5.せっかくの日曜日だけれど、空はあいにくの雨模様で。
「やくそくのっ、おさんぽにいきましょうっ! おさんぽにっ!」
「いまにも雨が降りそう、そんなことはわかっていますっ! ですがっ!」
「どろんこになっても走り回って遊ぶ! それが子いぬの本懐ですよ! 雨ごときで、あなたさまとの楽しい遊びを止めることはできませんっ! わふふっ!!!」
「あなたさまこそ、わたしがここに来てからというもの、学校以外は全然お外に出られていないじゃないですか。ですから、ほら……」
「行きましょう? ね?」
「本当にお嫌でしたら、わたしも我慢しますけど……」
「………………」
「………………っ!」
「えへへ、やっぱりあなたさま、お優しくて大好きです!」
「それでは、本降りになるまえに、おでかけしましょう! わっふーん!」
☆ ☆ ☆
「ふんふんふ~ん♪ ららららら~♪ わんわんふふ~ん♪」
「ごきげんにもなりますよー♪ いぬはですね、本当におさんぽが大好きなんです」
「それもこうして、あなたさまにしっかりリードを握っていただけるなんて。わたしが危なくないようにと、きちんと考えていただけているんですよね」
「……リードじゃないだろ? 握ってるのは手?」
「わたしはリードでもかまわないんですけど、最悪の場合ポリスメンがもしもし? になってしまいますよね? いくらポメラニアンでも、それくらいは心得ています」
「ですからこうして……えへへ……あなたさまの手、あたたかいです」
「いちおうですね、色々と考えてはいるんですよ? しっぽは見えないとしても、耳だって帽子で隠していますし。これならわたしも、普通のにんげんに見えますよね?」
「……ええ」
「わたしが、いぬになるのは」
「あなたさまの前でだけ、ですから……」
「カチューシャを外せばいいのに……? なにをいっているのかさっぱりですね……」
ぽつ ぽつ ぽつ
「きゃっ、つめたっ!? あ……もしかして、雨が」
さあ……ざああーっ!!!
「降ってきてしまいましたねえ……ですが! きちんと傘を持ってきているので、こうして……!」
「ほら、あなたさまも……あれ? 傘を、お持ちで、ない……?」
「忘れてきた!?」
「あっあの……いえ、浮かれて確認を怠ったわたしもわたしなのですが! とりあえず、わたしの傘に入ってください!」
「うう……狭くてごめんなさい……」
「傘はあなたさまが使ってください。わたしはいぬなので、濡れてもあまり気にしません。こうして横に立たせていただければ、それで」
「んっ……ふえっ!?」
「急に抱きよせ……近いですよぉ……」
「こうしてくっついていれば、ふたりとも濡れないだろう? あ、あぅ……」
「でもわたしは、あなたさまとずっと、手をつないでいたくて……あなたさまが傘を持つ手を、わたしが握るわけにもいきませんし……」
「え……?」
「腕に腕をからめていい……? ふええっ……!?」
「い、いえ……嫌とかではなくて、ですが、あの……」
「しつれい、します」
「くぅん……これはその、はずかしい、ですね……? えへへ……」
「お外で、誰に見られているかもわからないのに、ぴったりとふたり、寄り添って」
「つがいの……恋人同士のように、見えてしまっているかもです」
「もしかして、聞こえてしまっていますか?」
「わたしの、むねの、どきどき」
「いっ、いえっ! あのっ! わたしはまだまだ子いぬなのでっ! つがいがどうとか交尾がどうとか、そういうことはわからないのですがっ!」
「……この高鳴りの奥に、そういったことがあるんだろうなあ、というのは、なんとなくわかりますから」
「りっぱな大人のいぬになるための、お勉強もかねて」
「しばらくこのままおさんぽを、こうしてくっついて、恋人同士のように歩いても……」
「かまいません、か?」
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