プロジェクト・アポトーシス

亜未田久志

代償‐エネルギー‐


 日本では「自滅因子アポトーシス」という後付け器官を移植する事で命を代償エネルギーにして念動力サイコキネシスを扱う事が出来るようになった。それは敵性個体、コードネーム「征服者ドミネーションズ」による侵略に対抗するためだった。それは周知の事実であり、国民が全員知っている事であった。

 こと蒼鶴星弥そうかくせいやは別段、特別な人間ではなかった。あの日までは。

 友人の春日部智則かすかべとものりと学校から帰る途中。征服者:歩兵ボーンの群れに襲われたのだ!

 黒い黒い身体、異形の体躯、裂けた口から滴る涎、人ならざる者、征服者ドミネーションズ。そこで智則が取った行動は一つだった。友人の前に立って盾になる。それを最初、星弥は理解が出来なかった。

「智則!?」

「ここの時間は俺が稼ぐ、だから逃げろ星弥」

――アポトーシス:ラフメイカー起動。

 そこに現れたのは巨大な

 それは念動力によって生み出された不可視の刃だった。

 固定化念動力ソリッドと呼ばれる類の力。

 目の前で友人が命を代償に戦っている。

 何も出来ない無力さに、打ちひしがれる星弥。

「智則、俺」

「いいから逃げろって!」

「でも」

「あーもう、役立たずは帰れって言ってんの!」

 敵を斬っては捨て、斬っては捨てしている智則の足手まといにしか自分はなれなかったという悔やみに陥る。

 役立たずという言葉も自分を遠ざけるための優しい言葉。

 だけど、そこで一際、巨大な征服者、個体名、王武キングが現れる。

 この街では有り得ないことだ。

 満身創痍の友人を見て星弥は一歩も動けずにいた。

 戦闘が終わるころ、残るは王武のみになったところで、。正確にはアポトーシス器官に回せるだけのリソースが無くなった、残りは己の生命維持にしか使えない。

 思わず、智則のところに駆け寄る、

「智則、智則! しっかりしろよ」

「……お前、まだいたのか、逃げろって言ったのに……」

「智則を置いていけるかよ!」

「ふぅー、じゃあさ、星弥、悪いんだけど、俺の代わりに王武、狩ってくれねぇか」

 意味を分かりかねた星弥、智則は己の心臓に腕を突き込む。その凶行に、驚く。

「なにしてんだお前!?」

「アポトーシスって外付け器官だから、簡単に他人に移植出来るんだ、俺の『ラフメイカー』に星弥が適合出来るか分かんないけど、そんときゃそんときで、悪いな」

 そうして渡された正十二面体の結晶、この器官がアポトーシス。

 死にそうな友人を前に涙ながらにそれを受け取る。

「笑ってくれよ、悲しいだろ」

「どうすれば使えるんだ」

「胸に入れ込んで、こう唱えろ、アポトーシス:ラフメイカー起動ってな」

 言われた通りにする。

 すると星弥の手に握られたのは可視化された物理剣だった。

 王武はそこまで迫っている。アポトーシスにより極限まで高められた身体能力で王武の頭を斬りつける。

 頭から血飛沫を上げる王武、それはゆっくりと絶命する。

 そして振り返った友人もまた息絶え、亡骸となっていた。

 独り残された少年は、手に握り込んだ剣に涙を零し、こう呟いた。

「一人にするなよ、笑えないだろ」

 しかし、この時、星弥はまだ分かっていなかった。

 この力が如何に危険で、今、世界に何が起こっているのかを。

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