第41話 アンドレーはイケメンクソホスト
「頼もう!」
アンドレーの咆哮のような声がほとばしった。
扉は無残に壊れていた。
それを見たクリステルは思った。
(最低! わたし、乱暴な男、大っ嫌い)
アンドレーの声を聞きつけた家主が奥から出てきた。
粉々になった木の扉と、二足歩行の獣のように仁王立ちするアンドレーをみて、顔が青ざめていた。
「誰だ、お前は!」
怖いからこそ、語気を強めて威嚇した。
「名乗るほどのものではない。
おぬしに頼みがあって参った」
家主は、ごろつきの類が、無理なお願いをいいにきたと思って、身構えた。
「いますぐでていかないと保安局を呼ぶぞ!」
「べつに構わん。
なんの信念もなく、組織の駒としてしか動けぬ連中など、斬って捨てても誰も困らんからな」
脅しの効かない相手だとわかると、家主は後じさりを始めた。
「おぬしに頼みたい。
貧しい村の人たちの生活を守るために、都市の享楽のためのくだらん商売をやめていただきたい」
「何の話だ?」
「
家主は、相手が商売敵だと理解した。
すると、顔色を変えた。
顔に、妙な余裕を浮かべたのだ。
「わかった」
彼はそう言ってからこの商売の事情について話し始めた。
内容はこんな感じだ。
人気の急騰とともに魔獣の需要も高まり、売り買いが盛んになった。
今では、
この家主は、その協会に加入し、協会の責任者に従って商売をしているのだ。
「だから、俺の独断であんたの願いを聞くことはできない。
今から協会に案内するから、責任者と話をつけてくれるか?」
「わかった。
案内を願う」
家主とアンドレーが
クリステルも付き添った。
「女神、話があるなら今のうちにするのじゃ」
クリステルは不機嫌だ。
(女神の話はついでか! 何様だよコイツ!)
「アンドレーさん。
最近この街の地下ダンジョンに入りました?」
「入った」
「そこでなんかでっかい魔獣を倒しました?」
「ああ」
「その魔獣めちゃめちゃ強くなかったですか?」
「いや……寝込みを一撃でやったからよくわからん。
まあ一撃で死んだということは、それほどではなかったということか」
「この世界をつくった創造神の話では、その魔獣は相当強いらしいんですが、あなたはどうやって倒したんです?」
「火炎系の上級魔法でドカンだ」
「アンドレーさんって、転生してまだ一ヶ月も経ってませんよね?
通常、それぐらいの時期でそんな強い魔法を入手できないはずなんですが、どうやって手に入れたんですか?」
「スキルはすべてハーレムの女たちにドロップしてもらった」
クリステルは、今の説明で大体のことを飲み込んだ。
この「ソードマジカ」では、スキルは以下の手順を踏んで入手することになっている。
①町にある冒険者ギルドで冒険者登録をする。
②ギルドでクエストにエントリーする。
③クエストをクリアすると、クエストポイントが付与される。(クエストポイントは換金できるので、冒険者の生活費にもなる)
④クエストポイントで「スキルの本」を購入する。
⑤スキルの本は、購入者しか読めない不思議な文字で書かれていて、その本を読了するとスキルが身について使えるようになる。
つまり、ギルドで冒険者登録して、クエストをクリアしてよりよいスキルを手に入れるという流れだ。
必然的に、強いスキルを手に入れるためには、それなりの時間と労力が必要になる。
ただ、ソードマジカでは、初級冒険者を支援するためのやさしい特別ルールがある。
それが、さっきアンドレーが口走った「ドロップ」と呼ばれるシステムだ。
ギルドで手続きすれば、上級の冒険者が、初級の冒険者に、スキルの本を譲渡できるのだ。
つまり、強い人が弱い人に、強いスキルをプレゼントして支援できるということ。
ただ、これは、あまりやりすぎると人格形成に悪影響をおよぼすので、最低限にとどめるのが暗黙のルールになっている。
人の力で最強になった者は、ろくな人間に育たないからである。
しかし、アンドレーは、そのろくでもない手段を乱用した。
イケメンスキルでゲットした女どもに、クエストポイント稼がせてスキルの本を購入させ、それを自らにドロップさせたのだ。
それのおかげで、アンドレーは冒険者登録すらもしていないのに、すべてのスキルをコンプリートしている。
クリステルは、この転生者が、こういう風にして最強になったのを悟った。
(つまりこいつは、自分は働かず、たぶらかした女どもからの貢物でリッチになった、貢がせクソホストってわけね!)
「アンドレーさん、仏の悟りはどこへ行ったんです?」
クリステルがニコニコしながら毒を吐いた。
むろん、すべてはこの女神のミスのせいだ。
女神の大罪―煩悩を断ち切った僧侶が天寿を全うして異世界に転生したら女神様のミスのせいで性欲のモンスターに化けてハーレムを作っちゃった話― ドロップ @eiinagaki
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