4.本人がそう言い張るので、しばらくはポメラニアンとして接しよう。

「あなたさま、あなたさまー。おくつろぎのところを失礼しますがー」


「食後はまったりテレビを見るのもいいんですけどー。わーたーしーはー、そだちざかり、あそびざかりの子いぬですのでー、かまってくださいー」


「むむー、そうやってなでていただけるのはうれしいんですけどー。わたしはいま、とっても遊んでほしい気分でしてー」


「新しいゲームを買ったところ? いっしょにたいせんかくとう……?」


「にんげんの暗号ですかね……? ポメラニアンには、ちょっとよくわからないです」


「わたしが言いたいのはですね、おさんぽに連れて行ってください! ということなのですよ! あなたさまといっしょのおでかけ、考えるだけで胸がドキドキときめいて……! くうっ!」


「……露骨に嫌な顔をなさいましたね。そうですか、わたしと一緒のおでかけは嫌ですか……それではわたしは部屋のすみっこでおとなしくしておきますので……しゅん……わふわふ……」


「じゃなくて、外を見てみろ? もう真っ暗だから、出かけるのはまたこんど?」


「……っ!!!!! やくそくっ、やくそくですよっ! ぜったい、ぜったいですからねっ!」


「あっ……す、すみません、ついつい抱きついてしまって! えっと、隣に座りますね、失礼します……」


「あなたさまとのおでかけは、とても久しぶりなので……つい……」


「はい? 一緒に出かけるのは、これが初めてじゃないのかって?」


「………………」


「……わたしを拾ってくれたあの夜や、獣医さんに連れて行ってくれたあの日、施設へと送り届けてくれたあのころ…………」


「これは! おでかけ! ですね!」


「ではではそれは明日のお楽しみということにして! 今日はおうちの中でできる遊びをしましょう! はい決定! 妙案をなにかお願いします!」


「……ですから。たいせんかくとう、はちょっとよくわからないです。いえいえ、決してゲームが下手だからとか、そういう話ではありませんよ?」


「ええと、目の前に座って、ですか? 膝をついて……こっちを見ろ……!?」


「ぇと……なんだかドキドキ、しちゃいますけど……」


「手を差し出して……あ! わかります、これ!」


「お手! ですね! はい!」


「おかわり! はいっ!」


「ふせ! ぺたっ! まて……わふ……わふふん……」


「両手を握って……どっちの手にあめ玉が入ってるか当ててみろ……? むむむ、ばかにしているんですか。子いぬとはいえわたしはいぬ……甘いにおいを探り当てるくらい……」


「すんすんすん……」


「こっち! です! 間違いありませ……あっ……」


「くぅん……絶対にこっちの手から、いちごのいいにおいがしたのに……」


「あめ玉はソーダ味? これ、ハンドクリームのにおいなんですか? そうえば、どこか覚えのある……くんくん……」


「むかし肌荒れがひどかったときに、まほめさんがプレゼントしてくれたもの? それからずっと気に入っていて、なくなるたびに同じものを買っている?」


「っ! ~~~~~っっっ!!!!」


「そっ、それ、何年もまえのことなのに……!? まさかキミ、あれからずっと……!?」


「あっ……」


「んっ、ごほんごほん。そっか、そっかあ……えへ、えへへ」


「急に笑ってどうしたんだって? それはですね、こうしてあなたさまと遊んでいられるのが、とっても楽しくてうれしいからです!」


「もっともっと遊びましょう! わたしはかしこいので、おまわりでもおすわりでも、なんでもすぐに覚えちゃいますから!」


「あ、でも。ハウスだけは、だめですからね?」


「ハウス、と命じられても。わたしが満足するまでは……」


「今夜は、帰りませんから。ふふふっ」

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