第12話 battle 1‐2honest
ストロベリーを倒してメインホールへ進む。
「エクスは……ボロボロだね」
蹴られ、殴られ、天井にぶつかった際に小石が降りかかったり床に叩きつけられたりと、汚れが付いた。
「舐めてかかりましたね。避けなくても倒せると思ってんですよ。このザマです。笑ってください」
「ほら、こっち向いて」
イリスは立ち止まってエクスの髪についた小石を払い、頬を拭う。
「んあ……。気遣い、感謝します!頑張ります!」
「まあ、私は無傷だけど」
使い慣れない強力な武器か、性能は劣るが使い慣れた武器で安定を図るか。ここに浪漫という単語を加えると頭を悩ませる問題となる。
「こっちは
「邪魔者を排除してお宝を取ろうとするのはさっきのチームだけかな」
「そうかもしれませんね。他のチームも戦っていることでしょう。戦闘を避けてフリーのチームもいますかね」
この美術館は広い。いずれは鉢合わせになるだろうが、遭遇率は低い。
「今回お宝には番人がついてるだろうなぁ……。嫌な予感がする」
「今度こそ二対一で倒しましょう!」
『状況はどう?』
実況はされているらしいが、参加者には聴こえてはいない。
『まずは君たちが、ストロベリー……を倒した。クラウンとプラタナスがじゃれあってて、グラ……何とかがお宝を探してる」
「じゃあ、グラ何とかを追おう!」
「はい」
二人はメインホールに突入した。
「ちょっと待った!!」
どこからか声が発せられている。
「えっとホーネスト……。オネスト?か」
情報になかったフリーのチーム。一人は二階から、一人は柱の影から現れた。
「二階から来たのがレオ。柱から出てきた私がティア。よろしくね」
戦意は見られず、接触の理由も不明。避けるに越したことはないはずだ。
「ごめん、急いでるんだ。先に行くね」
「だから待て!!」
「戦わないなら行かせて!?」
「大目玉っていうから戦っておきたいんだ。一戦いいかな?」
軽く一戦。つまりは親善試合だ。両者剣を抜きにらみ合いに発展する。
「もう好きにして……」
「そりゃ!」
先に仕掛けたのはティアだった。滑らかな足さばきからの真向切り。それに構わずイリスは上半身を捻り、突きで返した。この一撃で終わらせるといわんばかりに切っ先が喉へと向かっていく。
「最強なら避けてみな」
「容赦ない……けど、そうはさせないよ!」
すさまじい反射速度でイリスの攻撃が弾かれる。
「何をしたらそんなに早く弾けるのさ……」
ティアという相手は相当厄介な相手だ。イリスは本当の敵にならずに済んでよかったと安堵した。
「普段から運動してるおかげ。強いて言えば自分で編み出した流派持ち」
とんでもない言葉がティアの口から発せられる。ティアは和装で刀を使用している。立ち姿や刀からはどこか神聖さを感じられる。
「なんでもいい。勝って先に進む」
「それなら私も出し惜しみはしない」
ティアが構えに入る。
「さあ来い!!」
「
流派名、技名が透き通るようにイリスの脳に響く。魔法の詠唱のように美しく、耳障りがいい。魔法は存在しないはずなのに、水と雷を纏った刀身がイリスの瞳に映る。ティアは、刃が届くはずのない距離から刃をを振るった。
「……った」
「よそ見したな?」
稲妻のように速く、水のような柔軟性を持った波状攻撃。受けた衝撃は、体を突き抜けて体外へ。
「なにこれっ、体動かしにくいんだけど……」
「流雷は、雷が波のようになるの。水と電気の相性は良い。外傷はないけど体内には蓄積されているはずだよ」
イリスは筋肉疲労によって、手足が動かし難くなっていた。イリスの足は小刻みに震えている。そこに恐怖はない。
「そういうこと……」
「君は弱点を見つけられるかな?」
この流派には弱点がある。それを自白した様なものだが、気づいた上での発言だった。戦場では相手の一挙手一投足が情報となりうる。
「デメリットになりにくいんだね。技に対して有利な物で打ち消せるとかでしょ?」
「……ご名答!その通り!」
「いくよ」
イリスは同じ轍を踏むまい、と納刀をした。これから大技を放つ。
「そうこなくっちゃ!!」
*
「お宝は良いんですか?」
エクスはレオに問う。
「師匠が言った通り、強い奴と戦いに来たの」
あちらでは互いに互いの本気を引き出そうと戦っている。
「気軽に戦いましょう」
「神五天操流、
流雷を二刀流用に改良したものだ。エクスに斬撃と打撃、両方のダメージが入る。
「痛いです……」
「師匠より威力は劣るけど、速さなら師匠以上だよ」
「師匠……。ティアが師匠ですか」
イリスとエクスの関係と似ている。エクスは生き方や命を守る術などを教わった。
「師匠には遠く及ばない」
及ばなくとも才能があれば半年や一年ほどで、レオはもっと上を征くことができるだろう。
「それでも強くなりたいと思うのは良いことだと思います。私も憧れて怪盗になりましたから」
「いい
どこか熱量を感じられる声。その気迫によって、エクスの全身に鳥肌が立つ。エクスは、鞘に納められていない分厚い布に巻かれた処刑人の剣を乱暴に抜き、構える。
「神五天操流、
「祝福を告げる銅鐘」
流星の如く降り注ぐ斬撃が、エクスの体に刻まれていく。その姿はまるで、御伽噺の「終焉を詠う少女」に登場する少女の様だった。エクスは斬撃の数発を吸収して二回転。鐘を鳴らす槌のように剣を叩きつけた。
崩すことのできない圧倒的な体幹から打ち出された一撃は確かに鐘を鳴らした。
大きく床に亀裂が入り、土煙が舞う。レオの姿は目視できないが、エクスの手には技が直撃した感触が残っていた。
「
爆風とともに土煙が晴れて蕾が花を開く。
「綺麗ですね……」
率直な感想だった。
「いい技だったけど、可愛い弟子を病院送りにしたくないから防がせてもらったよ」
「ありがとう……師匠!死ぬかと思った……!!」
レオはティアの一歩後ろでゆっくりと目を開けた。後ろから腕を回して服に顔をうずめている。
「今度はびびらずに避けようね」
ティアはレオの頭を優しく撫でる。
「大技打とうとしてたのに」
「あっはは!ごめんね、いい戦いだった。また今度やろうね!」
レオを小脇に抱えながらティアは走り去っていく。そして手を振りながら颯爽と二人の視界から消えたのだった。
「なんか懐かしいなぁ、エクスを担いで逃げ回ったこと時のことを思い出したよ」
過去の話。毎日変わらない光景を眺めていたエクスを連れ出した。遅れて状況を理解したエクスは小さく笑っていた。
「昨日のことのように覚えていますよ。鮮明に脳裏に焼き付いていますから」
二人は二階に続く階段を登る。お宝探しに奔走するのだ。
「体痛い……助けて」
「私はまたボロボロです」
体は動くが、持って半分といったところだろう。
二人は手当たり次第に扉を開いていくのだった。
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