第5話 七瀬真奈視点
◇
愛とは、大勢の中からたった一人の男なり女なりを選んで、ほかの者を決して顧みないことです。
- トルストイ -
(ロシアの小説家、思想家 / 1828~1910)
◇
私……嫌、私達はあの出来事をきっかけに1人の男の人に恋。いえ、これは愛情とも言うべきかしら。
恋と愛は似たような意味を持つが、その本質は全く違う。何故そんな気持ちを私達は抱くようになってしまったのか。
私…七瀬真奈は昔から男の人が苦手だった。妹達も同じ様だが、私の男嫌いは少し度が過ぎていたと思う。
けれど、やはり中学生時代の当時の担任に襲われそうになった時のトラウマが、男の人に話し掛けられる度に蘇り、私はそのトラウマを高校生になった今でも克服出来ずにいた。
当時はそのトラウマの影響で父とも口を聞けなくなってしまい、その状況を重く見た父は母を連れてアメリカへ行ってしまった。まぁ私達の家の家庭環境は良くなかったんだと思う…母親は私達に無関心だし、父親は多少気に掛ける場面もあったが、私達より仕事を優先するタイプ。ただ幸い父親はかなりの大企業の社長だった為、月に一度使いきれない程の仕送りをしてくれるし、私達は何不自由なく3人で暮らせていた。
周りの子より一足早く日々成長していく女性としての身体をジロジロと毎日の様に見られる感覚。そして毎日の様に苦手な男の人に呼び出されては告白されたり、カラオケに行かないなどと気持ち悪い笑みを浮かべながら誘ってくる。
そんな視線だったり告白だったりを毎日の様にされる為、私の男性不信はさらに悪化するばかり……高校では半ば強引的に生徒会長を務める事になったが、そのお陰もあってか話し掛けられる回数は減った。ただ視線は減らなかったが……それと告白も。
◇
「や、やめなさい!妹達には手を出さないで!」
震える手足を何とか押さえ込むが、内心では今すぐこの場から逃げ出したい恐怖と、それでも妹達を守らなきゃといういう感情でグチャグチャになっていた。
「へへっ、少し楽しむだけじゃねぇかぁ?」
「良いだろ?少しぐらい。早く服脱げよ」
「それとも、こいつでその可愛い顔に傷付けられたいか?」
1人の男が取り出したのはナイフだった。それを見た瞬間、私の恐怖心がさらに大きくなる感覚を覚える。私は恐怖心が勝り、男達の言う通りに学生服を脱ぐ。
何故私達姉妹はいつもこんな目に遭うんだろう…好きでこんな身体や顔に産まれた訳じゃないのに、助けてほしい……そんな言葉が頭の中に浮かんでくるが、そんなの絶対に来ないって事は私が一番分かっている。
けれど、それでも。やっぱり私は心の奥底では助けてくれるヒーローの様な存在を求めていた。
「っっ!?こんな事してタダで済むと思って」
ただ、まだ折れた訳じゃない。もう少し抵抗する素振りを見せて、その隙に妹達だけでも…。これからされる酷い行為が頭の中で想像でき、そんな酷い目に大切な妹達を遭わせる訳にはいかない。
《バチン》
「え…」
今私は何をされた?……ビンタをされた?この状況に陥ってからナイフでの脅しは受けたが、明確な相手を傷付ける為の暴力を受けた。
そう私の脳が理解した瞬間…私の妹達だけでも守るという意志がポッキリと折れた様な気がした。
「あぁ、うるせぇんだよ……良いから黙っ「黙るのは君だよ」ガハッ!?」
そこからの展開はこれから先、一生…1秒たりとも忘れる事なく私の脳裏に刻み込まれただろう。
白髪の男の人が男達数人を相手に圧倒する姿…そして
私達3人に向けて金髪の男がナイフを投げたあの時、私達は身動き一つすら取れず、ただその場に蹲り目を瞑る事しか出来なかった。
ただそのナイフは私達を傷付ける事はなかった。彼は自分の右手を犠牲にする事で私達を庇ったのだ。
男達が全員彼の手によって気を失った後、私達の方へ振り返ってくる……何故だろう、全身が熱い。この感情は何?分からない、こんな感情を抱くのは初めてだ。
彼の顔を見つめていると、何故だか
こんな感情を男性に抱くとかありえないわよ……と昨日の私は途中まで見た所で飽きて閉じたが、あの記事の文章を一文字一文字鮮明に思い出す度に、この感情の正体が、まるでパズルのピースが次第に埋まっていく様な感覚を覚える。
「あ、あの!」
何とか思考の渦から脱却して、彼へお礼を伝えなければと私は口を開く。
「とりあえず、無事で良かったよ!それじゃ」
ただ私の言葉を
私達はその後ろ姿を眺める事しか出来ず、彼の姿が見えなくなったタイミングで何とか立ち上がり、男達が意識を取り戻す前にこの場を後にするのだった。
◇
「月谷湊人くんかぁ♡」
普段の私からは絶対に出ない様な声で
あの後、私達3姉妹全員の
にしても三姉妹全員が同じ男の人に好意を抱くだなんて、姉妹は似るって言うけれど意外と合ってるのかしら?
それに私達は見逃さなかった。彼が私達の方へ振り向いた時に、その瞳の奥に宿した寂しさや、孤独、そして私達を拒絶した事への罪悪感……きっと彼は自分自身が抱いてる気持ちを理解しようとしていない。もし理解してしまったら、自分が壊れるかもしれないから。
「安心して……湊人くん。もう二度と自分が孤独だなんて思わないぐらい私達がどこまでも深く愛すから」
そういう彼女の瞳は既に光を宿していなかった。
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