第18話 battle2‐1gladiolus
二度目の怪盗バトル。月が陰り、定刻を迎える。怪盗たちが姿を現す。地上からは宙に浮いているように見えるが、前回よりも近距離に六チーム十二人が一枚のガラスに乗っている。
「さあ、皆さん!今宵もショーの時間がやって参りました!!今回も
スピーカーを通して発せられた声は、耳を裂きそうなほどよく響く。前回、殺気を出していた嘉多奈は闘志を滾らせている。そしてクラウンは何かを画策しているようだった。
「会えてうれしいよ……
口元は笑っていない。
「ああ、私も
一瞬、風が吹きつける。
「それではゲームスタート!!!」
瞬く間に乗っていたガラスが微塵と化す。怪盗たちは窓ガラスを突き破って美術館へと侵入した。
「始まってしまいましたね」
「ちゃちゃっと終わらせますか!!」
ドーム状の建物に足を踏み入れる。すると入り口の扉が閉ざされ、シャッターが下り、照明までもが落ちる。そして一人の人物がスポットライトに照らされた。
「私の名前はアイス。隣にいるのがハート。この連戦で確実に殺すから」
予定通りにチーム、グラジオラスが現れた。
「本当の目的は?」」
「お宝集めだって……」
怪盗バトルに参加する目的はそれぞれ違う。アイスは云った。大怪盗に成りたいチームは三チームだけだと。
エクスがアーマーを変形させる。それを皮切りに次々と武器を手にした。スポットライトが戻り、照明が戻る。二人は強く床を蹴る。だが、すぐに足を止めることとなった。
「ユニットを改造できるのは
構えられたのはガトリングだった。
「まずいッ!!!」
即座に双腕を展開して即席の盾を作る。けたたましい轟音とともに数百の弾丸が盾を削る。
「早く手を打たないと数秒後には蜂の巣ですよ!どうするんですか!!」
「どうすればいい!?」
「私にも策はありませんっ。速く……なんとかっ!」
「左右に散る、叩く。これで行こう」
追い詰められて詰めの甘さが出た。二手になってどちらに標準を合わせるか迷うアイスの様子を、イリスは双腕の指の隙間から覗き、アイスをガトリングごと薙ぎ払う。
「ぐっ……!」
立ち上がろうと震える足、紅い瞳が乱れた髪の間から刹那、煌めく。
「とどめだぁぁぁぁ!!」
「ハァッ!!」
迫る巨拳をガトリングの銃身で受け止めて、アイスは窮地を脱した。
「貫け」
ハートがイリスを目掛けて槍を投擲する。イリスは巨大な手の平で、壊れそうな程強く柄を握り、鞘から剣を引き抜いた。鋭い槍の先端を捉え、いとも容易く槍を両断する。
「どこまでもしぶとい奴」
ガトリングが乱射される。エクスが投げ込んだ
「簡単にはやられないよ」
ハートによる背後からの一閃。イリスは一閃を躱し、ハートの顎を蹴り、弾いた。
「確実に潰すって初めに言ったよ」
アイスは火炎放射器を手にして引き金を引く。
「馬っ鹿!!ここは美術館だっての!!」
炎はあっという間に延焼し、辺り一面が火の海と化す。警報は鳴らず、炎は燃え盛る一方。
「警報設備は破壊してある。さあ、どうする?」
「ちっ。エクス!!何とかして出口を!!」
エクスが火の海となったドーム状の建物から出るために、ハートの進路を妨害する。
「そんなに一対二になるのが好きなんだね。その方が倒しやすくて助かるけどねっ!!!」
イリスは両方向からの攻撃を何とか抑え込んだ。
「こちとらお前なんかに殺られる程柔な体してないっつーの!」
数秒の時間を稼ぐことでエクスがシャッターごと扉を破って脱出することに成功していた。
「粉々になれっ!!」
ガトリングによる集中砲火によりイリスは防御せざるを得なくなった。その
「余計なお世話だ!分かったら離せ!」
「殺すって言ったじゃん。殺すから」
どれだけ殴られようともハートは手を放そうとしない。
「そんなに逝きたいなら一人でどうぞっ!!」
双腕を高く振りかざす。
「お前に私を殺すようなことはできないよ」
イリスは感情に任せ、アイスの足を目掛けて双腕を振り下ろす。脚を引いていた手が離れ、ガトリングの銃身がイリスの後頭部を叩く。頭からは出血し、意識を失いかける。一歩後ろは火の海である。
「……いってぇ。加減しろよ馬鹿が」
「窒息か焼死するか選びなよ」
イリスは首を絞められて一時的に呼吸が止まる。
「……っ……ッハ」
アイスが馬乗りになり、首を絞めつける力がより一層強まる。
「ほーら、もう死んじゃうね」
イリスはアイスの首に
「窒息か焼死かどっちがいい?」
刹那、判断の末にアイスは
「……はぁ、はぁっ」
「……けほっ」
このまま数十分と経てば、グラジオラスの思惑通りにイリスは死んでしまうらしい。危機的状況に陥ってしまった。イリスの意識は朦朧とし、数十秒、数分、数十分、どのくらいの時間が経過したのかさえ分からなくなっていた。
*
エクスはシャッターを破って、真っ先に制御室に向かった。消火をするためにとにかく急いでいた。
制御室に着いてドアを開ける。鉄の階段をカンカンと音を立てて駆け上がる。この美術館は広い。なのでそれなりに制御室も広い。
「待ってよー。消火しないでってばー」
ハートが制御室の一階から飛び、手すりを掴んで二階へ。エクスの前に立ちはだかる。
「仲間を見捨てるんですか?」
「そうだねー。優先事項は君たちだもん。それが変わらない限りは助けない」
「やはりあなたは気に入りません。無理やりにでも退いてもらいます」
「もう少し正面から殴り合おうよ」
アイスの強力な一撃。双腕でガードされたものの、数メートル後方に吹っ飛ばすことに成功する。エクスは処刑人の剣を抜き放って足場を切り崩した。
「大人しくしていてください」
「待ってってば」
またまたハートが立ちはだかる。頑なに先には行かせたくないようだ。
「今ので分かりました。消火設備は壊れていませんね。そうでなければ貴方は私と適当に戦っていればいいはずですから」
「あっ……ああ。自分ね、思ってることが行動に出すぎているって言われるんだ。またやっちゃったぁ!」
てへっ、とふざけて見せた。
「力の差が違います」
装備していた双腕を外して宙に浮かせる。かなり重量のある剣を軽々と振り続け、周囲の機器を破壊しながら進む。
「脳筋は楽そうだね。一般人がこの機械を破壊するのにどれだけ時間がかかると思ってるわけ?」
「十分以上でしょう。私は一撃ですっ!」
消火するより先に部屋ごとなくなってしまう。彼女の持つ処刑人の剣は彼女が怪盗をするにあたって作られた武器だ。「しっくりくる物がいいです」と、武器屋にある武器を全て試したがお眼鏡に適う武器は見つからず終い。ついには置物の剣を手に取って「これがいいです」というので仕方なくその置物と同じ重量の剣を特注した次第だ。
店主曰く三十キログラムほどらしい。それを二本も装備している。正気ではない、馬鹿げている。大男が振り回すだけでもやっとかもしれないが、彼女は片手で振り回す。
「ダメだダメだっ!!ふざけてる余裕なんかなかった!」
完全に後手に回ったハートは逃げる。逃げた先に消火設備があるに違いない。ハートは居場所が割れる前に息を潜めて暗闇に恐怖を抱きながら必死に物をかき集める。消火設備にゆっくりと近づくエクス。
ハートは機器の陰から飛び出して水をかける。そして放電をした。だがエクスは放電のダメージをほとんど受けることなく、淡々と告げる。
「追い詰められておかしくなったんですか?行動が丸わかりです」
ハートに麻酔針を刺して眠らせる。機械を素早く操作して火災が発生した場所の消化をする。消火完了と映し出されたディスプレイを確認して一気に緊張の糸が切れてその場にへたり込んだ。
*
燃え盛る鮮やかな炎、
「もう少しで楽になれます。がんばって」
透き通るような声。イリスの頭痛が少し和らぐ。
「てん……し?」
実際は天使などではなく、一人の幼女だった。幼女に引き摺られて通路へと連れ出された。幼女はイリスの仮面の下を覗いたかと思うと直ぐに何処かへと消えた。人が走ってきたのをいち早く察知したからであった。灼熱から解放さえて徐々に体が冷却されていく。
「イリス!どこにいるんですか!?」
イリスがドーム状の建物の中に居ないことを知って叫ぶ。
「わたし、ここっ……にいる」
小さな声でエクスを呼ぶ。
「ああ!無事でよかった……」
慌ててイリスに駆け寄って介抱をする。
「へへ……さっき天使に助けて貰ったんだぁ」
「怪盗の他に誰かいるんですかね」
「絶対天使に助けて貰ったって」
「いや、人でしょう」
意味のない小さな論争は五分程続いた。その五分程の間にイリスはみるみる内に元気になって立ち上がる。
「もう体力も回復したし、次の敵を倒しに行きますか!」
すさまじい回復力である。
「そうしましょうか」
グータッチをした折れない二人は次なる標的、プラタナスに挑む。
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