第4話 握手会と夜の喫茶店

〇下駄箱前


//SE 歩き、近づいてくる音


「ねえ」//呼び止める


「ちょっと待って」


「今から帰るの?」


「……あのね」


「君に渡したい物があるんだ……」


//SE 鞄を開けて、物を取り出す音。


「私のグループのCD」


//SE 手渡す音。


「CDには」


「パッケージを開封すると」


「握手券が入っているの」


「……もし君の気が進んだら」


「……君がよければ」


「来週の握手会に来てみてくれないかな?」


「……きっと楽しいと思うんだ」


「……」//返事を待つ


「『考えておく』?」


「……わかった」


「私は待ってる……」


「……」//手持ち無沙汰な感じ


「私はお迎えの車が来ているから」


「……じゃあね」


//SE 歩き去る音


〇コンサートホール


//SE 握手会のガヤ


「わあ」//驚きと喜び


「本当に来てくれたんだ」


「嬉しい」


「じゃあ握手しよっか……」


「ぎゅっ」//SE 手が触れ合う音


「いつも応援してくださり」


「ありがとうございます」


「あなたの応援で頑張れます」


「これからも」


「よろしくお願いします」


「……」//照れ


「もう時間だ……」


「またね」


「また、きっと会えるから」


「すぐにきっとまた会える」


「本当に本当」


「嘘じゃない」


「……それが私の願いだから……」


〇喫茶店


//SE 食器の音

   人の歩く音


「今日は本当にありがとう」


「ちゃんとCDのパッケージを開けてくれたんだね」


「わざわざ」


「握手会まで足を運んでくれて」


「ありがとう」


「とっても嬉しかった」


「……」//笑みがこぼれる。


「それに」


「喫茶店にまで付き合ってもらっちゃって……」


「でも、どうしても……」


「感謝の気持ちを伝えたくて……」


「……日が落ちてからの」


「喫茶店も」


「しっとりとした雰囲気で、いいよね」


「ここは半個室だから……」


「君と気兼ねなく話せる……」


「曲、ちゃんと聴いてくれたんだね」


「わあ」


「よかった」


「わーい、わーい」


「子どもみたいに喜んじゃう」


「どうだった?」


「(君は)私の歌声を初めて聴いたんだ……」


「……」//感慨深い


「この曲もたくさん練習したなー」


「褒めてもらえると」


「がんばってよかった気持ちになるよ……」


「……」//陽気


「あっ」//気づき


「……店員さん」


「ありがとうございます」


//SE テーブルにグラスが載せられる音


「君の注文した物が先に届いたよ」


「メロンクリームソーダだったよね」


「私のことは気にしないで」


「お先にどうぞ」


//SE スプーンでソーダに浮いているバニラアイスを掬う音

   アイスの咀嚼音


「美味しい?」


「美味しいよね」//共感


「……」//羨ましそうにじっと見ている


「別にもらったりはしないわよ」


「だから、どうぞ気にしないで」


//SE スプーンでソーダに浮いているバニラアイスを掬う音

   アイスの咀嚼音


「私のも来た」


//SE テーブルにグラスが置かれる音


「私はサイダーにしたんだ」//自慢


//SE サイダーの炭酸音

   ストローで氷の入ったグラスをかき混ぜる音。

   嚥下音。


「ふう」//ひと息つく


「甘さは控えめなんだけど」


「爽やかで」


「おいしい」


//SE サイダーの炭酸音。

   ストローで氷の入ったグラスをかき混ぜる音。

   嚥下音。


「私のサイダー……」


「(君も)飲んでみたい?」


「……ダメ―」


「これは私の物です」//演技がかった可愛さ


「……」//気づき


「まだ注文していた物があったんだった」


//SE テーブルに皿が置かれる音

   テーブルの上を整理する音。


「ワッフル!」


「バニラアイスと……」


「メープルシロップが付いているヤツ!」


「……」//早く食べたい


「ひんやりアイスと」


「甘いメープルシロップがかかった」


「あったかワッフル!」


//SE ナイフとフォークを操る音


「いただきまーす」


//SE ワッフルのカリカリ咀嚼音。

   嚥下音。


「……」//悶絶


「予想通りの美味しさ……!」


「口に入れた瞬間に」


「甘い香りが」


「口の中いっぱいに広がる」


「……メープルシロップのかかったワッフルだけだと」


「甘すぎるかもしれないけど」


「バニラアイスが組み合わさることによって」


「絶妙なハーモニーを作り上げている!」


 しばらく飲食音が続く。

 喫茶店の音も重なる。


「……」//僕の様子を窺う


「君も食べたい……?」


「……」//微笑


「じゃあ……」


「いいよ……」


「少しぐらいなら……」


「私が食べさせてあげる」


//SE ナイフとフォークを動かす音。

   身体が動く音。


「はい、どうぞ」//向かいに身を乗りだす


「あーん」


//SE 咀嚼音。

   嚥下音。


「どう?」


「『もっと食べたい』?」


「しょうがないなあ」//嫌そうではない


//SE ナイフとフォークを動かす音。

   身体が動く音。


「あーん」//SE 向かいに身を乗りだす


//SE 咀嚼音。

   嚥下音。


「君は本当に美味しそうに食べるね」//感心


「そんな顔を見せられたら」


「もっと食べさせてあげたいところだけど……」


「もう、あげませーん」//愛嬌のある意地っ張り


「私の分がなくなっちゃう」


「……」//落ち着く


「……」//微笑


「今日は充実した一日だった……」//満足


「君も楽しんでくれたなら」


「とっても嬉しい……」


「また明日、学校で会おう」


「今日は本当にありがとう」


「何度言っても」


「物足りない気がする……」


「本当に……」


「ありがとう……」


「……今日は本当にありがとう……」



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