姫‐プリンセス‐


 王武を撃退した星弥だったが、そこから先、どうしたらいいのかわからなかった。知り合いに対征服者ドミネーションズの関係者はいないし、近くの自衛基地に入ろうにも、証拠がこのアポトーシスしかない。それで十分だと思うのだが、一般人がアポトーシスを持つ事は原則禁じられている事をそこで思い出す。星弥が物理剣を困ったように持っていると声が上から降って来た。

「あなたが春日部先輩からラフメイカーを奪った人間、ですか」

 衝撃音と共に粉塵が舞い散る。砂煙が晴れた頃、そこにいたのは少女の姿だった。黒く長い髪を払い、切れ長の瞳をこちらに向ける、怖気づく星弥。

「なにか、答えて、ください」

「俺は! 智則の友達で!」

「センパイが戦っていたことも知らなかった人間が、ですか」

「ぐっ」

 言葉に詰まる。彼女の言う通りだった。星弥は智則がアポトーシス保有者だという事を知らなかったし、征服者と戦っている事も知らなかった。何も何も。

「それでも、俺は」

「聞き苦しい、耳障りです。いいから、そのラフメイカーを返してください」

「これは、返せない」

「何故」

 物理剣を両手に構え、目の前の少女と相対する。

「これは俺と智則の約束だから」

「くだらない――戯言をッ!」

 弾丸の雨が横薙ぎに降り注ぐ。それが彼女からの攻撃と気づいた時には遅かった、既に致命の間合い、銃口は突き付けられている。

「私の名前は御巫絢みふあや、リキッド使いです。覚える必要はありません、ではおやすみなさ――」

「させるかよッ!」

 物理剣を円形に展開して銃口と自分の間に割り込ませる星弥。絢は驚き目を見開く。

「ソリッドが形態変化を!? あなたそれ、本当にラフメイカーですかッ!?」

「知らねぇよ、俺はただ、約束したんだ、笑っていられるようにって!」

 剣の形にラフメイカーを戻すと、一息に絢との距離を詰める、狙うは銃型アポトーシス、驚きの余り対応の遅れる絢。武器を弾かれ、それは地に落ち霧散する、そして彼女の喉元には星弥の剣が突きつけられていた。

「詰みだ」

「……みたい、ですね」

「教えてくれよ、俺はどうすればいい」

「それは、勝者であるあなたが決めることです」

 勝者、果たしてこんな戦いに意味があったのだろうか。いや意味ならあったはずだ。ならばそれを証明しなければならない。

「だったらなおさら教えてくれ、今、世界に何が起きているのか、どうして智則がアポトーシス保有者だったのか、あんたの知っている事、全部」

「分かり、ました」

 喉元から剣を離すと、途端、星弥の腹に蹴りが見舞われた。上空からヘリが飛んで来る音がする。

「たっぷり教えてあげます、私達の基地でね」

 星弥の意識はそこで遠のいた。

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