第4話 明け方
さて、私は研究活動を始めた。とはいっても中学生のやる事だから、大した事は出来なかった。いろんな事を調べ自分で勉強し、あの球体が何なのかを調べようとした。屈折率を調べようとしたり、温めてみたりした。そんな試行錯誤の中で行った中で発展があったのは、抵抗値を調べようとして行った実験だった。中学に行くにあたって本土に引っ越したおかげで機材は簡単に手に入った。通販の送料は安く、それなり早く届いた。
「ケガしないでよぉ」
「大丈夫。20Vくらいだから。」
そうして実験を始めたのだが、思ったような結果が出ないのである。流れる電流がとても少なく、そして減っていくのだ。仮にガラス製だとしてもはや電流は流れないし、電気を通すのだとしてもみるみるうちに減っていくのは意味が分からなかった。至る箇所のいろんな測定をしてやっと気づいた。異常な速度で電池が消耗されているのである。実験中に数分間使っただけでほとんど使い切ってしまっている。
「なんじゃこれ」
なんとか対応するために残りの在庫の電池をすべて机に置いて次々に取り換えて測定を重ねた。するとさらにおかしな事が起きた。あとから入れた電池が最初から消耗していたのだ。そこで私は非科学的な仮説を立てた。これは、周辺の電気を吸っているのだと。ただし、電線とかからは吸わない。電池のようにため込んでいる物からだけ吸っているのだ。生き物だろうか、極秘の組織が作った機械だろうか。当時のオカルトと科学が混じっていた私にとっては非常に魅力的であった。
「すっげぇ」
ふと口から洩れた。自分では意識していなかったが、あまりの驚きで勝手に発言していた。そして同時に少し不安を感じ始めていた。これはこのまま持っていてよい物だろうか。このまま電気を吸わせたら何か起きるという期待と恐怖があったのだ。だがまだ期待の方が勝っており、これを海に捨てる選択をする事はなかった。
私は何か月もバイトを行い、勉強もある程度して親に怒られないようにしながら、容量の大きいバッテリーを何個も買ってあの物体に電気を与える事をつづけた。何時間もかけて充電したバッテリーは数十秒で空っぽになるので、また充電してまた電気を与えてを何回も繰り返した。電子工作を学んで放電と充電を自動化させるのは半年ほど経った後である。
こうした日々を重ねていく中で起きた変化は何とも言えないものであった。”球体の表面がよりツヤツヤになってる”というものである。電気を与え始めた時に比べれば、表面に映り込む部屋の中がより鮮やかになっているのだ。元気になっているとでもいうのだろうか。電気を与えるとツヤツヤになるだけの超常的な物体だったのだろうか。そろそろ諦めて給電の日課をやめようとした時、衝撃的な事が起きた。
「m…m…ま、まて…mmmまて」
「おじょ…さん」
「続けてくれ……………」
部屋の中全体に響くように聞こえた声は、私に続けるように語りかけて来た。あまりに驚いた私は、その晩は物体を庭の端の方に投げ出しあまざらしにした。翌日落ち着いてから言われた事を思い出し、私は再び電気を与えては充電する日々を繰り返した。
THE BIRTH YachT @YachT117
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