第6話 修学旅行の静かなひととき
〇とある広場
//息切れ
「間に合った……、かな……?」
「……」//僕の顔を窺う
「『どうしたの、そんなに疲れて』……とでも言いたげね」
「……」//息を整える
「ここ二日間、修学旅行に参加できなくて残念だったわ」
「仕事の予定が立て込んでいてね……」
「でも、どうしても参加したかったから」
「マネージャーにお願いして、むりやり予定を空けてもらったの」
「本当なら……、最初から参加できていたはずだったのに……」
「何とか、一泊だけできることになったから、よかった」
「……今日は自由時間がたくさんあるでしょ?」
「班に分かれて、それぞれが好きな観光地を巡っていいらしいよね……」
「……まったく……」
「私がいなかったら、君はどうなっていたんだい?」
「一人ぼっちか、それとも先生と一緒だったんじゃないのかい……?」
「……」//自分も同じだから恥ずかしくなる
「ま、まあ……」
「わ、私も君がいないと……、こ、困っていただろうけどね」
「だから……」
「何としてでも私は来たかったんだよ……」
「……」//息を整える
「さあ、北海道だよ!」
「……どこに行こうか?」
「どこか北海道らしいところに行ってみたいものだね」
「観光地がたくさんあるし、美味しい食べ物もある……」
「君が行きたい所はどこかな……」
「私はどこでも構わない……」
「と言いたいところだが……」
「とはいえ、だ……、私はいちおう有名人……」
「目立つことはできないし……」
「できれば」
「人目を避けないといけない……」
「……」//考え込む
「できれば、人が多い観光地は避けたい……」
「でも、いつまでも考えていても仕方がない……」
「……とりあえず、歩きながら考えようか」
「そうして、いいところを見つけられたら、それがいいね」
//SE 二人の足音
〇とある高原
//SE 爽やかな風
「……どう?」
「……」//深呼吸
「北海道の高原は気持ちいいね」
「澄みきった青空……」
「刈り揃えられた芝生……」
「その、なだらかな起伏……」
「……濃い緑の木が目に優しい……」
//SE 小鳥の鳴き声
「……小鳥も飛んでいる……」
//SE 爽やかな風
「まるで風がどんな不安な気持ちも撫でてくれるよう……」
「誰もいない……」
「私たちだけ……」
「歩いているだけで、楽しいよね」
「静かで……、派手な物はないけれど……」
「でも……、それが一番いい……」
「特別な物がなくても……、私たちは楽しみを見つけられる……」
「……」//陽気な息遣い
「ん?」
「……」//顔を覗き込む
「どうしたの?」
「……(君は)少し疲れちゃった?」
「……いいよ」
「じゃあ、あの木陰で少し休もうか……」
SE//風に吹かれる木のざわめき
「……」//静かに呼吸
「とっても落ち着いた雰囲気……」
「少し暗くて……」
「涼しくて……」
「でも、あったかい……」
「目を閉じてみると、より気持ちいいね」
SE//風に吹かれる木のざわめき
「ほら、こっちに来て……」
「私の膝を枕にして……、眠っていいよ」
「いいよ……、気持ちいい陽気だからね」
「はい、来て」
SE//身体に触れる音
「……」//微笑
「頭を撫でられると、落ち着く……?」
SE//僕の頭を優しく撫でる音
「なでなでなで」
「……」//微笑み
「可愛い……、可愛いね……」
「いつまでも、こうされていたい?」
SE//僕の頭を優しく撫でる音
「……私もずっとこうしていたい……」
「可愛い……、可愛いね……」
「……」//ちょっとした悪戯を企む笑み
「ふーっ」
「さてさて問題です!」
「いま君に当てられたのは風でしょうか?」
「それとも……、私の吐息でしょうか?」
「さあ、どちらでしょうか?」
「……」//思わず笑みがこぼれる
「ハズレ。風でした」
「じゃあ、次は?」
「あー、ダメだよ。ダメ、ダメ」
「ちゃんと目は閉じていてくれないと」
「ズルはいけません」
「ほら、目を閉じて」
「……ふーっ」
「さあ、どちらでしょう?」
「ハズレ。正解は風でした」
「ふふふ、嘘でした」
「一度目も二度目も私の吐息でした」
「……君の全問正解です」
「……」//口を押さえて笑う
「……私がズルしていました……」
SE//風に吹かれる木のざわめき
「……」//静かになる
「そろそろ日が落ちるころだね……」
「あーあ……」
「楽しい時間も束の間。もう終わっちゃうね」
「寂しい……」
「切ない……」
「……」//ひと呼吸
「これからも辛いことがあるかもしれないけど……」
「悩みも尽きないかもしれないけど……」
「一緒にがんばろうね……!」
「私もがんばるから……」
「……」//切ない
「君ともうすこしだけ……」
「いや……」
「いつまでも……」
「本当に……」
「本当に、いつまでも君と一緒にいられたら……」
「それが私の幸せ」
同級生の孤高のアイドルは、一人ぼっちをこじらせて、僕の耳元で愛の告白をします。 夜野たいよう @taiyou_yoruno
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