6.学校から帰ってきたら、ドアの前で彼女と出会った。

「えっ」


「どうして、いつもより早、なんで」


「えっうんあの……こんにち、は?」


「………………」


「入るわよ」


「当然のように入るなって、当然じゃない。この一週間、ずっとキミの身の回りの世話をしていたわよね? キミのご両親に頼まれて、合鍵を渡してもらって」


「来てたのは犬? あのとき助けたポメラニアン?」


「………………幻でも見てたんじゃないの?」


「変なことを言ってないで、早く中に入りましょう。ドアの前で話し込んでいたら、ご近所にも迷惑じゃない」


「……なによその顔、にやにやして」


「ほら、早く! 遅くなる前に掃除機をかけてしまわないと、それこそご近所迷惑なんだから!」




 ☆ ☆ ☆




「……ふう。洗い物、ぜんぶ済んだわよ」


「手伝うのにって? 気持ちだけもらっておく。家事なんて、いままでしたことがないんでしょう?」


「キミと私のふたりだけなんだもの、それほどの手間でもないしね。だから、ほら」


「………………」


「……なにを待ってるんだって? 家事を済ませたんだもの、ごほうびに頭をなでて……」


「………………」


「~~~~っ!!!!?」


「やっ、ちがっ、あの、いまの、しょれはっ、しょのっ!」


「……えらいことをした子いぬは、きちんと褒めてあげなきゃいけないの!」


「ペットを飼う話はしたわよねっ!? 子いぬのしつけの本をずっと読んでいたから、それで!」


「なでなでしてあげるのも、ほめてあげるのと同じことだから!」


「あっ……ふぁっ……だから、ちがうってばぁ……なでるなぁ……」


「あうぅ……気持ちいいところ……わかられちゃってるぅ……ふわぁ……んっ……ふうぅ……っ」


「……もう! おしまいっ! 見たいテレビがあるって言ったでしょう、私も隣に座るから!」


「…………なによ、その顔は」


「当然のように手を取るなあ? だって、テレビを見るときはいつもこのソファで、こうして……」


「……あ、あぅ……あうぅ……」


「……知らなかった?」


「私はね」


「誰かの手を握っていないと、テレビを見られない体質なの!!!」


「……ごめん、ちょっと無理があった。でも、ええと……」


「このままでも、いい、かな……?」


「キミの手を握ってると、なんだか落ち着くんだ。」


「キミが悪いんだよ? 昔からずっとまとわりついてきて、どこに行くにも手を繋いで」


「そうしてるうちに、私のほうが物足りなくなってきたの!」


「なにが、って?」


「……キミが隣にいないのが、よ」


「物足りない……うん、これはそういう感情。手のかかる弟のことが気になってしかたがない、視界に入ってないと落ち着かない。そういうことよね、うん」


「でも……キミはどう?」


「もしも迷惑だったら……」


「…………っ! うん、うん……ありがとう……」


「それじゃあ、今日はこのまま……」


「キミの隣に、いさせて……?」


「高校生になってから、あまり話せなかったぶん」


「たくさんたくさん」


「お話を、しましょう?」


「うん……最初から、こうしていればよかったのよね。キミはずっとキミのままで、私だけが空回りして」


「なんのこと、って?」


「……もう。そういうところだよ、キミは」

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