第7話

フランが飛び掛かるワーウルフを『反撃バッシュ』で巧みに弾き飛ばしていく。なんかすごく扱いが慣れてきている。

きっと俺への攻撃で練習しているのかもしれない……


「やばいよやばいよ何だっけーそうだ!『我の声にこたえその力を魅せよ!地獄の炎ヘルバースト』いっけー!」


一応初めて使った時よりも抑え気味にポージングをしていた。そして全開より少し控えめな黒い炎が突き出した右手からほとばしり、迫ってきた狼の群れを焼いていく。岩場も黒く焼かれその威力は十分だと思われた。

そして俺は2つ、失敗を感じた。


黒焦げすぎて素材が取れない。

範囲狭すぎて他の群れがどんどん集まってくる。


幸いフランが『防御プロテク』で自分の身を守りつつ『羨望エンビー』からの『反撃バッシュ』で弾き飛ばすという目覚ましい活躍をしているのでなんとかなっていた。しかし時間の問題だと思い、宿でのほほんと考えていたことを試そうと決意した。


ぶっつけ本番。できなきゃまたあの暴風で切り刻むしかない。そう思って羞恥の苦痛に耐えながらその『闇の言葉シャドーワード』を口にする。


「『内なる魂よ!脆弱な我が肉体に受肉せよ!人外の理不尽な力の塊!目の前の邪悪を滅する鎧!蹂躙する巨人ギガントランプル』」


体からあふれ出る魔力に包まれ、俺の体が膨れ上がった。自分で言うのもなんだがかなりキモイ。そんなことを言っている暇もないので袋からダガーを出すと、それを強く握りしめ、フランにまとわりついているワーウルフの群れに突っ込んだ。


面白い様に体が動いた。

早く、そして強く。目の前の群れを抹殺した。それを見て逃げ出そうとした別の群れにも飛び掛かる。気づけば右手のダガーだけでなく、左手の拳でもその狼の腹を吹き飛ばしていた。

OKOK。分かっていたさ。明らかにオーバーキルだ。どうして丁度良い塩梅にならないか。練習あるのみだということを痛感した。


そして数分後には、見える範囲のワーウルフが全て狩り殺されていた。フランも俺もワーウルフの攻撃で傷つくことはなかった。しいて言うならフランの『反撃バッシュ』により誤爆した腹筋が少し痛い程度だ。

……それが体の中の魔力が枯渇して動けなくなった俺の、最後の記憶だった。


◆◇◆◇◆


「はっ!肉の壁!」

「あ、起きた」


マッチョな肉の壁が押し寄せる世界から戻ってきた俺は、目の前にあるフランの顔と目があった。

そうか。ここはまだ夢の中か……


まだ動かない体と、後頭部に感じる暖かな柔らかさ。そしてフランの顔が少し見づらくて困っちゃうー、なふくらみを見る……そのふくらみの片隅に見えるフランの顔がみるみる赤くなる。

その後、飛びのいたフランと、やわらかな枕が無くなり岩場に後頭部を痛打する痛みで、俺は現実だったと理解した。


「も、もう!起きた早々、乙女の体を嘗め回すように見るなんて……エッチスケベマイペット!」

「いやまあ、それはなんかすまん……てかマイペットって、やっぱりフランの前世ってババァごふっ!」


普通に腹筋を踏みぬかれた俺は、胃の中から逆流する何かを必死で食い止める。頑張れ俺の頬筋。


「ここまで運んでくるまで大変だったのに!」


言われて周りを見渡せば、火山地帯からは少しはなれた安全な道の脇に、俺は寝かされていた。


「それはなんかありがとう……」


まだ起きることができない俺は、打ちひしがれた後頭部をいたわるように、腰の魔法袋から枕を取り出しまた眠りについた。

だってまだ体動かないんだもん。


それから1時間ほどして落ち着いた俺は、腰の魔法袋いっぱいに勝手に詰め込まれた狼の亡骸を、ギルドに提出するのであった。枕が獣臭かったのかがよく分かったよ。


大量に切り刻まれ、破裂したワーウルフの肉片。それを袋いっぱいに押し込めたフラン。提出したのはワーウルフだったのか肉と毛の塊だったのか……

そのおかげで、俺には『爆裂圧殺ウルフキラー』というややおちゃめな二つ名が追加された。


この世界は理不尽である。


氏名 シャドー・テンペスト・ドラゴン

職業(ジョブ) 中二病

≪ 称号 ≫

『ゴブリン殺しの中二病使い』

New!! 『爆裂圧殺ウルフキラー』

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