後日談.「夏らしいデートを」とのことで、犬と一緒に入れるプールに来た。
ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ
はっはっはっはっ、ふすー!
ちゃぷぷぷぷぷぷっ!!!
「ふふっ、すごーい! まだ幼くて小さいのに、ちゃんと犬かきをしてる! はやーい!」
「泳ぐのは今日が初めてで、誰に教えてもらったわけでもないのに……!」
「きっとこの子……天才犬なのね! 将来は、水泳選手になれるかも!」
「……犬用のライフジャケットを着せてるんだから当然? 脚さえ動かせれば泳げる?」
「親ばかも、大概にしろ、ですって?」
「事実を言っているだけよ、事実を」
「それに、私はこの子の親じゃあないじゃない。だから、親ばかという指摘は間違いよ、お・お・ま・ち・が・い!」
「キミこそ、ずうっと心配そうにうしろをついて回って。過保護で、親ばかなのはそっちじゃない」
「……おかげで私も安心して、この子と一緒に遊んでいられるんだけどね」
「そうだ、今日は本当にありがとう。この子を連れて泳げるプール、探すのが大変だったでしょう? ダメもとで言ってみたのに、本当にこんな施設があるのね」
ちゃぱぱぱぱっ
きゃうっ! わんわんっ!
「この子はとってもはしゃいでいるけど……私たち人間にとっては、水浴び程度の浅いプールじゃない。もしかして、物足りないかしら」
「しっかり泳ぎたいのなら、向こうの大きなプールに行ってきてもいいのよ? この子のことは、私がちゃんと見ておくから」
「……ふぅーん、一緒にいたい、ね。ふふっ。やっぱりキミも、この子にメロメロなんじゃない。まあ、それも仕方ないくらいにかわいいけれど……」
「……へぁっ!? い、いっしょにいたいのは、わたしっ!?」
「ばっ、ばかっ!」
ちゃぷっ、ざばあっ!
「あっ……ごめんなさい! 思いっきり水をかけちゃって、目に入ったりしなかった!?」
「しみる……目が痛む……ど、どうしましょう……」
「……ラッシュガードを脱いだ、私の水着姿を見ることができたら、治るかもしれない?」
「………………」
「からかってる、わよね?」
「馬鹿なことを言う人には……もっと水をかけてあげる! えいっ! えいっ!」
「えぇ? 脱がないわよ。今日は泳ぎに来たわけじゃあないし、日焼けをしても困るし」
「それに、なんだか恥ずかし……ううん、なんでもない!」
「……なんだ、簡単に引き下がるのね。キミのことだし、もっと駄々をこねるとばかり……え? いま、なんて」
「よく考えたら、ほかの人に水着姿を、見られたくない」
「私の水着姿は、独占したいから」
「………………っ!?」
「そういうことを、キミは、恥ずかしげもなく……っ!」
「うう……ううぅ~~~っ!」
「……それ、なら」
「……きて」
「こっちに! 来て!」
「そう、もっとくっついて、私を隠すみたいに」
「そうしてくれれば、ほら」
「……キミだけが、見れるでしょう?」
「私の、水着姿!」
「あ、あぅ……私、なにを言って」
「う、うん。少しだけ、待って」
「私だって、キミのお願いは、その、叶えてあげたいし」
「でも、恥ずかしくて……だから……ええと……」
「う……わ、わふっ! わんっ!」
「……ふう、こうしていぬになれば……」
「あなたさまとくっついていても、恥ずかしくありません……ねっ!」
「いぬ耳ですか? こんなこともあろうかと、ラッシュガードのポケットに忍ばせておいたんです。さっと装着すれば、これこのとおり! というわけですね!」
「……なんですか、そのお顔は。さすがに傷ついちゃいますよ」
「それで、水着姿、ですね」
「え、ええ。ここに来たときから、心の準備はしていました。いましたが」
「ですから……すぅー、はぁー、すぅー」
「正直なところあまり自信は……がっかりなさったら……すみません」
「それに、日焼けをしたくないのも本当ですから」
「こうして……ファスナーの前を開けるだけで……そこからのぞき見ていただければ……
「あはは……なんだか、その」
「服を脱いで……下着を見せているようで……」
「はずかしい、ですね。えへへ……」
「いえあの、わたしはいぬなので、そういう感情はありませんし。あなたさまが望むのであれば、そうするのもやぶさかではないと言いますか……いえ、これは違って、そのっ」
「うぅ……なにか言ってくださいよぉ……」
「あなたさまのお好みに合うかと、それだけを考えて選んだ水着なのですから」
「かわいいものをお好みなのか、せくしー! がお好きなのか」
「たくさん想像して……なんども試着をして……」
「どう、ですか……?」
「似合って、いますか……?」
「あなたさまの、好みのいぬに」
「……彼女に、なれて、いますか?」
「ひゃあっ!? いっ、いえっ! 嫌じゃないですが、急に抱きしめられて、びっくりしてっ」
「……もしかして、あなたさま」
「わたしを、隠してくださっています?」
「ほかの誰にも、見られないように、って」
「わかりますよ。そんなにお顔を真っ赤にされていたら、誰にでも」
「……わたしもきっと、同じ顔をしていますけどね。えへへ……わふ……」
「でも、ですよ?」
「子いぬとはいえ女の子なんですから、しっかりと言葉で聞きたいんです。誰かに聞かれたら恥ずかしいですから、こうして……もっともっと抱きしめて……」
「耳元で、ささやいてください。こんなふうに……」
「あなたさまの水着姿は、とーっても、素敵でかっこいい、です」
「ですから……」
「わたしのことも、たくさんほめて……」
「めろめろに、してください……ね?」
「ふふっ。これは、今日に限った話ではありませんから」
「これからも、ずーっと、ずーっと」
「わたしのこと、かわいがってくださいませ♪」
(終)
イヌミミと尻尾をつけた幼なじみがうちに来て「助けてもらった子犬です。恩返しに来ました」などと言い張っています。 くろばね @holiday8823
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