梅小路翠子―2
可及的速やかにこの現象を解決しましょう、そのために先生には知られないよう秘密裏に。何故ならば、先生を巻き込むと十中八九は静かに終わらないので。
という取り決めを、主に颯くん発案の理由を元に交わしたした矢先、この上なくシンプルで鮮やかな鎌かけから画像を調べようとしていたことが露見してしまいました。
パソコンの画面設定や元画像のプロパティ、勧修寺先生のパソコンの閲覧履歴などをこっそりと調べていた所でしたが、経緯はともかく、勧修寺先生の発言によって先生と私たち二人の目に異なる画像が見えていることが分かり、これが正真正銘の浄化対象、つまりは怪異であると判明しました。そうなった以上は解決を目指したいところです。
「つまりは、二人ともこの人形が人間の少女に見えている、という事なんだね?」
「はい。パソコンを起動した時から既にそうでしたので……特に疑問もなく、そういう画像なのだと」
「俺も同じだな。またけったいな画像を、と思った時にはそうで。……おかしいと思ったのは途中で背景が変わったくらいか」
「画像の背景?」
「最初は夜中の竹藪だったものが、少し、陽が登り始めたようで、画像が全体的に明るくなってきてるんです」
竹藪の隙間から見える民家のような建物の造りから方角を考えると、これが夕方ではなく明け方だと分かった所までを説明すると、先生はパソコンのモニターを悔しそうに矯めつ眇めつした後、あっと叫んで鞄からカメラを取り出しました。
「ちょっと颯くんっ、これっ! これで撮影してみてくれないか!」
「は?」
「万が一だよ。というよりむしろ、映る可能性が高い! この画像の中の人影は、どうも見て貰いたがっているように思えるんだよ」
この画像を最初に見た時に受けた印象は、確か、「注目を浴びたい」という意思のようなものでした。なので、てっきりこの画像の制作者の方がそういった気持ちをお持ちなのだと思いましたが、どうやら話はもう少し複雑なようです。
颯くんがカメラを構えて数回シャッターを切りました。デジタル液晶の画面を三人で覗き込めば、そこには鮮明に映った少女の姿があります。通常、デジタル機器のモニタを撮影するとぐにゃりと歪んで映ったり、網目模様のようなものが映ったりしがちですが、この画像はかなり鮮明でした。しかも、驚くのはそれだけではありません。
「こいつ、こっちを向こうとしてねぇか?」
「はい、角度が違ってます。少しずつですが振り返ってますね」
「ああ! どうしても市松人形にしか見えない!」
分かったことはふたつ。まず、この画像は多くの人の目に触れようとしていること。そして、画像の中の人物は徐々にこちらを向こうとしていること。あ、それと、間違いなくパソコンの設定ではなくて画像の方に何かしらがある、ということです。
「夜が明けてくる仕掛けと言い、写真の映り方と言い……何なんだ? この画像は何をしようとしている?」
「今となっては何処で拾ってきたものか思い出せないのがなんとも歯痒い。よし、もう一度、掲示板を片っ端から巡ってみようか」
「よせ先生。他の何かを拾ってき兼ねない。むしろ行くな、そういう場所」
「ひどいな、調査だよ調査」
掲示板で拾ってきたとおっしゃっていましたが、そもそも、こちらの画像はどういった触れ込みで掲示板に貼られていたのでしょうか。ここまでの怨念のようなものがあるとしたら、不特定多数の方に自分で作成した画像を見せて感想を貰って喜ぶ、言うなれば単純な自己顕示欲のようなものとは一線を画しているような気がします。
例えばこの画像を通して何かを伝えるためでしょうか。それとも、この画像を広めること自体が目的なのでしょうか。
「勧修寺先生は数多の画像の中から何故この画像を選んだのでしょう」
「うーん、確か、まぁいつも通りに怪異の情報を漁ってて、あちこち覗いている内に……うん? どうしてだったかな。いや、本当にこれ、僕が拾ってきたんだっけ」
「しっかりしてくれよ先生、耄碌するにはまだ早いんじゃねぇか?」
先生は、よっぽどのことがない限り、特に怪異の情報に関しては私たちが驚くほど詳細に覚えておいでです。そうなると今回のケースはとても珍しいもので。私には少し納得がいきません。
「本当に、こちらの画像は先生がご自分でダウンロードしてきた物でしょうか」
「……と言うと?」
「この画像がひとりでに、つまりは自力で先生のパソコンに侵入していた、という可能性はないでしょうか」
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