第8話

「『我の魔力に反応せし水の精霊よ!水牙となりて敵を穿て!隷属せよ!三つの水の牙トリプルファング』」


目の前のオークの群れが俺の操作する3つの牙により蹂躙されていく。

職業(ジョブ)を得てから1ヵ月が経った。


俺は何度も試行錯誤した結果、この『三つの水の牙トリプルファング』という闇の言葉シャドーワードを常用していた。

周りにあまり被害を出さず、群れに対しても操れる3つの水の牙。非常に使い勝手が良い。

順調に依頼をこなし、今では俺とフランのパーティ『闇の双翼シャドーウィングス』というイカれた名前で呼ばれている。命名したのはもちろんフランだ。死にたい。


とは言え、この小さな街であるアリトラルトではかなり有名になってしまった。

依頼達成率は100%。

一度だけだがオーガに背後から襲われ、焦ってつい発動してしまった怒りの爆風アンガーテンペストにより、近くの火山が切り刻まれ爆散、消滅するという事故が発生した時にはさすがにマリゲリータさんに怒られたのだが、それ意外は順調であった。


そして俺たち『闇の双翼シャドーウィングス』は、王都に呼ばれることとなった。強制らしい。

王命により王都を拠点に魔物討伐として尽力してほしいという強制労働の任を受けてしまった。


視察に来た皇女様が、俺の『闇の言葉シャドーワード』を聞いてゲラゲラ笑っていた時には殺意の波動が内からあふれ出ないように必死に我慢した。

なんだよ「マジかウケル!」って。皇女様も転生者か?と思ったが、どうやらそれは最近フランが流行らせた言葉だったらしい。


最後に、笑い転げていた皇女様が擦り傷を付けておられたので、一応回復しておいた。傷が残っては何を言われるか分からないからね。


「姫様、失礼いたします。『荒れ狂う運命の輪廻に傷つきし身体(からだ)を!今一度購うための力の一端を示せ!完璧回復(パーフェクトヒール)』」


皇女様は全身を光で包まれ、その傷は癒えていく。そして遂に我慢しきれなくなった護衛の一人が噴き出すと、連鎖して巻き起こる爆笑の嵐。そして皇女様はまたお腹を押さえて笑い転げていた。

どうしよう……死にたい……いやっ!もうやけくそだ!俺は絶対この異世界で天寿を全うする!


「俺の……俺たちの冒険は……これからだっ!」


氏名 シャドー・テンペスト・ドラゴン

職業(ジョブ) 中二病

≪ 称号 ≫

『ゴブリン殺しの中二病使い』

『爆裂圧殺ウルフキラー』

New!! 『ボルカノブレイカー』

New!! 『爆笑の漫談師』


◆◇◆◇◆


「ほほぉ……あれが、シャドー・テンペスト・ドラゴン……」


近くの丘で、シャドーを見つめる女がひとり。


その豊満な体を、面積が少ない黒光する装備で包んでいた。

肌の露出が悩ましいこの女の肌は小麦色に焼け……いや焼けたわけではない。

赤い髪に赤い瞳。そして頭には長く禍々しい角が二本……


魔族と言われるその女は品定めするようにシャドーを見つめ、舌なめずりをする。


魔王軍八魔将の一人、ダージリン・シャーマナイトである。

魔人貴族であるダージリン家の姫である彼女は、一ヵ月ほど前に感じた大きな魔力に反応してこも街までやってきていた。


100年ほど前に勇者に倒された亡き魔王。

魔王の復活を予感させたあの強大な魔力の波動……自身が仕える我が主の復活を信じ、ここにやってきた。


「100年前に無念の死を遂げられた闇の漆黒竜・ダークブラックドラゴン様……おなじドラゴンを授かりしところを見ると、どうやら予想通り、魔王様の生まれ変わり……こんどこそ……この世界を魔王様の手中に……悲願が達成される時がきたのだ!」


丘の上で女の高笑いが響いていた。


「私の……私たちの野望は……これからだっ!」





END

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異世界いったら職業・中二病。唸れ!俺の闇ワード 安ころもっち @an_koromochi

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