第7話 七瀬亜美視点
◇
私は昔から良く虐められていた。ただ虐めというのも靴を隠されたり、机に勝手に落書きをされたり、などそこまで酷いものではなかった。ただそんな虐めを受ける度に姉達に助けられる自分が情けなかった。姉達が必死に根回しをしてくれたが、その努力も虚しく私が受けた虐めは大人達の手によって隠蔽されるのだった。親達も忙しそうにしていた為、お父さん達に相談しようか?という姉達の優しさに私は首を横に振る。
ただ私はある出来事をきっかけに変わる決意をするのだった。その出来事は中学生2年生の時……私はいつもの様に学校に登校すると、いつもの様に虐めっ子達が私のとこへ真っ先に来るのだが、今日は特に学校内で何かをされる訳でもなく、放課後、指定した場所に来いという命令のみだった。私は不審に思ったが、普段される虐めよりはマシだろうと楽観的思考で行ってしまった。
「マジかよ!?校内トップレベルの美少女とヤれるとか、どんだけお前気が効くんだよ」
「あっははぁ、先輩!勿論ですよぉ、なのでぇ今月も宜しくお願いします♡」
「あぁ、良いぜぇ!ご褒美にこの後はお前をたっぷり家に連れ込んで犯してやる……ただその前に」
舌舐めずりしながら近寄って来る男。行った先には虐めをしている女の子3人と1人の男の先輩がいた。
私は恐怖を感じ咄嗟に逃げようとするが、3人対1人という中で力で勝てる訳もなく、その場に抑え込まれ、男がズボンを下ろしながら私の胸を揉もうとしてくる。
恐怖で泣きそうになってしまった時、「何してるんだ!!」という声が響き、虐めっ子達や男の先輩が慌てて振り向くとそこにはこちらを睨み付けて怒鳴り声を上げる警官がいた。
その後は、全員事情聴取を受け、私は今までの事を全て話し、虐めっ子達や男の先輩は半年間の停学処分となった。軽すぎると内心で思ったが、大人達の無言の圧力によって私は我慢するしかなかった。その日は姉達に沢山甘えようとしたが、姉達もストーカーや教師に襲われそうになったりという経験をしていた為、そんな私と同様トラウマを負っている姉達に迷惑を掛けることも出来ず私はただ自室で泣く事しか出来なかった。
私は3年生になるのと同時に、自分を変える決意をした。今まで黒髪ロングだった髪はピンクのツインテールにして、右目には♡マークの付いた眼帯…髪にはまだ私が幼かった頃、公園で姉達と逸れてしまい、泣いていた私を助けてくれた白髪のお兄ちゃんから貰ったアクセサリーを付けている。そして耳にはピアスを開け、言葉の語尾に「〜です」を付けた。ただ姉達と話す時はつい普通に喋ってしまう事もあるが。
そんな私が高校生になり、告白される回数こそ減らなかったものの、男性から話かけられる事が少なくなった為、少しは効果が出ている事に満足している。
そんなある日、姉達と一緒に先生に用があった為、先生が用意してくれるのを待ちながら、職員室の前で会話をしていると、ふとどこか見覚えがある様な白髪の男子生徒が分厚い紙の束を抱えながら歩いてきた。
特に話し掛ける事もなく、私はそのまま男子生徒が職員室へ入っていくのを見つめる。何故こんなにもあの男子生徒の事を視線で追ってしまうのか、その時の私には良く分からなかかった。
ただその既視感の正体は意外な形で思い出す事になる。
「や、やめなさい!妹達には手を出さないで!」
何で……何で私達ばっかりこんな目に遭うの?姉が必死に抵抗している中、私は頭の中で返ってくる事のない問答を永遠に繰り返す。
「っっ!?こんな事してタダで済むと思って」
《バチン》
「え…」
姉が目の前でビンタを受ける。その瞬間姉から抵抗の意思が無くなった様に思えた。身体が震えてる、恐らくトラウマがフラッシュバックしてるのだろう。
私もあの日の出来事がフラッシュバックの様に鮮明に蘇る……恐怖により頬を涙が伝う感覚を覚えながらも、私はその場から動けず固まったまま。
いつもこうだ……私は昔からロクな思い出がない。何で私には助けてくれる人が姉達しかいないの?頭の中でそんな疑問が浮かんでくる……分かってる。そんなの傲慢だって、世の中には助けてくれる人が1人も居ない人も居るって事ぐらい。けれども、せめてもう1人ぐらい私を助けてくれる人がいれば……そんな時私の脳裏に仕組まれていたかの様に突然浮かんでくる幼い頃の光景。
道端で蹲って泣く事しか出来ない私に駆け寄ってきてくれて、助けてくれた白髪のお兄ちゃん。
「もう大丈夫だよ……ほら、乗って。一緒にお父さんやお母さんを探しにいこ」
そう言って私をおんぶしてくれたお兄ちゃん。その背中が逞しくて、温かくて、そして……その背中を前にするととても安心する。
──────お兄ちゃん、助けて!─────
来る筈がない人に向けて助けを呼ぶ。
「あぁ、うるせぇんだよ……良いから黙っ「黙るのは君だよ」ガハッ!?」
私は目を疑う事しか出来なかった。突然現れた男性が姉へビンタをした男へ飛び蹴りを食らわしている。
そして、私達を背を隠す様にして着地する。そして、その背中を見た瞬間、私は目を見開く。
「お兄ちゃん……」
あの日私を助けてくれたお兄ちゃん。そしてあの日職員室の前で私が感じた既視感の正体がこれだったのだ。
その事実を理解した途端、涙がさらに溢れてくる。その背中を見つめているととても安心する。何故ここに来たのか?なんて疑問が思い浮かばない程、私の脳内はお兄ちゃんでいっぱいになっていた。
金髪の男が私達へ向けてナイフを投げる。私は思わず目を瞑ってしまうが、いつまで経っても痛みが来ないので、目を開けてみると、そこにはナイフがお兄ちゃんの右手を貫通して刺さってる光景が視界に入ってきた。
お兄ちゃんが私達のせいで手に傷を負った……私の頭の中にとてもつもない罪悪感と共に、お兄ちゃんが身を挺してまで守ってくれたという事実に何故だか下腹部が熱くなる感覚を覚えた。
男達がお兄ちゃんの手によって気を失った後、お兄ちゃんは私達の方へ振り返ってくる。
あぁ会えた……やっと会えたぁ。私は今すぐにでもお兄ちゃんに抱き付きたい衝動に追われるが、恐怖によって身体が全く動かない。なら声を出そうかと思えば、こんな時に限って声も出ない。
「あ、あの!」
「とりあえず、無事で良かったよ!それじゃ」
お兄ちゃんは姉の言葉を遮る様にしてこの場を去っていった。私はその後ろ姿を眺める事しか出来ず、追いたい気持ちでいっぱいだったが、肝心の身体が動かないため、諦めるしかなかった。
◇
「月谷湊人…湊人…湊人お兄ちゃん♡」
私は姉の生徒会長としての権限で知ったお兄ちゃんの名前を繰り返し部屋の自室のベットに寝転がりながら言う。明日は湊人お兄ちゃんに姉達とお礼をするんだ…だけど、やっぱり湊人お兄ちゃんの方から気付いて欲しい。嫌、不可能だって事は分かってる。だって私が幼い頃って言ったら10年くらい前だし、そんな昔の事を、それに私なんかの事を覚えてくれてる訳なんて無い事も。
けれど……私の人生今まで良い事なんて殆ど無かった。だからこれぐらいなら……望むぐらいなら許して欲しい。それにしても、お兄ちゃんの瞳の奥に宿した闇の部分、幼い頃に会った時よりさらに濁っていた。ただあの目が私は大好きなのだが、(孤独、悲しみ、姉からの言葉を遮る様に拒絶した事への無意識的な罪悪感)恐らく湊人お兄ちゃんは、自身が抱いてる感情について理解しようとしていない。もしくは拒絶している。
「けど大丈夫だよ……湊人お兄ちゃん♡ もう二度とお兄ちゃん自身が孤独だなんて思わないぐらい私達がどこまでも深く……深く、愛すからね!♡」
そういう彼女の目は姉達同様、既に瞳に光を宿していなかった。学校での普段の可愛らしい「〜です!」という語尾を付けている彼女からは想像出来ない程、湊人への愛はドロドロに、そしてどこまでも深く深く向けられるのであった。
孤独な青年が3人の美人姉妹にドロドロに愛される話 立花 @kangasaete123
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