第11話 battle1strawberry


 時は宵。基地を発つ準備をする。


「ユニット、剣……よし」


 指さし確認をしながら、不足が無いよう入念に。


「さあ、乗って」


 ここは地下基地であるがヘリがある。ヘリポートから上を見上げると形は円筒形。壁には螺旋階段がついている。屹立する塔といっても過言ではないかもしれない。速く速くと急かされ、ようやくヘリに乗り込む。


 ヘリが緩やかに上昇を始める。それと同時に幾重にも閉ざされていたゲートが順に解放される。


「行きましょうか、舞台へ」


 本当の旅の始まり。その高揚感を胸に、基地を飛び立った。



               *



 バトル開始時刻前。美術館には怪盗たちが到着していた。六つある塔のうちの五つの塔に鎮座している。この美術館の魅力の一つ、塔の総称は「月囲つきがこみの監六塔かんろくとう」である。


「気張って行けよー」


「もちろんっ!」


 チーム星光ステラ六塔ろくとう、最後の一塔に降り立つ。途端に空気が一変し、狂気、殺意、闘志が波となって押し寄せる。異質な気を纏う者までいた。


「ハロー!参加者!観戦者ギャラリーたち!!」


 開始十分前。ようやく主催者が姿を現す。


「早く始めようよー!!」


「まあまあ。一人二つ、私のところに宝石を投げてくださーい!!」


 怪盗たちはゴミを投げるように宝石を投げる。宝石は次々と袋の中へ。


「それではチーム紹介に移りますが、チーム名が上がってきていません!考えるだけ無駄だということでしょうか!?」


「忘れてた!!」


 先程と同じチームが口を挟む。


「一番の大目玉!チーム星光ステラ!」


 チーム名がうまく伝わっていたようで、群衆の前でその名が公言される。


「次は戯曲で猛威を振るったこのチーム!!ついた名は『闇の暗殺者』チームstrawberry!!」


 殺意を発していた者がいたチーム。名は体を表す。戯曲の一回で名をつけたというのならば相当の観察眼の持ち主だ。


「次!怪盗をする姿は悠々自適!最強の怪盗!?チームhonest!」


「照れるねぃ」


「次、凍る死神。gladiolus!」


 チームが紹介されるたびに歓声が起こる。


「天才、platanus!」


チームplatanusの二人は注目を集めようとせず、静かに微笑むだけ。


「最後は、狂気の道化師clown!」


「みんなよろしく!」


見た目と声は、年端もいかぬ、幼気いたいけな少女。


 「開始の前にルール説明。今回のお宝は絵画、先に美術館の敷地外に持ち出したチームの勝ち。制限時間はなし」


「構わん。始めろ」


「それじゃあゲームスタートーっ!!」


 賽は投げられた。


 怪盗たちは一斉に塔から降下していく。イリスは空中でエクスの手を掴む。


「最優先は絵画なわけだけど、敵が来たら一緒に倒そうね」


 地面が近づいたところで、ユニットの加速機ブースターを噴射して、柔らかに着地する。そして引き戸のドアを開く。


「……簡単に侵入はできないみたいですね」


 初めの関門はレーザートラップ。イリスとエクスの仮面には特殊加工が施されていた。そのため、レーザーを目視することができた。エクスは迷いなく助走をつけてレーザーを躱していく。


 エクスの後に続いてレーザーを躱す。


「きたよ」


 直後、何かに激突してイリスは弾き飛ばされた。勢い余って通路に出てしまったことが原因だった。


「チッ……」


「隣の入り口から距離はあった筈だけどなぁ!!」


 激突する瞬間に、ナイフで受け、衝撃を受け流した。隣の入り口から入ったチームはstrawberryだ。


「こんな狭いところでやろうっての?」


「どうでもいい」


 すぐに剣を取り、打ち合いが始まる。


「私も加勢――」


「させないわ」


 二人目も姿を表してエクスの加勢を阻止した。


「手数が多いと厄介だな……」


 殺気立つ相手の使用武器はダガー。一撃の重さは軽めだが、何度弾いてもすぐさま復帰する。目には目を、歯には歯を。イリスはナイフを抜いた。


「なんで私を狙うのかな?大目玉だから?バトルに参加した目的は?」


「金が欲しいだけだ。他に理由はない」


 対してイリスは大怪盗という偉大な称号を求めている。他のものは二の次だった。


「ハァッ!!」


 一閃。仮面に傷を入れて後退をさせる。


「私は私の夢を叶える!!」


「くだらない物と一緒に潰してやるっ!!」


 金が欲しい。その言葉がイリス・バレンシアの逆鱗に触れた。当然だが怪盗にも矜持プライドがある。何十年もの月日を費やして大怪盗になったイリス。もはや夢ともいえる。それを冒涜する発言。目の前にいる愚か者を蹂躙し、再起不能にする。それをもって罰とし、腹の底から湧き上がる怒りを鎮める。第一の目的がstrawberryの撃破へと切り替わった。


「お前には分からないッ!!」


 イリスは一歩踏み込み、加速機ブースターを駆使して加速する。ユニットから漏れる青白い光が軌跡を残して超速の刃が相手を襲う。イリスはえらく感情的で怒りに身を任せて戦闘を行っている。


 刃が仮面に達し、無数の破片となって砕け散る。露わになった双眸を数秒見つめて何かを確信した。


「何か理由があるんだ、お金が必要な理由が」


「お前に分かってたまるかよ」


 イリスは感情のままに動き、怒りで沢山だった頭が晴れ、すぐに落ち着きを取り戻した。


「理由を言ったらどう?」


「黙れ」


 放たれる高速連撃。刃が同士が激しくぶつかり合い、火花が舞う。互いにすべての攻撃を受け止めて鎬を削る。


「名前は?」


氷霧ひょうぎり嘉多奈かたなだ」


「私はイリス。その名前は本名じゃないでしょ」


「さあね」


 膠着状態が続く。


「悪いけど早めに片付けさせてもらう」


 両者沈黙したまま打ち合いが再開する。閑静とした通路には甲高い音だけが響き渡っていた。



               *



 「邪魔ですっ!!!」


 エクスもイリスに加勢して数的有利を作り出し、圧倒するつもりでいたが相手も一人ではない。想定の範囲内だったようで、言葉を遮るような形で加勢を阻止された。武器は使わずに体術による戦闘。目的はあくまで足止め、武器を使用する素振りは微塵もない。


「私を倒して行けばいいわ!」


「ええ、そのつもりです!」


 華奢な体には似合わない防具アーマーが姿を現す。


「ふふっ、手加減はなしみたいね」


「はい」


 すぐに守りの体制がとられる。エクスは防御ガードされていない場所を縫うように攻撃を当てていく。


「馬鹿ね、まるわかりよ!」


「そうですか」


 エクスは不意を突いて防御ガードの上から渾身の一撃を叩き込む。


「うぅっ!!」


「わざわざ同じことする必要もないですからねー」


「嫌味な子。煽ってる割には弱いわね?」


「手、まともに開けてないですよ。相当キてるんじゃないですか?」


 腕で受けた衝撃が手に伝わり、悴んだ時のように動きが鈍っている。


「ほらっ!!もう一撃ッ!!!」


 またしても正確な攻撃。見掛け倒しは通用しない。相手が導き出した答えは―。


 一瞬の瞬きをするうちにエクスは床に叩きつけられていた。


「がぁっ!!」


 相手が導き出した答えは、攻撃が当たるまで動かないことだった。確実に当たると思わせ、油断を誘い出して罠にかかった所を攻撃の勢いを利用して叩きつける。


 ゲームで例えると、モーション硬直時間スタンを意図的に起こして限界まで引き付け、硬直時間スタン終了後に間髪入れずにカウンターを発動する。自分はダメージを受けることなく、威力を倍にして返すことが可能となる。


 叩きつけられたがエクスのユニットは正常に機能していた。エクスに反撃のすきを与えずに腕を掴みなおして反対方向の床に叩きつける。そして、もう一撃、エクスは通路の天井に蹴り上げられた。天井にひびが入り、パラパラと天井だったものが落ちる。


「煽ってなんかいられないわよ」


 エクスはゆっくりと屍のように立ち上がる。足元は少し覚束ない。その時イリスとの戦闘相手の仮面が割れる瞬間が視界の端に映った。


「どう……やらっ……勝負はあったようですねぇ」


「ッ!!まだよ!まだ終わっていないわ!!第一、そんなボロボロの体で何ができるっていうの!?」


 叫び声を無視して吐息交じりにエクスはつぶやく。


接続コネクション加速機ブースター点火ファイヤ


「何……」


 防具アーマーが変形し、ユニットと同期する。ユニットでの加速以外で、防具アーマーからの出力が可能となった。エクスは暗闇に紛れて姿を消す。


「お得意の防御ガードしたらどうです?前か、後ろか、それとも……上とか?」


「――っ!」


 突然天井から姿を現す。天井には掴めるものはないが、蝙蝠こうもりのようにぶら下がっている。相手がバックステップで後退する。


「だるまさんが……」


 カツ、カツ、と足音が響く。これが正真正銘、勝敗を分ける一手。暗闇に紛れて攻撃を予測させない。効果は影分身と変わりない。違うとすれば多少恐怖を与えるくらいだ。相手は予測を諦めて神経を聴覚に集中させている。


「…………」


「ころん――」


 全方向に対処可能な構えがとられる。


「っだ!!」


「残念」


 気配を感じた方向に蹴りが放たれる。エクスはその背後をとって加速が十分に乗った超高出力のパンチを相手のユニットに炸裂させる。


「どりゃあああああっ!!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 イリスが戦闘を行っている方へと一直線に吹っ飛んでいく。


「子は、鬼が見ていないうちに動くんですから背後には気を付けないといけませんよ。さよなら戦乙女ヴァルキュリア、フィナーレと行きましょうか」



               *



「お仲間が一人転がってきたようだけど」


 嘉多奈の仲間、名は不明だが、エクスが呼んだ戦乙女ヴァルキュリアが飛ばされて転がってきた。


「……一人でも勝ってやるよ」


 数秒遅れてエクスが戻る。


「お疲れのところ悪いけど二人で倒そうか」


「分かりました」


 嘉多奈と戦乙女ヴァルキュリアを囲み、その周りを高速周回をする。


「笑わせんな、はえにでもなったつもりかよ」


 イリスとエクスは停止し、イリスは指を鳴らす。足掻くこともできぬほどの鉄線ワイヤーが嘉多奈と戦乙女ヴァルキュリアに巻き付いた。


「グッバイ。行こうか、エクス」


「はい!」


 次の場所せんじょうへと足を進める。


「逃げんなああああああああああああ!!」


 嘉多奈の怒気を孕んだ叫びが通路に谺した。

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