第4話 孤独

- サン・テグジュペリ -

 

なんの見返りも期待しない時、本物の愛が生まれる。



 人から面と向かって感謝をされる……そんな事をされたのは初めてだ。こういう時は何て答えれば良いのだろうか、感謝を素直に受け取るのが正解なのだろうか。


「あぁ、確かに感謝は受け取った…用はこれだけか?なら俺はそろそろ行かせて貰うよ」


 少し冷たい態度になってしまったが、日々色んな人からしつこく熱烈なアプローチを受けている3人には程良い対応と言えるだろう。

 だが、俺が3人に背を向け教室に帰ろうとすると、後ろから制服の裾を引っ張られる……しかも感覚的に三箇所だ。服の裾を掴むのは良いのだが、せめて1人だけにして欲しいのだが。


「どうした?まだ何か用があるのか?」


 その俺の言葉に3人は少し悲しそうな顔になる…分からないな。何故そこでこの3人は悲しそうな顔になる?何か俺がこいつらを悲しませる様な言動を言ってしまったのだろうか?だが、さっきまでの記憶を遡ってみても特に相手を傷付ける様な言葉は一回も発していない。

 こういう時、俺がもっと人と関わっていれば、人の気持ちとやらを分かる事が出来たのだろうか。そんな感じで頭の中が思考の渦で囚われている中、三姉妹の長女が口を開く。


「湊人くん……私の勘違いであれば良いのだけれど、貴方無意識に人を拒絶してないかしら?」


 その長女の言葉に、先程まで思考の渦に囚われていた頭が真っ白になる感覚を覚える。

 俺が人を拒絶……そんな事はない筈だ。今まで俺は特に自分から人を拒絶した事など一度もない、むしろ拒絶してきているのは相手の方だった…筈だ。

 俺が何も答えないでいると、次に次女が口を開く。


「湊人は…1人が好き?」


 その次女の言葉に俺は『好きだ』と答えようとするが、口から思う様に言葉が出て来ない。

 何故だ?俺は今まで1人で生きてきた…例えどんな事があっても、自分より不幸な人はこの世界に沢山いるからまだマシな方である自分は平気…そう自分に言い聞かせて、俺は生きてきたんだ。

 なのに、俺の口からは『好きだ』という一言も発する事が出来ない。脳が、俺自身がその言葉を出すのを躊躇っている様な……拒絶している様な感じがする。

 俺が未だに何も答えないでいると、痺れを切らした三女が口を開く…口を開く際俺の視線と三女の視線が重なる。


「やっぱり孤独は嫌なんですよね…じゃなきゃ泣く筈ないですもん」


 は?何を言ってるんだ、こいつは?ただ俺のそんな思考とは裏腹に頬を液体が伝う感覚を覚える。

 手を自分の頬に当てて確認してみると、それは三女も言った通り、紛れもない涙であった。

 何故俺は泣いている?……分からないが、何故だか涙が止まらない。幼い頃から俺は1人で生きてきた、周りから避けられ、それでも俺は1人で…孤独で生きてきた筈なんだ!だから平気…そうじゃなきゃ、今までの俺の人生を否定する様な形になる。


「ねぇ」


 透き通る様な声が俺の耳に聞こえて来る。その声と共に、俺の頬にシミ一つ無い綺麗な手が添えられる。


「あ」


 その手は長女によるものであった。その手が添えられた瞬間、さらに涙が溢れて来る感覚と共に、


「私達はね、湊人君に凄く…考え切れない程感謝をしているの」


「な、なぜ」


「湊人…これから学校サボって、行こう」


 俺の言葉を遮る様に次女が発言する。


「そ、それは」


 この言葉を拒絶しなければならない。ただ俺の口は未だに上手く動かない、何故だか目の前の3人の家に行かなければならないという言葉が頭の中で浮かび上がって来る。


「湊人♪行きましょ!なのです」


 俺の手を掴んだ三女が、こちらを見上げる様な形で満面の笑顔を浮かべて、言う。


「分かった」


 その笑顔を見て、俺の口から出たのは肯定の言葉。その俺の返答に3人全員が嬉しそうに、顔を綻ばせ、長女が『私は先生に伝えて来るわね』と言って、この場を後にした。

 何故昨日まで関わり合いのなかった、俺にこんな事を言うのか……そんな思考へも辿り着けない程に、今の俺の脳には色々な考えがグチャグチャになり、正常な判断が下せなくなっていた。


「湊人……楽しみ」


「湊人♪ 」


 俺の目の前には、綺麗な笑顔を浮かべた次女と三女が立っており、一瞬だけ2人から感じたドロっとした様な感覚はきっと気のせいなのだろう。



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少し強引かもしれませんが、早くドロドロイチャイチャパートを書きたかったので許してください。

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