第5話 階段の踊り場で
〇階段の踊り場
「……突然……」
「こんな所に呼び出して……」
「ごめんね」
「……でも」
「どうしても君に」
「話したいことがあったんだ……」
//SE 遠くから生徒たちのガヤ
「……」//逸る気持ちを落ち着かせる
「放課後の」
「学校の」
「屋上へと通じる」
「階段の踊り場には」
「誰も来ない……」
「ここなら」
「ゆっくりお話しできる」
//SE 歩み寄る音
「(君は)この壁に背中をつけて」
「はい」
「(君は)このイヤホンを耳に装着して」
「君は右耳」
//SE 右耳のみイヤホン装着の音
「私は左耳に」
右からはラジオ番組の録音音声
左からはヒロインがささやく声
【こんにちはー】//明るく快活に
【アイドルグループ・ガールズスターのセンター】
【クールでビューティーなお姫様】
【現役女子高生アイドルの空峰凪沙が】
【お送りするラジオ番組】
【今日も元気にやっていきましょう!】
「……聞こえる?」
「私の声が」
「両耳から聞こえてくるよね」
「片方は」
「全国で大人気のアイドル」
「もう片方は……」
「小さな高校の……」
「放課後に……」
「誰もいない階段の……」
「踊り場の壁に……」
「肩をつけながら……」
「あなたの耳にささやく」
「一人ぼっちの女の子……」
「どちらも同じ私」
「……」//ひと呼吸
//SE 身体が触れ合う音
「有線イヤホンだから」
「近づかないと」
「(耳からイヤホンが)外れちゃう」
「……ラジオ……」
「(君は)しっかり聴いて」
「私が出ているんだから」
【さて】
【お便りが届いております】
【なになに……】
【『ナギちゃんは現役女子高生ですが』】
【『かわいくて』】
【『クールなので』】
【『僕と同じ高校生だなんて』】
【『信じられません』】
【『僕はクラスでみんなから』】
【『陰キャ扱いされていて』】
【『学校に居場所がないのですが』】
【『ナギちゃんの姿を見て』】
【『いつも元気をもらっています』】
【……】//読み終わり
【……お便りありがとう!】
【うーん】//少し言い方を考える
【でも】
【私も君と変わらない】
【……普通の高校生だよ】
【普通、普通……】
【私も友達いないし】
【君と同じ陰キャだからさ】
「……私も」
「普通の高校生」
「私はさ……」
「学校で居場所がないじゃない?」
「アイドルの活動で忙しくて」
「学校を休むことが多いから」
「クラスの中に友達がいない」
「……」//少し苦しい
「私はアイドルをやってきて」
「よかったと思えている」
「ステージの上に立って」
「鮮やかな照明と」
「ファンの歓声を」
「浴びながら」
「歌って、踊ることは」
「幸せ」
「……でも」
「私はべつに」
「一人ぼっちが」
「好きなわけではないんだ」
「……学校で」
「一人ぼっちになりたかったわけじゃない」
「……」//ひと息つく
「……ある日の話ね……」
「笑い話だけど……」
「三限目の国語の授業が終わって」
「次が多目的室で」
「修学旅行についての」
「相談をするなんて」
「知らなかったから」
「私は三限目が終わってから」
「教室にずっと一人で」
「残っていたんだ」
「……本当にバカだよね」
「私って……」
「みんなが」
「ゾロゾロと」
「教室から出て行くというのに」
「私だけ教室に残ってさ……」
「みんなはどこに行ったんだろうって考えてた」
「自分の席に座りながら」
「窓の方を見ていた」
「ただ風に吹かれていたんだ……」
「吹き抜けていく風が」
「いつもより」
「寂しく思えたのは」
「気のせいじゃなかった」
「……けど……」
「そのときの私は」
「素知らぬ顔をしながら」
「その風に吹かれていたんだ」
「……そんな時にね……」
「君が」
「私の元に現れたの」
「私以外は」
「誰もいない教室に」
「一人でやって来たの……」
「君は」
「忘れ物をしたから」
「慌てて自分の席に」
「それを取りに来たんだったよね」
「……私はその様子を」
「側で見ていた」
「……私は君に」
「初めて話しかけた」
「『(君は)何をしてるの?』」
「そうしたらさ」
「君は……」
「クスクス」//笑う
「『修学旅行の、修学旅行の』って……」
「慌てふためいて」
「全然返答になっていなくてさ……」
「クスクス」//笑う
「本当におっかしい」//少し呆れたような
「けど……」
「あのときの君は可愛かったなあ」//しみじみ
「……それでね」
「『修学旅行に関わる何を探してるの?』」
「私が訊いたら」
「『しおり作りのために必要なメモ』」
「って言うじゃない」
「『それを持って、早く多目的室に行かないと』……」
「……君の言葉を聞いて」
「私は不安な気持ちになった」
「……何だか、それまで」
「学校で」
「クラスで」
「気に病んでいたことを」
「突きつけられるような気がした」
「……そんな私に君は言った」
「『空峰さんは行かないの?』」
「『早くしないと先生に怒られちゃうよ』」
「『僕と一緒に行こう』」
「その時の私に」
「頼れる人は一人だけだった」
「ステージの上では」
「グループのメンバーを」
「誰よりも引っ張っていく私が」
「君に引っ張られていた」
「君は……」
「でも……」
「憶えていないよね……」
「……こんなこと」
「……」//唇をかむ
【……ここで】
【もう一通のお便りを読みます】
【今度は女の子から……】
【『私には好きな男の子がいるのですが』】
【『彼とは、あまり仲がよいわけではなく』】
【『どうアプローチすればいいかがわかりません』】
【『ナギちゃんなら、どうしますか?』】
【……】//考え込む
【恋する乙女には】
【好きな男の子に】
【強気でアタックするのは難しい】
【相手の自然な気持ちを引き出すことが大事】
【少しずつ接点を作っていく】
【それで少しずつ仲良くなる】
【けど】
【最後には】
【ちゃんと自分の想いを告白するの】
【私なら、そうする】
【自分の想いを……】
【正直に告白するの】
「……私ね」
「今だから」
「君に」
「こうして告白できる」
「……私にとって……」
「君は安心できる存在なんだ……」
「……君は憶えていないだろうけど」
「君はたしかに私を助けてくれた……」
「それが私は嬉しかった……」
「ありがたかった……」
「不安な気持ちになる度に」
「自然と」
「私は君のことを想っていた……」
「いま伝えたい」
「それを伝えるために」
「(君を)呼び出したの……」
「一度しか言わないから」
「ちゃんと聞いてね……」
「……」//溜め
「……私は君が好き」//耳元でささやく
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