第6話 七瀬未來視点
◇
私達3姉妹は昔から沢山の人に好意を向けられてきた。私は3姉妹の次女として産まれ、真奈お姉ちゃんからは可愛がられ、妹である亜美には真奈お姉ちゃんが私にしてくれた様に全力で可愛がった。
私はこう見えて、昔は良く喋る明るい子だった。それこそ、今の様に片言で喋らないし、積極的に友達と遊ぶタイプだった。ただある出来事をきっかけに私は今の様な感じになってしまったのだ。
私は中学生になり、真奈お姉ちゃんと同じく女性として身体付きの成長がとても早かった。それは亜美も同じだが、そのせいか私は普段から男の人達からジロジロと視線を向けられ、偶然を装い身体に触れられる事も暫しあった。ただ、その頃はまだ私の男性への恐怖心はそこまで大きいものではなかった。
それを変える出来事が起こったのは、中学3年の夏の事……私はストーカー被害に遭った。幸い襲われる寸前で何とか近くを通り掛かった女性が通報して助かったが、あの襲われそうになった時、私の身体をねっとりと見つめる視線、そして荒い息遣い。
それをキッカケに、私はその出来事がトラウマとなり「選択的無言症」という症状が出始めた。
そんな感じで私は親しい人には普通に喋る事は出来るが、関わりのない人…男の人を前にすると、あの日の出来事が頭の中でフラッシュバックして
◇
「や、やめなさい!妹達には手を出さないで!」
何故私達はいつもこんな目に遭うのだろうか?私達が何か悪い事でもしたのだろうか?頭の中が色んな考えや感情でグチャグチャになり、真奈お姉ちゃんがあんなに必死に私達を守る為に抵抗してるのに、私は固まったまま何も言葉を発する事が出来ない。
自分の無力感と男達への恐怖で頭がどうにかなりそうだ。真奈お姉ちゃんの抵抗は男の1人が頬を叩いた事によって真奈お姉ちゃんの抵抗の意思が目の前から消え去った様に感じた。
あぁ、もうこれで私達は目の前の男達に汚く犯されるしかないんだ……その事実を理解した途端、グチャグチャになっていた私の頭の中が全て真っ白になっていく。
「あぁ、うるせぇんだよ……良いから黙っ「黙るのは君だよ」ガハッ!?」
私はこれから先の出来事をこれから一生…死ぬまで、嫌…死んだ後も忘れる事はないと思う。
突然駆け付けた白髪の男の人は私達を襲おうとしていた男の人達に対して、人数不利だと言うのに圧倒していく。
そして、私達を守る為に負った傷……私はその傷を出来事と共に一生忘れるつもりはないし、その傷も含めて彼の全てを一生どこまでも愛せる。
私達に向けて金髪の男がナイフを投げる。私達は真奈お姉ちゃんも含め固まる事しか出来ず、ただ目を瞑って来るであろう痛みに恐怖を抱きながら震えるだけ。
ただいつまでも来ない痛みに恐る恐る目を開けてみると、そこには彼の右手を貫通して突き刺さったナイフが私の視界に入ってきた。彼はわざわざ私達を守る為に自分の手を犠牲にしたのだ。普通全く知らない人の為に、自身の身体を犠牲にして、怪我を負ってまで助けようとする人間なんか世界中どこを探してもいる訳ない。
彼の手によって男達が全員気を失い、彼は私達の方へ振り返ってくる。
人はとある出来事をきっかけに恋をするというが、これはそんなレベルの話じゃない、彼の為に全てを捧げたい。彼の為に全てをしてあげたい。彼の為に全てを捨てたい……彼の全てが欲しい。
全身が熱くなる。何故?そんなの当たり前だ、もう助からないと思っていた……助けなんか絶対に来る訳がない。私達はもう諦めるしかない。ただそんな考えを全て打ち消す様に彼が私達の目の前に現れて、自分の身体を犠牲にして助けてくれた。
私の脳内が全て彼の顔、微かに香る彼の匂い、そして何より私が視線を向けたのは彼の瞳の奥に宿した感情、脳内全てが彼一色に上書きされていく様な感覚。
「あ、あの!」
「とりあえず、無事で良かったよ!それじゃ」
彼は真奈お姉ちゃんの言葉を遮る様にして私達に背を向けてこの場から立ち去っていった。
◇
「湊人……湊人……へへへ♡」
自室の机の椅子に座りながら、彼の事を思い浮かべる。真奈お姉ちゃんの生徒会長の権限を利用して彼の名前を知った私は、彼の名前を何度も何度も繰り返す。
帰り際、私達は姉妹全員が同じ気持ちを抱いているという事は何となくだが分かっていた。やはり血が繋がっている姉妹という訳か……惚れる瞬間も被るとは。
ただ私はそれでも構わない。だって真奈お姉ちゃんや亜美の事は大好きだし、それに彼の瞳の奥に宿した感情は私の脳裏に深く刻み込まれている……孤独、悲しみ、私達を拒絶した事への罪悪感、そして誰かに愛されたいという欲求。そしてその感情を理解する事を湊人は無意識に拒絶している。
あの感情の大きさは当然1人だけの愛じゃ包み切れない。だからこそ私達3人で湊人を……。
「安心して……湊人。もう二度と湊人が自分を孤独だなんて思わないぐらい私達がどこまでもずっと…一生を掛けてでも愛すから」
そう言う未來の瞳は姉同様光を宿していなかった。
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