティ・レイザーだ」

と彼は再度、自分の名をしっかりと確認し身支度を済ませ

泊まっている宿屋を青年と共に後にした


これがいつもの日常である

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

さて、ルティ達が泊まっていた街はのどかな街【クレアシオン】

この街の人々は、すごく優しく、美しく、笑顔に溢れている

この街に訪れる人々は、例えどんなに性格の悪いクズであっても、怒りっぽく険悪感を持っている人であっても、必ずと言って良い程、穏やかで優しい人物になれるそんな街である

そもそもこの街…というよりこの国が助け合いの精神や相手を思いやる事に溢れている国であり、その中で最も優しく穏やかにいれるのは、この【クレアシオン】なのだ


「ここは、いい街だなあ…!心が浄化される感じがするよ。癒しっていうのかな…。晴れ晴れとした素晴らしい気分になる…!ルティもそう思わないかい??」

「晴れ晴れはちょっと分かんないが…まぁ、心が落ち着くのは確かだ。その証拠に傷も大分癒えたしな…。身も心も…」

そういうとルティはシャツの胸の当たりをぎゅっと優しく握りしめた

俺にとって、この街は故郷とも言える場所となるだろう

そう心に静かに思ったのだった

「…それにしても、お前は感情豊かで羨ましいな…ニッキー」

「そうかなあ?お前も大分感傷に浸ってただろ?ルティ」

確かに、とルティは微笑んで返す

街の人達は誰一人として苦痛の表情をあげていない

ただ純粋に全てに楽しんで生きていると誰もが感じる

幸せなところだ

そう感じてもおかしくない…だからのどかな町と呼ばれるのだろうか

一生ここに住んでいたい所だがそうもいかないのだ


そう


彼らにはやるべき事がある

ルティとニッキーにはやらなければならない使命がある

彼らは今日限りこの のどかな町【クレアシオン】を旅立ち

自らの野望の為にこんな所でボサっとしていられないのだ

ルティは失った自分の記憶を取り戻すために

ニッキーは復讐のために

情報は少ないがそれぞれの硬い意思がそうさせるのだ

例え困難が立ちはだかっても、彼らは決して…決して挫けたりなんかしない

各々の野望を終わらせるまでは!


時代は1950年代

第二次世界大戦が終戦となり、少し時が流れる

それぞれの国が大きく心身ともに崩れかけていたのだが

そんな時にひとつの大きな大きな存在がこの世に放たれたのだ

その名も ドンジ財閥!!

ドンジ財閥は、医学薬学、電気電子工学、古代文化、農作業、経営学などなど…

ありとあらゆるこの世に関するものほとんどが研究が異常なまでに進み発展しており

第二次世界大戦が終戦した後すぐに、ドンジ財閥が立ち上がり

各国の経済や状態をたったの1ヶ月で普通…いや、それ以上まで回復させたのだ

だがしかし、ここで人類は大きな失敗をしてしまう

このドンジ財閥、表向きはいわば世界のヒーローと呼ばれし組織

国同士の大きな話し合いの場に置いても必要不可欠な存在である

そう、正にこれが問題なのだ

突如として現れたドンジ財閥

誰が最高責任者で、誰が作った組織なのか

目的は一体何なのか、何のための組織なのか

一体なぜ、新種の薬品を提供できるのか

なぜ人体の構造も事細かに知っているのか

本来なら募る疑問は山ほどあるはずなのに誰もそこに目を向けようとしない

いや

目を向けられないのだ

「実の所、ドンジ財閥の真実に疑問でも思ったらその時点で消されてしまうんだ。

それにこうして俺もお前もこういう事が出来るのもすごく奇跡的なんだぜ?

俺は元々、ドンジ財閥の構成員だったが、真実を知ろうとちょいとだけ情報を盗んだらヘマやらかしてこのザマさ。

命からがら逃げる最中に偶然、廃人になりかけていたお前を連れ出したんだよ。

これはその時ついてしまったお前の頬の傷と俺の腕の傷なんだ」

ルティの記憶を取り戻す為に始める旅

それがいよいよ今日なのだ

そんな今日は晴れ晴れとした良い天気だ心が清々しくなるくらいの太陽が昇っている

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

食事も済ませ出発しようとしていた頃ルティとニッキーはつい見つけてしまう

因果というものなのか、運命というものなのか…

「あいつらは…!?」

「ああ、そうだルティ。あいつらはドンジ財閥の下っ端達だ。

記憶が無いお前でもさすがにあの服装を見ても奴らって分かるんだな。

というより本能が呼び覚ましたというべきなのか…?」

明らかにここの場にふさわしくないもの

サングラスに高級なスーツに革靴

指紋を残さないように手袋までしている

そんな彼らの目的はただ一つ

ルティとニッキーを始末すること、ただそれだけなのだ

二人が様子を伺う限り、どうも居場所を聞き出しているように見える

勿論、関わりたくない二人は静かにその場を後にしたかったのだが

なんと事もあろうにドンジ財閥の下っ端共は街の人達に暴力をし、殴るわ、蹴るわで大騒ぎを起こしていた

怒鳴り声を上げ、街の人々は悲鳴をあげる

こんなにも穏やかじゃない日があっただろうか…

ルティ達が立ち止まっていると街に響くような怒号が聞こえた

「ルティ!!

ルティ・レイザーとニッキー元薬学長を探せ!早急にだ!

隠れてないで出てこい貴様ら!

さもないとこの俺たちの炎で、この街の住人を誰一人残らず焼き払ってやるぞ!!

10秒だ!10秒だけ貴様らに猶予を与える!

この大広間に出てこなかったら、今言ったことを開始する!」

タチが悪い

これから旅に出ようって時にこんなことをしてくるなんて

とんでもないド畜生達だ

清々しかったあの気分を返せ!

とニッキーは思ったが、チンタラしていられない状況に彼らは置かれている

数を数えるにも無数の人数で一緒に数えている

ニッキーはちょっと笑った

「3!」

「2!」

「1!」

「0!貴様らは出てこなかった!よってこの街の者を皆!処刑する!!

火葬をするから手間が省けるじゃないか!ワハハ!

良かったなあ!ルティ・レイザー!

貴様らがこの街での生活をしている事は既に知っていたのだ!

敢えて貴様らを放置しておいたのだ!

たくさん世話になっているのになあ!貴様らは白状だなあ!

…さよならだ、この街も貴様らも」

そう言い放ちドンジ財閥の下っ端の彼らは一斉に腕を上にあげる

「「「ウノイア!ウノイア!ウノイア!」」」

瞬間、彼らの手から無数の炎が繰り返し放出されたのだ

飛ばした炎は上空へ舞い上がり滞空する

その炎は集まりなんと巨大な炎の塊となったのだ

なんとも恐ろしい光景がそこには広がっていた

その光景にさらに街中では更なる悲鳴と叫び声がそこら中に聞こえる

「ははははははは!

大元の指示はこの俺が出している為、俺が指示をすればこの巨大な、この巨大な炎の塊は地に落ち、どかん!だ…。

凄いだろう…。これが我らがドンジ財閥の研究と努力の結果なのだよ。

どこに隠れているのか知らんが、その場所でとくと指をくわえて眺めるといい!

自分の命欲しさで隠れてるんだもんなあ!最低で卑怯で傲慢な悪魔よ!

死ね!死に損ないどもがああああ!!!」

そして、彼らは一斉に手を振りかざした

「炎技・トレスイア!!」

本来であるならば、この巨大な炎の塊は、指令と共に地へ落ちこの街の至る所を焼き尽くす…はずだった

しかし、何も起こらない

それどころが巨大な炎の塊は、どんどん小さくなっていくのだ

みるみる無くなっていく炎の塊はついに無くなる

「あ、あれは!?」

下っ端のひとりが上に向かって指を指したその方向にはなんと

あのルティ・レイザーが空から落ちてきているではないか

いつからそこにいたのか、どうやって落ちているのか

ただ一人を除いて誰も知らない

頭から地面へと真っ逆さまだ

そして、激突

大量の土煙があがった

何が起こったのかは、まるで分からない

自殺でもしたのかと言わんばかりの呆気なさ

首から地面に激突したので、100%即死だろうと誰もが思った

「さて」

と言う言葉にざわざわしていた下っ端達は、一瞬にして静まり返った

確かにルティの声だ

彼は生きている

「お前たちは炎の使い方は愚か、魔技の使い方も知らないようだな。

そんな単調な攻撃じゃ俺には敵わないさ

いいか、よく見とけ。

炎はこうやって使うんだ

色んな使い方があるから、もし次来る時があったら今日は帰ってしっかり復習してまた挑んでこい。」

そう言うとルティの身体は、炎のように次第に燃え上がり

やがてその炎は、ルティの腕に収束された

「燃え上がれ!

炎技・双炎拳(ドスバーンナックル)!」

ルティが拳を振りかざすと、その炎は巨大な炎の拳となって現れ、下っ端達を焼き払った

悲鳴があちこちに聞こえ、辺り一面、黒く焼け焦げた体がそこら中に転がっている

「…もっとも、一生のうちにその火傷の傷が癒えるかどうかは分からないがな…。

致命傷では無い。生かしているのだ。

誰も死にやしないさ。

苦しみながら生きていくといい。」

そう言って、ルティはもうひと振り拳を振りかざし

あれだけ大勢いたドンジ財閥の下っ端共は全滅してしまった

もはや誰にも反撃は出来なくなってしまったのだった

「哀れだな。悪魔の子…」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

しばらくして街の人たちは、この光景を見てルティ達に早く出ていくように怒り出した

まぁ、無理もない

ルティとニッキーのせいでこんなことに巻き込まれてしまったのだから

置いていた荷物をしっかりと手に取り、ルティとニッキーはこの街を後にした

ひとつの言葉を残して

「この者たちを頼む。」

とだけ、街の人達に言いこの場を去った

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