第9話 戯曲
「予告状は送った。装備を整えよう」
一度帰宅をした。前回、銃を盗んだ時のように計画性はない。難易度は上がれど、死亡率は格段に下がっている。盗んできた銃は二十五丁、そのうちの十五丁がハンドガン。
「何を装備していきますか?剣二本はさすがに重いのでやめておこうと思うのですが……」
「エクスはナイフ持ってる?」
「……ないですがイリスのナイフは扱えないです」
早速断られてしまった。
「そっか」
「その代わりと言っては何ですが、弾薬を多く持っていきます」
軽量なものから重いものまで様々。そのほかの十丁のうちにはライフルまであったが、流石に邪魔になってしまう。
「リボルバーかっこよ!!」
シリンダーを開けてリボルバーを眺める。威力、ロマン共に申し分はない。だが、初心者が欠点をカバーするのはやや難易度が高い。
「最悪の場合、剣で何とかします。腕力には自信アリなので!!」
エクスが鼻を鳴らす。エクスは以前、ほぼ自力で鉄筋コンクリートの家を全壊させたことがある。破壊できないものも確かに存在するが、彼女にとっては朝飯前だろう。
「物は試しっていうし、とりあえず使ってみようかな!」
見た目から、趣向に合うハンドガンを装備する。
「私は軽くしておきます」
「装備は準備完了かな!ゲームしよっか!」
「ええっと……確か、この距離だ、銃のほうが速いに決まってんだろ?」
次期頭に撃たれそうになった時のことである。エクスが後頭部に銃口を向けながら不敵な笑みを浮かべる。
「おい……!銃を向けるんじゃない!!そして掘り返すな!」
「下ろしてほしければ武器を置くんだ」
「甘えようたって無駄だぞー?」
舌打ちが返ってくる。素直に甘えられたらいいのだが。茶番を終えた所で電話が掛かってくる。相手は松井さんだった。
「もしもし?」
『ああ!よかった!あれから連絡がなかったのでどうしたものかと!』
少し慌てたような声。あれからといっても空いたのは丸一日。スマホという道具を忘れていたのは事実だ。
「あれからって……えらい大袈裟ですね?」
『あっ……つい癖で』
鋭い勘が働く。癖から察するに、松井さんは心配性で、小さい兄弟がいるのだろう。
「そんなに幼くないですよ~。心配しないでね、お姉ちゃん」
『もう切りますっ!!』
意趣返しを実行した結果、思い切り電話を切られてしまった。
「この世界での初友達は私ではないんですね」
「何を言ってんのさ、家族みたいなものでしょ?」
エクスはちょっとばかり、愛が重い。嫉妬した猫のように。
「そうですか……」
「はじめてハンターだ!!逃げろ!」
「逃がしませんけど」
「キャーーーー!」
「待てい!!」
このまま何事もなく大怪盗になればずっと、自堕落して生きていくことができる。お金は、盗ったお宝や絵画を売って暮らしていく。エクスと交わした「ずっと一緒にいる」という約束も守ることができる。
「そろそろゲームしよっか。夜まで、このシミュレーションゲームをさ」
シミュレーションゲームは、目的がないので一通り遊ぶまで、長く楽しむことができる。どれもこれも発想次第。
「楽しそうですね」
「よしきまり」
そして、昼食も取らずに夜までゲームをして過ごした。
この頃から、幸せは少しずつ崩壊を始めていた。
*
美術館の内部については把握していない。今回の目的は二人合わせて計、六個の宝石の回収。下見の通りに宝石展の場所は一階だ。
「絵画を頂くとメールに書いた理由は混乱させるためですか?」
「うーん……そのつもりではあるんだけどね。主催者が宝石三つって言っちゃたから意味はないかもしれないけど……。うん、怪盗が予告状に書いたもの以外を盗むのか、迷うならここだね」
予告したものだけを頂く、それが怪盗。だが今回は撹乱する。
戸締りを済ませ、住宅の屋根を飛び移ってゆく。
「電話をしながら宝石を盗りましょう。連携が鍵です」
二人は電話を繋いでポケットにスマホを押し込んだ。
今回の作戦は、宝石展の屋根に穴をあけて侵入前にカメラを破壊する。そして着地の衝撃を利用してケースを破壊する。
「何かあれば作戦を建てるから、そのつもりで動いて。臨機応変にね」
「とっておきは本戦のためにとっておきましょうね」
「ふっ、うん。なるほどね」
くだらない物のほうが面白かったりするものだ。美術館の屋根が視界に映り、仮面を装着する。
「そういえば、チーム名とか、怪盗としての名義がありませんね。どうします?」
イリスやエクスは本名であるが、あちらの世界から来た者でなければ正体は知りえない。俗に云う身バレの心配がないのである。
「私がアメ、君がナイト、というのはどうだい?」
「へぇ……」
返された反応は希薄であった。美術館の屋根に飛び乗った。
「準備はいいね?」
「今日……いや、今は頑張りましょう。明日のために」
「ああ」
抜刀。エクスは分厚く巻かれた布を解いて数撃放ち、天井に大穴を空けた。瓦礫が床に落ち、雪塊のように砕け散る。イリスはすかさずカメラに弾丸を打ち込んだ
「お先に」
「まっ――」
制止する声が届かずにエクスが下へと降りた。
『ケースが見当たらないのですが……』
当然といえば当然だ。
「やっぱり怪盗ってのは難易度が上がっても盗るもんだよね。さ、攻略しようか」
下で相棒をじっと待つエクスの元へ降下する。二人、館内を駆ける。現在地点は一フロア。
「異様ですね……美術品が一つもないなんて――」
「侵入者を捕らえろっ!!!」
想定よりも早く、警備員が到着する。美術品を全て安全な場所に移したのであれば、保管庫周辺の警備を固めればいいのに、と疑問を浮かべる。
「見つかったからって素直にやられる怪盗じゃないんだよ!」
「さあ、魅せてください!その銃の威力を!!」
イリスはデザートイーグルを懐から引き抜いて数発撃ち込み、警備員が装備する盾を破壊する。だが銃の反動で身体ごと吹っ飛ばされてしまう。
「うわっ!」
「私が!」
盾を捨て、向かってくる警備員。すかさずエクスが攻撃に出る。
「ぐっ……!」
「がはっ!」
一人は頭に、もう一人は鳩尾に強力な蹴りを食らい気絶、失神した。
「この人たちには悪いけど、身ぐるみを剥ぐ」
保管庫とまではいかないが、警備室や制御室まで行けるという自信はあった。怪盗バトルの参加費、宝石三個を易々と盗まれるほど、警備員会社は甘くない。
「取り合えず……お偉いさんを倒すとしよう。保管庫の鍵を持ってそうだし」
「そうですね」
特別警備案の
「二手に分かれて立案者を探そう」
「了解です」
一フロアの残りをエクスが探索したのち三フロアへ。イリスは道を引き返し、二フロアへの階段を登る。
「ここは通さんッ!」
新たな警備員がまた一人。剣を鞘ごと背中から引き抜く。警備員は一歩後ずさりをした。
「ほら、負けるって思ってるでしょ。それじゃあ、ね」
イリスは正確に顎に痛烈な打撃を当てる。壁に激突した衝撃が決め手となり、今度は言葉を発さずに気絶した。
二フロアは恐竜ミュージアム。巨大な骨格標本が飾られている。目の錯覚か、照明の当たり具合により所々に影ができ、一回り大きく見えた。
「美術館すごいなぁ!」
感嘆。周囲を見渡す限り部屋らしきものはない。柱に警備員が身を隠している様子もない。
『一フロア探索終了です、三フロアへ向かいますね』
『なんだって?保管庫らしきものは?』
『せかしすぎです。今私が階段を通過したの見えませんでした?』
反対方向の階段まで数十メートル以上離れており、立ち位置的にも骨格標本で階段が隠れていて見えはしない。
『物理的に無理だった』
『なんですか今の音は!?』
電話越しの大声が脳に響き、反射的にスマホを遠ざける。ズシンと、重く鈍い音。イリスの影が一層巨大なもので覆われる。
「マズイマズイマズイマズイ!!!」
背後に佇んでいたのは
『状況は!?』
『いいから早く立案者を探して!!』
イリスは切羽詰まった状況に腹を立ててエクスに強めの返答をする。
一つ目は
「一体どこにこんな怪物が……」
これほどの巨躯を仕舞い込む場所などそうない。
『三フロアを探しましたが立案者らしき人物も宝石も見つかりませんっ!!」
頭の中の
『天井が開いた痕跡がないのはそういうことか……』
『な、なにを?』
思い違いをしていたのだ。宝石はショーケースごと、保管庫に集められたと思い込んでいた。跡形もない理由を技術の差だと片付けて納得していた。
『……答えは、そうだ!バラバラに散らばっている!!エクス、宝石は元の場所から動いていない。跡が付いていないのは真下に格納されているからだ!保管庫もなにもなかったんだよ!!』
エクスの思考が一瞬停止する。
『なるほど』
抜け落ちていたピースが嵌り、謎が解けた。
『『向かうは、地下一階の電気設備室!』』
行きついた一つの答え。エクスが地下一階に向かって走り出した。
危機的状況から、依然に脱しておらず、
構えに入り、一、二、三、四、五、と一本ずつ指が折り曲げられ、柄が握られてゆく。限界まで引き付けて、小細工なしの一撃必殺を放つ。
「
迫りくる機械竜の足を両断。すさまじい速度で刃が振りぬかれる。斬撃は留まることを知らない。
「グルォォォォォォォォォォォォッ!!!!」
『こっちは片付いたよ、そっちは?』
『こちらもスイッチを入れました。宝石展へ向かってください』
快足を飛ばして階段へ向かう。二十段ほどある階段か飛び降りて、踊り場の壁をけって、さらに二十段ほどを下る。
「イリス!」
地下一階から上がってきたエクスと出くわした。イェーイ!とハイタッチを交わす。宝石展へと足を踏み入れると同時にガチャンと、格納されていた宝石が定位置へと戻る。
「これを待っていたんだよ!!」
やってやったという達成感で心が溢れかえり、宝石の輝きが二割増しているように思えた。
「いきます!!」
エクスが剣を抜き、一つ、また一つと、ショーケースを斬って回る。斬られたショーケースは破片となって宙を舞う。すぐさま宝石にありつく。
「あっハハ!」
五十個すべての宝石を回収した。大穴の空いた天井から月明かりが差し込む。差し込む月明かりに宝石をかざす。
「輝いて見えますね」
「早いとこ出よっか」
「そうですね」
天井から脱出をする。
「せっかくだから写真撮ろうよ。君がアメシストをもって、私がタンザナイトを持つの」
「素敵です」
「ほら、撮るよ」
月をバックに、手に宝石をもってツーショットを撮った
*
「
屋根を優雅に飛び移っていく。
「今日は気持ちよく眠れるね」
自宅が近づく。地上に降り立った。
「君たちが怪盗なんだろう!?」
背後から、見知らぬ男が息を切らしてやってきた。
「あなたは?」
「名前は、洋介。君たちが怪盗なら、その手伝いをさせてほしいんだ!!」
正直、必要性はない気がした。
「何か計画が?」
「この世界の技術が発達していることは知っているだろう。このままバトルに出てもほかの怪盗に勝てる見込みがない。だから是非私のところに来てほしい」
洋介という人物は、他の怪盗に対抗する術を持ち合わせているという。
「そこまで言うなら信用しようかな」
「ありがとう……!きっと勝利に導いてみせるよ」
こうして怪盗バトルに勝利すべく、洋介と名乗る者の基地へと向かうこととなった。
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